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月の夜の共犯者 14.


シトシトと雨が降っている。
6畳1間の窓を開け、アパートの欄干から外を眺める。暫くすると小雨だった雨は叩きつけるような激しい雨へと変わり、周りの景色が燻んで見えなくなった。

あの日もこんな雨だったな。
叩きつけるような雨のなか、僕は東名高速道路を走っていた。

あのとき、もし事故を起こさなければ…
僕の人生は変わっていただろうか。
あの頃の僕は処理をしなければいけない案件を沢山抱えて、寝る間もないほど疲労困憊だった。

叩きつける雨のせいで、
視界が悪くなり焦りと眠気で、思わずアクセルを踏む足に力が入ってしまった。

「あ」
そう思ったときには既に遅かった。

前を走っていた対向車とぶつかり、僕はその対向車を潰しながら乗り上げてしまった。


僕は白いTシャツの袖をめくり、今も残る肩の傷を撫でた。

僕らは意識を失っていたようで、気づいたら病院のベッドの上にいた。

「アレ?馨は…?」

僕はまだ幼い愛娘の馨を探したけれど、
馨の姿はどこにも見つからなかった。

「池水さん、今回の事件のことは過失致死にあたります。そのことで話しがあります」

目の前にいたのは愛娘の馨ではなく、じっと僕を見つめる警察の姿だった。

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僕たちはホテルを後にしたあと、
馨の案内で京都の岩倉に立つ瀟洒なマンションについた。

オートロック式のこのマンションは、部屋数を少なくしている代わりにゆったりとした作りになっていた。

「いいところだね」

「暫く住んでなかったから、換気をするね。」
馨が窓を開けると、部屋のなかのモワッとした空気が一新された。

「ほんの暫くは警察の目を逃れられるかもしれないけど…いつかここも足がつくと思うの」

生成りの色をした質の良いソファに腰掛け、
馨は僕に向かってそういった。

「どうして?この家は君の上客が買ってくれたものなんだろ?今回のリークの件とは全く関係ないよ!」

「ほんとにそう思う?わたしだったら、こんな忖度が絡んだ汚職事件、誰がリークしたんだろうと気になるよ。もちろん、わたし達は間違ったことした訳じゃない。だから捕まったとしても問題ない…表向きは。だけど、社会にすんなり戻れるとは思わない」

「誰かが僕らの情報を売るってことかい?」

窓辺のレースのカーテンがヒラヒラと揺れる。

「…おそらく、だってそうじゃない?ちゃんとした会社であればあるほど、そのひとの身の上を興信所とか使って調べるんじゃないかしら…」

「じゃあ、どうすれば…」

「そのことなんだけどね…わたしネームロンダリングを使おうと思ってるの…」

「ネームロンダリングって、確か新しい名前を闇のやつから買って戸籍から抜けることで、過去の記憶を消して新しい人生をやり直そうとするあれ…?」

「うん…そしてソウと新しい人生をやり直したい。」

馨から漂う花の香りが強くなっていた。

馨は柔和な言葉遣いで僕に近づき、
「お願い…わたしの名前が変わってしまってもこれからも傍にいて…」と呟いた。

馨となら、新しい人生を始めるのも悪くない。

僕はその匂いに誘われて

「分かった」と気づいたら呟いていた。





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