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【最新作云々77】汚職は続くよ何処までも... 小悪党二人が人生最大の危機にエゴと保身の火花と血飛沫を散らせ、諸共突っ込むバニシング・ポイント映画『最後まで行く』

 結論から言おう!!・・・・・・・・こんにちは。
 スタちゃんことシルベスター=スタローン主演の『クリフハンガー』の続篇企画が進行中、というニュースを聞いてなんとも複雑…なO次郎です。

※というわけでメインテーマ曲をば。ロッキーやランボーのテーマと比べると知名度は俄然下かもだけど、未だに映像なんかでどこぞの急峻な雪山を見ると個人的にはこのテーマを思い出したりします。
作品としては当時大ヒットしたのでスキー場のゲレンデのBGMで掛かったりするのかと子どもながらに思ってたんだけど・・・渋過ぎるか。( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
"その昔、一角の人物だった男性が大きな過ちを犯して挫折して無為の日々を過ごし、やがて目の前に立ちはだかる困難を前に誇りを取り戻す"というスタちゃん主演作の中で何十回と繰り返されているドラマツルギーですが、スタちゃんの年齢的にもヒットの途絶えた低迷期的にも本作が一番現実とシナジー起こして迫真だったのではないかと思います。
相当に年齢を経ていることだし、『』(1956)でのスペンサー・トレイシーみたいに血気盛んな若者や怪我人の救助のために命懸けで老骨に鞭打って山に挑むような展開になるのかな…?


 今回は最新の邦画『最後まで行くです。
 5/19(金)劇場公開ですが、つい先日、試写会に当選して一足お先に鑑賞して来ました。
 2014年の韓国映画のリメイク作品ですが、既に2017年に中国版、2022年にはフランス版のリメイクが製作されており、今回の日本版が3回目ということのようです。
 それだけ何度も下敷きにされるということはさぞや名作なんだろうというところですが、原典の韓国版は長いものに巻かれて小さな不正を重ねてきた小狡い公務員がモラルに惑いながらもあれよあれよという間に罪を重ねていってしまう展開が日常のリアルと非日常のスリルを上手いこと包摂しており、たしかにどこの国に置き換えても普遍的なドラマとして機能しそうです。また、韓国映画にしては珍しく丸2時間で収まりどんでん返しも多用されず比較的ストレートに話が進んで蛇足が無いため、リメイク時に物語展開のアレンジがし易いのもあったかと思います。
 サスペンス、スリラー好きの方々、あるいはキャストお目当ての方々も鑑賞の参考までに読んでいっていただければ之幸いでございます。
 いつもながらですがラストまでネタバレ含んでますので、避けたい方はご鑑賞後にどうぞどうぞ。
 それでは・・・・・・・・・""栗ご飯が~~~!!!"

そして『クリフハンガー』といえば
ボキャブラ天国」でのこのダジャレも思い出しちゃう…。
バラエティー番組観てるとよく母から「またバカ番組観て!!」と小言を言われたものですが、
あの番組は特に蛇蝎の如く嫌ってたような。
映画やドラマがダジャレのモチーフとなることが多かったですが、
毎回の再現Vの役者さんの絶妙な似てなさ加減も個人的にはツボでした、とさ。


Ⅰ. 作品概要

 岡田准一さん演じる所轄刑事工藤が母の葬儀と汚職追及の重なりで焦りが頂点に達したとある深夜にある人物を車で撥ね殺してしまい、咄嗟に隠蔽しようとしたことから彼を追う監察官矢崎を演じる綾野剛さんに追いつめられていくが、矢崎は矢崎でのっぴきならない事情を抱えており・・・というクライムスリラー。
 原点の韓国版では主人公よりも監察官の方が年長であり、常に余裕の相手を前に"蛇に睨まれた蛙"状態の中で必死に起死回生の一手を模索するスリルが際立っていましたが、邦画版では離婚寸前の家庭環境とヤクザとズブズブの関係を抱えた中年刑事が若手エリートの奸計にけんもほろろの構図が強く、血腥い描写ももちろん多々有りつつも中間管理職的悲哀が色濃いのがなかなか面白いところです。

そして何と言っても、ある時は剣豪、またある時は凄腕殺し屋、あるいは狂犬刑事…
といったように人間離れした強さと人格を備えた超人的役柄がすっかり板についた感のある
岡田さんが、目の前の危機に只管怯え狼狽し取り乱す情けない中年男性を体現してるだけで尊い!!
・・・そのぶんいつもの強さは大分抑え目ですが、この際それは良しとしましょう。

 対する綾野さん演じる監察官はというと、表向きは警察幹部の娘との結婚も控えて出世街道まっしぐら…ながら裏では政治家への献金用の裏金作りに奔走しつつ、子飼いのチンピラに裏切られて金を持ち逃げされ、進退窮まって脅しと暴力の連鎖に身を委ねざるを得ない始末。
 こうした公権力とアウトローとの公然の繋がりやトカゲの尻尾切り的な詰腹劇はむしろ韓国映画のお得意とするところでありながら本家韓国版ではそのへんがかなりオミットされており、監察官側のドラマはかなり淡白でした。
 それをそのままあるべき形へと膨らませたからか、ストーリー展開的にも綾野さんの見せ場としても申し分無い次第ですが、オリジナルの韓国版よりもむしろ暴力描写がエスカレートしている逆転現象とも言うべき構図はなんとも意外な感が有りました。

事件の発端となった工藤の不慮の轢殺を追求するシークエンスは
電話口での綾野さん特有の若干の活舌の甘さも相俟って正体がモロバレなのは致し方無しか…。
ただ、"正体の解らない相手に脅される恐怖"ではなく、
あくまで"嘘の塗り重ねで取り返しがつかなくなる絶望"が本作の持ち味なので、
そこのところの楽しみ方さえ弁えておけば問題ナシだと思います。

 他に今回の邦画版の特筆すべきところとして挙げられるのがヤクザの権謀術数的老獪さでしょう。具体的には「仙葉組」の組長仙葉を演じる柄本明さんの存在感が凄まじく、物語が進むにつれてボディーブローのように効いてくるその怪演ぶりは作品全体を食ってる感すら有りました。
 韓国版の方ではそもそもヤクザというよりは警察内部の良からぬ勢力のいざこざに巻き込まれる構図で、もしヤクザが絡むとしても究極の暴力装置としての立ち位置が想起されますが、本作ではヤクザが直接的な暴力はほぼ無しにも関わらず各セクターに根回ししてしっかりと楔を打ち、互いに争うよう差し向けて最終的に漁夫の利をまんまと得ます。
 主人公工藤に日頃から賄賂を求められながらもそれによって組の安全と相手の弱みを握り、工藤を"砂漠のトカゲ"に擬えて大金をせしめて別天地へずらかるよう唆し、他方で実は工藤が轢く前に監察官が直前に打ち殺していたチンピラを篭絡して彼が監察官側を裏切るよう前以て差し向けていた・・・。
 人徳も感じさせる柄本さんだけに実に厭なリアリティーで、周囲の人間からの畏怖のみならず信頼も縋る声もその全てを最終的に漏れなく金に換えるその徹底ぶりこそ本作最大のホラーでありスリラー要素かもしれません。
 
 他方、本家韓国版よりも家族愛要素も強調されており、韓国版では主人公が既に離婚していて幼い娘を同居する休職中の妹夫婦に世話してもらっているなかなかややこしい状況なのに対し、今作では離婚寸前で別居中なものの娘と妻に未練が…という整理された親族関係になっていることからも伺えます。
 家族への愛が有るからこそ最後の最後に決定的な罪を犯す前に踏み止まれる。しかしそこに至るまでのいくつもの大小の罪を犯したのは、紛れも無く家族の愛ゆえでもある。
 本作を監督されている藤井道人監督は直近作品の『ヴィレッジ』含め、こうした平凡な個人の小市民的愛情から来る罪の皮肉の連鎖をよくモチーフとしていますが、本作の主人公工藤も間違い無くその軛の中に在ります。

物語のラスト、仇敵の矢崎をどうにか退けて後、
政治家から寺に納められたマネーロンダリング用の大金に辿り着く工藤。
オリジナル版では目の前に大金に思わず笑みが零れるところで幕を閉じますが、
本作ではいったん手を出した札束を葛藤の末に手放します。
掲げたテーマが回収された場面であり、悪党が蔓延るばかりだった世界に
微かな光が示されたという面でもホッとした次第で。(o´罒`o)

 そしてクライマックスはオリジナル版以上にゾンビの如く何度も甦って工藤の前に立ちはだかる矢崎とのいつ終わるとも知れないカーチェイスでフィニッシュ!!
 向かう先は『バニシング・ポイント』という感じですが、なんだか原作雁屋哲先生・作画池上遼一先生による漫画男組』をも思わせる"男のどうしようもなさ"感も有り。

工藤にしても矢崎にしても、己の保身と目の前にぶら下がるニンジンについ目を奪われる
小悪党には違い無く、そういう意味ではショボさ爆発なのですが、だからこそ現実と地続きの
一定のリアリティーを感じさせるわけでもあり。

 ただ一つ気になったところとしては、亡くなった母親の存在が物語上、置き去りにされている点でしょうか。
 韓国版の方では儒教精神からしてもっと親の倫理観と己の犯した罪との相克が描かれるかと思いきやそうでもなく、こちらの邦画版の方でも、工藤を女手一つで育ててくれたシングルマザーという設定が肉付けされているにもかかわらず、工藤が板挟みになるにはあくまで娘と妻への不義理であって、母親との思い出や幼少期の教えが絡んでくることは無く、そのあたりが意外というか些か勿体無い感じはしました。
 ただまぁ、そちらを重視すると今度はそれはそれで物語的に浪花節が過ぎてメロドラマが過ぎる可能性も出てくるので、単体映画、それもクライムスリラーとしてはこれで最適解だったのかもしれません。


Ⅱ. おしまいに

 というわけで今回は最新の邦画『最後まで行く』について語りました。
 主にオリジナル版からの肉付けとそれによる味付けの観点で観てましたが、主演の岡田さんと綾野さん、そして上述の柄本さんの怪演に加え、脇を固める広末涼子さん、駿河太郎さん、磯村勇斗さんも他作品のイメージとは違った面が見られて収穫でした。特に駿河さん演じる同僚の久我山と工藤との腐れ縁的友情は描写は短いながらも胸に残るものがあり、その方面で話を膨らませるのもアリだったかもと思いました。
 ともあれ、ハードコア映画としても俳優映画としてもそれぞれの方向で楽しめる佳作だと思います。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・・・・どうぞよしなに。




冒頭のボキャ天の話の続き。
トキワ荘マンガミュージアムで今現在開催中の
W50周年記念 デビルマン×マジンガーZ展」に
行ってみようかと思ってるんですが、そういえば
こんなネタも有ったなぁ…ていう。
マジンガーと機械獣の着ぐるみのやっつけ感がたまらん。(゜Д゜)



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