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月の夜の共犯者 15.


世の中をうまく渡っていく為にはそれしか方法はなかった。

「馨は花の香りがするね。その香りに男の人が寄ってくることがあるから、気をつけなさい」

そう忠告してくれたのは、他でもないわたしの父親だった。

あの日事故らなければ…
今だってきっとわたしの近くに父さんは居てくれた。

バケツをひっくり返したような雨の日…父さんは肩を落としてウチへ帰ってきた。

「貴方どうしたの、そんなびしょ濡れになって…」母さんがそういうと

「いやぁ…、急に雨が降ってきて、傘も会社に忘れてて…ほんとに参ったよ。しかも大事な書類を会社に忘れてきてしまった。踏んだり蹴ったりだな。また…取りに行かないとだな…」
と父さんは言った。

そのときの情けない顔した父さんの顔は、10年以上経った今でも忘れられない。

父さんは誰よりも人一倍、顧客のことを考え動ける優しいひとだった。そして頼みごとをされたら、なにひとつ断れない根っからのお人好しだった。私はそんな父さんが大好きだった。

会社に書類を取りに戻るからと、
踵を返した父さんに

「ねぇ、ねぇ、馨もついてって良いー?」
といったのは未だ物心つかないほど小さな私だった。

「あぁ、良いよ。馨も一緒においで」

そう言ってくれたときは、まるで雨の日のドライブにでも出掛けたような気持ちで本当に嬉しかった。それなのに、どうして…父さんは事故なんか起こしてしまったのだろう。

父さんは警察に、逮捕された。
理由は東名高速道路で若い夫婦を跳ねてしまったから。警察の調べではアクセルとブレーキを間違えて踏み込んでしまったらしい。

そしてそれを理由にわたしの父親と母親は、わたしが6つのときに別れた。

理由は性格の不一致、だけどそれが直接的な理由ではないことをわたしは本能で感じていた。

父さんは△□に勤めていた。あの、神崎という男によって貶められていたことをわたしは後に知ることになるのだった。


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