見出し画像

その日、世界の曲線はぐにゃりと曲がって消えた

その日、世界の曲線はぐにゃりと曲がって消えた。曲がって消えたその先の景色は、これまでとは何もかも違って見えた。

夜の10時50分
カンカンカン…と踏み切りの警告音がけたたましく鳴っていた。
最近電車の線路内の事故が多い。

プラットフォームには、ところ狭しと人がたち並び今まさに快速電車が来ようとしていた。
本当はもうすこし早めに会社を出る予定だったが、急ぎの案件が入ってしまいすっかり会社を出るのが遅くなってしまった。
改札口を慌ててくぐり、少しでも空いた電車に乗りたいと思ったが、何せ花の金曜日だ。
一次会の呑み会を終えた人たちがこぞって、プシューっと開いた扉に次々と集まって乗り込んできていた。
そうなると車内はパンパンになり、ほとんど身動きも取れなくなる。
ちょうど帰宅ラッシュに引っかかってしまったのだ。
仕方がない、今日も手摺りに掴まり揺れて帰ろうそう思ってひとつため息をついた。

プアァンと音がして快速電車が駅の構内に滑り込もうとしたそのとき、ブワァアと音が鳴り強烈な突風が駅構内に吹きつけてきた。

なんだ?!この風は…思わず腕を顔の前にやり、足を踏ん張り踏みしめていた。

次の瞬間、さっきまでの景色がスローモーションになり景色がグニャリと曲がるのが分かった。

気がついたら僕は、慣れ親しんだ自宅のベッドの上にいた。ジリリリと耳の奥でけたたましくアラームが鳴り響いているのが分かる。
僕は眠い目をこすり、アラーム音を消した。

あれ…?僕はいま、快速電車に乗ろうとしてたんじゃなかったっけ…?

脳裏にふっと甦った瞬間、割れるような頭の痛さに見まわれてしまった。
頭痛が治るのを待ちゆっくりとベッドから起きてTVをつけた。

時刻は6時20分
テレビのお天気お姉さんが綺麗な衣装をきて
今日は1日天気になることを伝えてくれていた。

そのまま、顔を洗い、歯を磨いて
先日オーダーしたばかりの濃紺のスーツに身を包み、家を出ようとしたそのとき
テレビ画面いっぱいに謎の新型ウィルスについておおきく報道されていた。

「新型ウィルス…?」
僕は聴いたことのない新型のウィルス名に首を傾げながらテレビを消し忘れたことに気づき、慌てて消したあとガチャリと後ろ手に扉を閉めた。

街中にでると、まだ秋だというのに皆んなマスクをしていた。
まるでファッションの一部になってしまったかのような、色鮮やかなマスクに身を包んでいることに僕は気づいた。

あぁ、そうかこれは未来なのかもしれない。
僕が来たのは1999年。
世間はノストラダムスの大予言の恐怖に怯えて、いまか今かと世界の終わりを待っていた。
満員電車に揺られながら、世界はどうなっていくのかとソワソワしながら考えていた。

それがどうだろう、この世界はどこまでも続いているじゃないか。
駅の改札口には、昨日まで僕のいた世界では見かけなかったアルコール消毒液がところどころに並んでいた。

駅構内には彼方此方に、
「ソーシャルディスタンスを守りましょう」
「人との距離の間隔を保って並びましょう」と書いてある。

まさか駅員さんに

「この世界では何が起こっているのですか?」と聞くわけもいかず、僕は茫然とその様子を見ていた。
この世界は、どうなっているのだろう。

腕時計を確認すると、時刻は8時10分を指していた。
ふと前の席に座っていた初老のおじさんの新聞紙の日付に目が入った。
2020年11月21日を指し示していた。

あ…その瞬間頭がわれるような頭痛にみまわれた。グニャリ…曲がって消えた先の景色は、これまでとは何もかも違って見えた。

「……ぶですか?!大丈夫ですか!?」

気がつけば僕は担架で運ばれている最中だった。

「良かった!!突然倒れられて…そのまま意識を失っておられたんですよ!!」
どうやら、僕はグニャリと曲がったその先に、
新しい世界を見ていたらしい。

2020年には何かが起こるらしい。
僕はそのことをそっと胸のなかにしまい、深い息を吐いた。








この度はお立ち寄り下さり、ありがとうございます。ニュイの考えに共感いただけたら、サポートして下さると喜びます!!サポートいただいた分は、今後の執筆活動のための勉強資金として大切に使わせていただきます。