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月の夜の共犯者 18.

夜も更けて

すこし開けた窓の外からは、風の吹く音が静かに聴こえてきていた。

京都の夜は暑い。
盆地になっているからか、熱気がそこに溜まり
うだるような暑さが辺りを包む。

ソウは眠った。

わたしは…これから先のことを考えなくてはいけない。

△□の神崎…、アイツだけは許せない。
アイツさえいなければ…父さんはこんなことにならなかった。

まだだ、まだアイツを追い詰められていない。
都市開発の件でリークはしたけれど、矢面に立つのは坂城晃、きっとヤツだ。

わたしを使って調べあげた顧客リストを持っていたのも坂城だったし、おそらく神崎の家からは何も証拠が押収されないだろう。

だけど、それじゃダメだ。もっと、神崎を追い詰める方法を考えなくては…

そうして、わたしはふうっと天井を見上げた。
2.5メートルはあるだろう高い白塗りの天井には、ファンがクルクルと回っている。

父さんの言っていたわたしの身体から香る花の匂い

それに引き寄せられるように、松井さんは私に総てを話してくれた。

都市開発のことも、○○コーポレーションとの癒着のことも…。なにかと融通の効く○○コーポレーションの山初専務と組んで、出来レースの競争をさせたことも何もかも教えてくれた。

わたしは、手持ち鞄に忍ばせておいたペン制の録音機を取り出し、再生ボタンを押した。

「奏音…君だから打ち明けるけれど…」

「はい、先生なんでしょうか?」

「わたしは、レセプト報酬を高くするためなら何だってやれる。◯◯コーポレーションの山初は頭のいい男だ。彼に任せておけば、1番利率のいい方法で法人の売り上げを立ててくれる。なにせ接待や外泊その他諸々の費用も総て経費として認識してくれるシステムを導入してくれたんだからね。

それに…これはオフレコなのだが……ーーー」

録音機のボタンをポチッと押した。

さて…どうするか

わたしはもう一度これからについて計画を練り直すことにした。

------ーー

「どうなってるんだ!!!!」

テレビ越しの映像を見ながら俺はテレビのリモコンを叩きつけた。

モニター越しには、△□の前でリポーターが知るはずのない機密情報を取り沙汰していた。

あり得ない…会食の席では誰にも漏れていなかったはず…

坂城も、この一件に加担しているのだから裏切るはずもないだろう。

…とすると、誰がリークしたんだ。

わからない…いや、待てよ?

坂城の部下、確か中原馨と言ったな。
彼女がこれまでの顧客リストのデータを抜き取り坂城に渡していたはずだ。

…とすると、もしかしたらソイツがリークしたのか?

「くそっ…おい、おいっ居ないのか!!」

「なんですか、そんな大声で…言われなくてもちゃんといますよ」

そう言って現れたのは、薄手のカーキ色のジャケットを着た丸福だった。

「丸福、お前もと刑事なんだろ。この事件誰がリークしたのか調べられないのか」

「そんなこと出来るわけないじゃないですか。
刑事は中立の立場でいなけりゃいけないんだから…」

「そんなこと言われなくても分かってる。だが、しかしここで我々のいままでのことがバレてみろ。それこそ、過去の失態まで明かすことになるんだぞ。」

「あー…ハイハイ、例のあの事件ですね。
でもあれはわたし達の手で揉み消しませんでしたっけ?」

「そのはずだ。そうでなければ辻褄が合わない。だが…もし15年前のあの事件の被害者家族が生きていたら…。丸さん、お前報道デスクと繋がりがあるんだろ?一回誰が今回の事件をリークしたのか調べてみてくれないか」

「しょうがないなぁ…それじゃあ一応報道デスクの山本にでも頼んでみましょうかね。」

そういうと丸福は徐に携帯電話を取り出し、電話をかけ始めた。

「山本、スクープだ!株式会社△□が不正なルートで株式会社○○コーポレーションと取引してたらしい。営業機密侵害で内部告発があったそうだ…」

この事件のリークした人間は赦さない。

俺の邪魔をするヤツはどんなヤツでもけして赦さない。



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