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この国の歴史を学ぶ意味~文春新書『大人の学参 まるわかり日本史』出版によせて

このたび、ご縁により文春新書から『大人の学参 まるわかり日本史』を出すこととなりました。予備校講師にすぎない私が、尊敬する半藤一利氏や保阪正康氏と著者として肩を並べるという身に余る光栄に打ち震えるとともに、「入試問題を一般向けに解説する」という私の仕事が、このような形で評価されたことに、思いもひとしおです。

私が『東大のディープな日本史』以来心がけていることは、独りよがりに面白く書こうとするのではなく、問題そのものの面白さを十二分に引き出すということです。そのような姿勢が、読者に届き、歴史への学びに道を開くと信じています。

しかし、一方で最近は、「この国の歴史を学ぶ意味」ということについて、授業などでも強く意識するようになりました。歴史から学んだことが、物の見方や考え方、さらに言えば、生き方にまで活かされることで、初めて歴史を学んだと言えます。

とりわけ、本書は「大人の学参」というシリーズの一環として刊行されました。目の肥えた文春新書の読者を納得させるだけの内容を具えなければなりません。そこで、本書の執筆にあたって、「この国の歴史を学ぶ意味」をどのように考えたか、そして、それを本書の内容にどう反映させたかについてお話したいと思います。

①「この国の成り立ち」が分かる
 この国の歴史を学ぶ以上、この国がどのようにして成り立ち、今こうしてあるのかが分からなくてはなりません。そして、そのように学んでこそ、歴史は未来への羅針盤となりえます。それは、人名や年号を覚えるということとは、まったく違ったものとなるでしょう。
 私の本には歴史上の有名な人物があまり出てこないとよく言われます。それは、東大の問題がそうだからなのですが、東大の問題の趣旨というのは、個別的な歴史上の人物や出来事ではなく、まさに「この国の成り立ち」にあります。そして、そのような出題をしているのは、東大に限りません。本書では、「この国の成り立ち」を問う問題を京大・阪大など幅広く取材し、古代から近世まで12問精選しました。

②歴史を動かす「原理」について理解する
 「この国の成り立ち」を理解するうえで、どのような力によって歴史が動いているのかを知ることが欠かせません。それは、単純に出来事の因果関係ということにとどまらず、歴史が進んでいく方向性をも規定します。そのような歴史を動かす「原理」を理解することは、この国の歴史をトータルに捉えることにもつながります。
 私が授業でよく用いる説明が、「上から押さえつける力」と「下からわき上がる力」です。支配者の権力が強く統制が行き届いているときは整然とした秩序が形成されますが、逆にそれが弱まると社会の底から新しい力が生まれます。この国の歴史で言うと、前者は古代、後者は中世と言えるでしょうか。問題の解説では、こうした歴史を動かす「原理」の説明に紙幅を費やしました。

③「時代の変わり目」を意識する
 歴史を動かす「原理」は、「時代の変わり目」でこそよく見えます。そして、そのような「時代の変わり目」に着目することで、「この国の成り立ち」も見えてきます。古代社会と中世社会の違いは何か? 江戸幕府の支配体制はどのように変容したのか? 歴史のターニング・ポイントには、現代にも通じる学びが多々あります。
 これは私自身が意識していたことではないのですが、本書のオビに書かれた「時代の変わり目を押さえれば、複雑な歴史がするっとわかる!」という文言を見て、なるほど私はそういう視点で問題を選んでいたのかと驚きました。たしかに、後醍醐天皇や田沼意次に関する問題は、「時代の変わり目」をダイレクトに問うものです。そして、「時代の変わり目」で何が変わり、そして、なぜ変わったのかを詳しく解説しました。

以上が、私が『大人の学参 まるわかり日本史』執筆するにあたって考えていた「この国の歴史を学ぶ意味」です。ですが、面白くなければ学ぼうという気は起りません。その点については、これまでどおり問題の面白さを引き出すことに努めました。ですので、肩ひじ張らず、気軽に本書を手に取っていただければ幸いです。

https://www.amazon.co.jp/大人の学参-まるわかり日本史-文春新書-相澤-理/dp/4166614207?keywords=まるわかり日本史&qid=1692351668&sprefix=まるわかり,aps,216&sr=8-1&linkCode=sl1&tag=teppy88500c-22&linkId=64ccd69bc77f060cdd0482a5568607b4&language=ja_JP&ref_=as_li_ss_tl

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