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【配信を拝診㉓】悪童、角界を這い上がる... 江戸時代から連綿と続く最も有名且つ権威ある競技興行の光と闇の功罪を型破りな少年の成長譚に託したドラマシリーズ『サンクチュアリ-聖域-』

 結論から言おう!!・・・・・・・・こんにちは。
 "近々、奈良の観光地の鹿が、激増した観光客が与える鹿せんべいに食傷気味で見向きもしなくなってる"というニュースを耳にして、なんだかお互いに業が深いな~と思っちゃった、O次郎です。

画像検索してみたらこんな感じで・・・。
小六の時の修学旅行の行き先の一つが奈良でしたが、
確かにせんべいの保持有無にかかわらず此方が近づくと
「ちょうだい、ちょうだい!(๑・﹃ ・`๑)」とワラワラ群がって来てたハズで。
ザ・たっちさんの持ちネタというかエピソードにもそんなのが有りましたね。

 今回は話題沸騰のNetflix独占配信のオリジナルWebドラマサンクチュアリ -聖域-です。
 今年のGW期間中に配信開始となってネトフリのトップ画面に視聴ランキング上位作品としてデカデカと表示されていたので気にはなっておりましたが、TBSラジオこねくと』の「アメリカ流れ者」や『伊集院光 深夜の馬鹿力』で紹介されて絶賛されており、尚且つ近々公開の藤井道人さん監督・横浜流星さん主演の『ヴィレッジ』で印象的な悪役ぶりとステゴロアクションを披露されていた一ノ瀬ワタルさんが主役ということで俄然興味が湧いてほんではほんではと観てみた次第でございます。
 相撲そのものの迫力も然ることながら、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが仰っていたようにNetflixの抜群の資本力で以てして日本相撲協会の協力・意向を仰がずに製作された結果、八百長やタニマチといったアンタッチャブルな暗部も臆さず描き、さらには巷間を賑わせる宗教問題も絡めつつ、それでいて慇懃無礼な少年ががっぷり四つに向かい合い奮闘する姿を通して光も余すところなく見せてくれる秀作です。
 流血や淫靡な描写も含まれはしますが、不遇な家庭環境に在る高卒の少年が飛び込んだ相撲界の内外で執拗な虐めに遭いながらも持ち前の反骨心で跳ね除け、その自信過剰から躓き時には大きな挫折を経験しながらもまさしく摺り足のように一歩一歩地を踏みしめて成長していく様は王道の少年スポコン漫画のそれです。
 それだけに裏を返せば二転三転のどんでん返し展開は無く意外性には欠けるかもなのですが、ストレートな臥薪嘗胆物語を丁寧な演出とキャストの力演が支えており、どの世代でも血沸き肉躍るドラマに仕上がっているように思います。
 今回は作品の感想に加え、僕の幼少期からの相撲に対する思い出も添えさせていただきますので、軽い読み物としてお付き合いいただければと存じます。
 なお、ラストまでネタバレ含みますので、気にされる方は一通り鑑賞のうえどうぞ。
 それでは・・・・・・・・・・・・"ディア・ハンター"!!

鹿といえばディア、ディアといえば『ディア・ハンター』。
たしか十年ほど前にNHK-Eテレでやってた「岩井俊二のMOVIEラボ」って
番組観て岩井監督と未だ存命だった大林宣彦監督が激賞されてたので鑑賞しました。
ベトナム戦争の狂気をロシアン・ルーレットに委託して描いた傑作…
"ロシアン・ルーレット"と聞いて本作のデニーロを思い浮かべるか、
それとも『野獣死すべし』の松田優作さんか…アナタはどっち?(・∀・)


Ⅰ. 僕の相撲の思ひ出ぽろぽろ

 僕は昭和60年生まれでして、物心付く前に千代の富士の現役時代の映像が微かに脳裏に有り、ちょうど修学したぐらいの頃に若貴ブームが到来したので、原体験としての一時代の角界の盛り上がりはブラウン管越しとはいえ感じておりました。
 父は昭和二十四年生まれ、父方の祖母は大正元年生まれで、両人とも"好きなスポーツは大相撲・何よりの好物は餅"という如何にもその世代の地方民という趣味嗜好で、場所中に自分が居間で遊んでいるとテレビの前に陣取った祖母が「貴乃花、ガンバレーーッ!!」と毎日のようにいきり立っていたのを宥めていたのをうっすらと覚えています。( ˙-˙=͟͟͞͞)

そして同時に俄かに思い出すのが宮沢りえさんとの婚約会見。
当時幼いまま偏見のままに「こんなにでっぷりしてるのに
こんなに痩せた美人のお嫁さん貰うなんて、、、お相撲さんってモテるんだな。」
と驚いたのを思い出します。
この数年後に人気を博したともさかりえさんと混同しちゃったりも…。(゜Д゜)
そして子どもにもわかり易い外国出身の曙さんとのライバル関係。
謙虚で正統派な貴乃花に対して敢えて不敵なヒール感を演出していたのかと思うと
後のプロレス転向もむべなるかな、と思ったり。
あと、現役時代の貴乃花関、ファンのことを"フアン"と発音してたのが子どもながらに???でした。
そして豪快ながら持ち前のコミカルさが当時から親しみ易かった小錦さん
引退後の子供向け教育番組やドラマ出演でそのキャラクターを遺憾無く発揮されてましたね。
いつぞやの『ダウンタウンDX』で武蔵丸親方が小錦さんと一緒にフラダンスしてる写真が
流れてましたが、武蔵丸さんも大層ユーモアのあるお方で。

 あとは上記の若貴あるいは曙貴ブームを受けてメディアミックスも行われており、わが心のバイブル的児童誌『コミックボンボン』に柴山みのる先生による『ごっちゃん!若貴ブラザーズ』『どすこ〜い!勝五郎』などの相撲漫画が連載され、巻頭グラビアページに直近の興行のハイライト記事が掲載されたりもしていたのを思い出します。

特に『どすこ〜い!勝五郎』は荒唐無稽な描写も無くは無いものの
地味な特訓や挫折も描いたガチの相撲漫画で、リアルタイムで飛び飛びに
読んでいたものをどうしても通しで読みたくて数年前に国会図書館でまとめて閲覧したものです。
ボンボンのバックナンバー感想文は過去にボツボツ書いておりますので、その続きはいずれまた。
それにしても、柴山先生はその『どすこ〜い!勝五郎』がファーストインプレッションだったので、
80年代のボンボンを読んで同先生の『やっぱ!アホーガンよ』のおゲレツぶりを
目の当たりにした際には唖然茫然でしたね…。(⦿_⦿)

そうこうしつつも、さらに数年の内にサッカーのJリーグが開幕したり我が家にスーパーファミコンがやってきたりして個人的な興味としても世間的な熱としても大相撲人気はやや下火になっていった感が有ります。

あと、地味ながら何故か印象に残ってるのが95年のNHK大河ドラマ八代将軍吉宗』。
たまたま観てた回でたしか吉宗が青年期に相撲を取るシーンが有ったのですが、
演じる当時の西田敏行さんの身体の張りがなんとも見事でオ~ッとなりました、とさ。

 がしかし、、、高校生になったあたりで持ち前の腰の低さと取組前の気合い入れパフォーマンスで一躍人気者になった高見盛関にドハマりしました。

"本人的には至って真面目にやってるのに、傍から見るとどこか滑稽で笑われる"
という気質にどうしようもない親近感を感じました。
過去大怪我をしたトラウマから自身を奮い立たせるため、という背景にも大いに共感しましたし、
受験生の宿命としての毎週末の模試に際して開始前の気合い入れでよくマネをしたもので…。
(゜Д゜)(゜Д゜)(゜Д゜)

 毎場所毎場所、いつも終盤まで勝ち越せるか否かハラハラさせられるのがまたどうにも絶妙で・・・帰宅したら早々に机に向かわねばなりませんが、階下で母に番組をザッピングしてもらいつつ彼の出番が来た時だけ「来たよ!!」と声を掛けてもらって取り組みを観たものです。
 当たり負けしてトホホな表情を見せることも間々有りましたが、失礼ながらそうした詰めの甘さも含めて他人とは思えませんでした、とさ。

 そんなこんなで大学生になって以降はニュースでダイジェスト結果ぐらいは観るものの誰か贔屓の力士がいるわけでもなく、せっかく都内に住んでるのに実際に観戦に行ったりしたことも無くで現在に至ります。
 昔ながらの年寄りがボヤくように"小手先の技は使わず、相手を堂々と受け止めて危なげなく白星を飾る品行方正な横綱が見たい"という意見もわかる一方で、個人的に親近感の湧くお相撲さんが出てくればな~と思ったりしている次第です。

ついこないだ話題になってたデヴィ婦人の観戦のご様子。
彼女に限らず、場所中に毎日同じ砂被り席にどこかの高級料亭の女将さんと思しき
ご婦人が映り込んだりするのはあるあるですね。


Ⅱ. 作品概要


 というわけで前置きが長くなりましたが本作の内容をば。
 監修に実際の角界関係者が入られていることもあってか、主演の一ノ瀬ワタルさんをはじめとして力士役のキャストさんたちは素人目にもそれとわかる力士体型に仕上がっているのがまず圧巻です。

あんこ型も居ればそっぷ型の力士も居り、それぞれの取り組み方も見事の一言。
主人公の猿桜の行う両手小指での懸垂はなんとも強烈です。

 技巧の妙は勿論あれど、その一方で身体が資本の世界。
 上下関係や稽古の厳しさのみならず、生まれ持った資質の差を悟って去っていく者の哀切もさりげなく描いているのもなかなかどうして。

染谷将太さん演じる清水はそれでも相撲愛を断ち切れないために呼出に転身。
絶妙に主人公をサポートしつつドラマを転がしてくれるテリーマン的ポジションはさすが!

 また、主人公の品行方正とはかけ離れた悪童ぶり、金儲けが出発点という邪ぶりは如何にもマンガ的なケレン味に満ちていて小気味良く、演じる一ノ瀬さんの剣呑な雰囲気も相俟って、旧態依然とした伏魔殿に挑むダークヒーロー感に終始ワクワクさせられます。

取り組みに勝利してはガッツポーズ、
インタビューに答えては「相撲界をぶっ壊す!!」と、
品性赤点・アピール満点という具合。。。
逆を言うと他のスポーツ興行ではこうしたビッグマウスは
盛り上げのための必要悪としてよくよく見掛けられるので、
それを頑として許さない角界の異質さがよく判ります。

 また、上述のように八百長問題も臆さずサラリと描写。
 岸谷五朗さん演じる龍谷親方の実子への苛烈な態度や、部屋のタニマチである笹野高史さん演じる伊東のフリーライター安井(演:毎熊克哉さん)を向こうに回してのヤクザ顔負けの脅迫、あるいは新興宗教の教祖としての顔はまさに現実の角界の人物や昨今の事件を彷彿とさせるものであり、社会派ドラマとしての重みも感じさせます。

特に龍谷部屋の女将(演:仙道敦子さん)が八百長を持ち掛けたかどで
親方から追い出される際に実子の新大関の龍貴(演:佳久創さん)に
「龍谷部屋に生んでしまってごめんなさい…」と頭を下げて去っていくシーンは
ドラマとして切ないうえに角界の闇を端的に抉っているようで言葉を失うばかり…。

 汗と土でむせ返る男臭い画の中で華を添える女優陣も見事。
 忽那汐里さん演じる新聞記者国嶋の高飛車ながら芯の一本通った気骨と、主人公猿桜の相撲に次第に虜になっていく真っ直ぐさはまさに時代を超えて観る者の共感を呼ぶ王道のヒロイン。
 他方で、優しい女将としての表の顔に加え、大相撲協会の理事長の娘としての立場も十二分にカードとして切りつつ物語中で終始あの手この手で猿将部屋を妨害する犬嶋親方(演:松尾スズキさん)と相対する花(演:小雪さん)の胆力も素晴らしい限りです。

主人公の屈強さとコントラストを為すような線の細いビジュアルも
まさにスレンダーな忽那さんにピッタリ。
過去に上司との不倫や衝突といった訳アリの過去もあるキャラクターであり、
従来の役どころとは似て非なる新境地なのではないでしょうか。

 そして何より、猿将親方を演じるピエール瀧さんが実に良い味を出しています。
 当人も例の不祥事での転落とそこからの復活を経た酸いも甘いも知る役者さんであり、その人生遍歴がそのまま本作の親方の人間的厚みに昇華されているように感じられてなりませんでした。

古くからの愛弟子である猿谷(演:澤田賢澄さん)の引退に際しての断髪式に際しての
血よりも濃い親子関係を感じさせる一幕は間違いなく本作のハイライトの一幕…。

 そしてまた、主人公猿桜との師弟としてのぶつかり合いはまさしくこれぞというザ・人間ドラマであり、ベタながらこれ以上無い感動をもらえます。

紆余曲折を経て相撲に真っ向から向き合う覚悟を決めた猿桜に対し、
低い姿勢から鋭く当たる現役時代の自身の取り組みを伝授…
礼儀など意に介さなかった主人公が不器用ながらも徐々に師弟の礼を身に着けていく様は
・・・・・・まさに矢吹丈と段下団平のそれや!!

 また、作中の猿桜最大の宿敵にしてライバルである静内(演 :住洋樹)とのこれまた不器用な友情もこれまた見ものです。

元力士で非俳優という事情も勿論あれど、
無口という人となりがきちんと説得力を持っているのは
脚本と当人の佇まいのリアリティーならではであるはずで。
自販機の缶コーヒーを通したやり取りはなんともジーンと来ます。
そしてこの公園、作中何度も出て来るだけに観ている側も思い入れが出て来て、
聖地巡礼したくなったりなんかしちゃったり…。(=^・ω・^=)(=^・ω・^=)(=^・ω・^=)

 ラストは彼との再戦の一番・・・・・・を前にしての幕切れ
 「続編を是非とも作って欲しい!!」と観客を煽る意図は当然ながらあるでしょうが、一方で個人的にはこれで区切りとしたことは製作陣の大英断だったようにも思います。
 というのも、主人公の型破りな登場、周囲との軋轢、決定的な敗北を経験しての挫折、そこからの再起をかけての猛特訓(『ロッキー』的な坂上りはややっぱり熱アツ!!)、そしてリベンジマッチ……スポ根ドラマの金型の数々を、連続ドラマとして実に巧みに計算して描いてあるように思います。
 それだけに、この後を描くとなると、エッセンスとしては繰り返しになってしまうことは否めないかも…とも思ってしまうわけで。あるいは、主人公以外の人物のエピソードの掘り下げ、そして新キャラクター、さてもさても新キャラクター、、、という。

あとは、スポ根ドラマとしての盛り上げ展開の鉄板としては
"必殺技を編み出す"ってところでしょうが、それをやるとあまりにマンガ的過ぎるか…。

 身体作りという意味でも力士は他のスポーツとは明らかに異質でしょうし、役者さんとして他のドラマに出演することを考えると、つぶしが効くがどうかの点でも本シリーズに拘束し過ぎるのもどうかとは心配にもなってしまいました。


Ⅲ. おしまいに

 というわけで今回はNetflixのドラマシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』について語りました。
 相撲の思い出語りの中で漏れていましたが、92年の監督・脚本が周防正行さん・主演が本木雅弘さんの『シコふんじゃった。』の大ヒットが有りました。

あの作品もそういう意味では続篇映画が作られなかったことがむしろ評価を高めたのかも?
といいつつ、続編ドラマがこないだ配信されてて未だ観てないんですが…どう?(・ω・)

 本作はあの1シリーズで終わりとして正解かも、と思いつつも、シーズン2が発表されたらやっぱり期待するだろうな、というわけで。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・・どうぞよしなに。






「相撲で面白いドラマなんかなかなか作れないんだから!!」ということで
伊集院さんがラジオで引き合いに出されていた斉藤由貴さん主演ドラマ『待ったナシ!』(1992)。
まだ若手だった伊集院さんが学生横綱役で出られてて、
やくみつるさんに「あんな乳の垂れた横綱が居るか!!」と苦言を呈されてたそうですが…
そうまで言われたら再放送あったら観てみたいなぁ。(´・ω・`)


※ちなみに上で言及した過去に書いたコミックボンボン関連の記事は以下の通りです。
休日に国会図書館に足を運んでバックナンバーをちょくちょく読んでるんですが最近は行けておらず…。
よかったら併せて読んでちょ。


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