番外編 勝又春子さんのひとり言

「はるこ…はるこぉ」
どこからか声が聴こえる。

ああ、迎えに来てくれたのね…
そうして手を伸ばすと
いつも泡のようにその影はスッと消えてしまう。

「あぁ…夢か」
ジョナサンの屈託ない笑顔が浮かんでは消えた。目の前には見たこともない天井。

ここはどこだっけ…?

「母ちゃん、起きた?いまご飯用意するから待っててやぁ」そうやっていい匂いのする台所からジョナサンそっくりの子が出てきた。

ニコッと笑う屈託のない笑顔なんて、本当そっくり。

ジョナサンの弟…かしら?

この前お店に来てくれたときは、ジョナサンに弟がいるなんてひと言も聞かなかったけど…

とにかくジョナサンと関係のある人なのかもしれないわね。

その子が出してくれた筍ご飯と、ほうれん草の煮浸し、それから鯖の味噌煮と佃煮はとっても美味しかった。

「これ、あなた一人で作ったの?」驚いてそう尋ねると、

「母ちゃんにいっぱい食べてもろうて、はよ元気になってもらいたいからな」と言った。

母ちゃんだなんて、まだそんな歳じゃないのに恥ずかしい。

だけど初めて食べるご飯やのに、それはとても懐かしい匂いがした…

「一真、春子は寝たか?」
母ちゃんが横になった傍で爺ちゃんは、悪くなった足を引きずりながら小さな椅子にヨイショっと腰を下ろした。

「うん、ご飯食べたらまた寝ちゃったわ。幸せそうな寝顔して…また俺のこと父ちゃんか誰かと間違えてんのかなぁ…」

「さて、どうやろ?離婚したとはいえ、いまの春子はずっとジョナサンの帰りを待ってるからな」

「爺ちゃん、俺ちゃんと認知症の母ちゃんに優しく出来とる?」

「なに聞いてんねん。お前みたいな孝行息子他にはおらんよ」



…はるこ、はるこぉ…

また私を呼ぶ声が聴こえる。
ジョナサン、わたしはここにいるよ。

どうか迎えにきてね。
ずっと待ってるから



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