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茶工場に集う人々(その2)【お茶師日記9】

2019年6月
 前回書いたような経過があって、この工場は2017年秋から新たなスタートを切りました。
 しかしです。いくら地域の茶業を守ると言っても、経営が行き詰まって解散しようかという工場を買い取って採算の取れる経営ができるのか、と誰もが思うでしょう。これについて新社長にはおそらく2つの戦略がありました。
 1つは会社としての「直営農場」を確保することです。茶栽培をやめていく人が続出する現在、茶園は増やせます。家族経営による管理では労力に限界がありますが、法人であれば茶園の拡大が可能です。もちろん拡大するのは、傾斜が緩くて乗用型機械の導入が可能か、もしくは改良によってそれを可能とする茶園に限ります。この地域は傾斜地が多いのですが、近年では市街地に近い平坦な茶園も貸地希望物件が増えています。そちらは早場所ですから、従前の茶園と労力的に競合せず、工場の稼働率も増やせ、売り上げが確保できます。 
 もう一つは、一番茶の生産を経営の主体にしつつ、二番茶や秋冬番茶で飲料原料用の茶を大量に生産することです。地域ではすでに単価の低い二番茶の製造をやめてしまった人が多いのですが、二番茶も秋冬番茶も飲料原料として需要はあります。単価は安いですが、大量に生葉を仕入れて効率的にどんどん作れば儲からないわけではないのです。他の工場が製造しないから、広い範囲から一手に生葉を集めれば量は集まります。
こうして、本格稼働した2018年は、前年と比べて売上高を1.3倍に伸ばしました。

 さて、会社が新体制でスタートすると、今まで社長と副社長が所属していたグループのメンバーは4人に減り、そちらの工場の稼働率が落ちることになりましたので、それならばと今まで共同利用していた工場の製茶ラインを新会社の工場へ移設し、機械の共同利用という形で新会社に関わることとなりました。こちらがマニュアル的な120㎏ラインです。
 また、副社長と同じ地区の自園自製茶農家の後継者であったT君が高校を卒業して就農するにあたり、この会社の社員となって加わりました。 

 このような経過を経て、運営している会社ですので、いろいろな人が参画しています。
 3人の中心メンバーは、社長が主に製茶と販売、副社長が主に直営農場の管理、社員のT君は二人の指導の下、農場管理と製茶を学ぶという役割分担です。
 そして農場管理や工場の管理のために周年手伝ってもらう若いアルバイトさん、製茶シーズンに工場を手伝う職工さん、収穫や運搬を手伝うアルバイトさん、生葉の搬入の受付・計測、小売販売の発送をするパートさんたちなどを雇用しています。収穫や運搬を手伝っている人たちは、定年後や本業をリタイヤした人や、たまたまこの地域に移り住んだ外国人など多彩なメンバーで、本当に楽しそうに働いています。私も製茶シーズンは工場を手伝い、それ以外は茶園管理の手伝いと補助金や認証の事務などを担っています。
 また、製茶シーズンは前述の機械利用のグループメンバーは交代で自分のお茶を作りに来ますし、前体制から引き継いだ生葉生産者が出荷に来ます。そのほか、機械の調整修理を行う機械屋さんなどが出入りし、普段殺風景な茶工場がお茶時期はとても賑やかになります。

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