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子どもたちも子牛たちも健やかな成長を見守る人たち

 栃木県佐野市下羽田町にあるYファーム佐野。豊かな田園地帯に位置する牧場には、たくさんの牛たちがのんびりと暮らしています。佐野市出身ならば、子供の頃に毎日お世話になっていたことをご存知でしょうか。今回は佐野市の食文化を支えるYファーム佐野の山﨑恵さん(メグさん)にお話を伺いました。

お話を伺った山﨑恵さん(右)と代表の山崎税(ちから)さん(左)

学校給食の牛乳は地元の牧場から届いていた

 牧場に到着するとまず飛び込んでくるのは白と黒の模様の大きな牛たち。白と黒の模様はホルスタイン種という乳牛、すなわち牛乳を出してくれる牛種です。ちょうどお食事の真っ最中でもりもりと草を食んでいました。お気に入りの餌が来ると目の色を変えて喜んでいます。か、かわいい・・・!
 ここで搾られた牛乳は両毛酪農協同組合に運ばれ、加工・パッキングされます。両毛酪農組合は足利市と佐野市の酪農家7軒で自社工場を持ち、牛乳やヨーグルトを生産・販売している組織です。ここで作られた牛乳が両市の学校給食として提供されています。私も佐野市出身なので、カタクリの花や牧場の絵柄など、今日はどの絵柄に当たるのか楽しみに過ごしていましたのを懐かしく思い出しました。

さのまるがかわいい両毛酪農組合の商品


 スーパーに行くとたくさんの種類の牛乳が並んでいます。特に産地を気にすることなく、低脂肪や機能性の方に気を取られてしまうこともしばしば。最近では植物性ミルクの種類が増え、ますます選択肢が増えました。もし地元で牛乳が作られていることを知っていれば、きっと1番に手に取るでしょう。新鮮さには敵いません。市内近郊で作られた牛乳がスピーディに私たちのもとに届くというのも田舎ならではの贅沢ですよね。

人間より体温の高い牛。搾られたばかりの生乳はほんのり温かい

サスティナブルな牧場運営

 Yファーム佐野では、乳肉複合経営(ちちにくふくごうけいえい)という手法をとっています。乳牛のホルスタイン種と肉牛になる和牛が暮らしています。牛だけでなく牧場全体が循環可能な運営をされていて目から鱗でした。
 まず牛たちの飼料。ホルスタイン種は自社で育てている飼料イネを主に食べます。まだ青いうちに実も葉も一緒に収穫し、飼料稲サイレージ(※1)で発酵させます。ほんのりヨーグルトのような香りがしました。一方お母さん和牛には稲ワラをサイレージで発酵させたものと田んぼで乾かしたものを与えるそうです。稲ワラは稲作農家さんからいただき、堆肥と交換しているそうです。牧場内でも牧場外でもいい循環が巡っていますね。

※1サイレージ・・・牛の飼料作物(えさになる稲など)を容器であるサイロ(Yファーム佐野ではビニールシートで封)などで発酵させたもの

発酵させた飼料イネを夢中で食べる牛たち


 食事が終わると長い時間をかけて消化され、最後に排泄されます。この排泄物も堆肥として再利用されているんです!実はこの堆肥は、栃木県堆肥共励会で最優秀賞を受賞したそう。良質な堆肥は個人でも購入が可能です。家庭菜園をされている方はお気軽にお問い合わせしてみてください。

牛の排泄物と土を混ぜ合わせて良質な堆肥ができる


 そして1番びっくりしたことはお産。なんとホルスタイン種のお母さんから和牛の赤ちゃんが生まれてきます!受精には2つの方法があります。
 ひとつは和牛のお父さん牛の精液を人工授精させる方法で、交雑種(F1)が生まれます。生まれた子牛はところどころ白い模様があるのが特徴です。もうひとつは和牛同士の受精卵をホルスタインに移植する方法です。この方法では真っ黒な和牛が生まれます。いわゆる代理母出産です。乳牛がお乳を出すために出産する必要があります。その時に和牛を産むことで市場のニーズにも応えていける仕組みです。

生まれたばかりの子牛


 ちょうど取材時には専門の方が人工授精をする様子も見学できました。慎重に牛の様子を観察しながら適切なタイミングを見計らうそう。「人間に比べて牛は痛みの感覚が少ないみたい。だけどできる限り痛みや不快にさせないようにしないとね。」とメグさんは話します。生き物ですので、人間同様に牛それぞれのタイミングがあり、必ずしも着床するわけではありません。しかし新しい技術がどんどん進んでいることと、様々な有識者や専門家たちが関わっていることを伺い知ることができました。

名前で呼び、デジタルも活用。我が子のように子牛を育てる

 この牛舎では毎月10頭ほどの子牛が誕生するそう。私にはみんな同じ顔に見えますが、メグさんにはそれぞれの顔や性格がインプットされています。「草食動物だし群れで生活する動物だから基本的には臆病なの。」と教えてくれました。確かに初対面の私が通ると、そそそとあとずさり。その中でも甘えん坊、のんびり屋さん、わんぱくな子など様々な性格の子たちが暮らしています。
 以前は番号で管理されていた子牛たち。ここでは生まれた時に名前がつけられます。もともとはメグさんのお嬢さんの提案だったそう。餌やりのお手伝いをお願いしたところ、「生きている牛を番号で呼ぶのは嫌だなぁ。」と仰ったそうです。そこから生まれた時に名前をつけて、その名前で毎日声をかけるそうです。「きっと自分の名前を識別しているわけではないけど、この声で餌の時間だ!とはわかっているみたい。早く〜と言わんばかりの甘えた声で鳴いて待っているのよ。」と、今か今かとメグさんのお手製ミルクを待っている子牛たち。相互コミュニケーションが成立していました。

父牛の血統と、名前がわかるようになっている


 さらにYファーム佐野ではIoT(※2)を導入しています。1頭1頭にセンサーをつけ、クラウド上で体調を管理しています。製造だけでなく加工や流通も伴う牧場運営において、DXは今まさに熱い市場なのかもしれません。   
 これによって受精のタイミングや出産のタイミングもスマホアプリに通知が来るそうです。例えば妊娠中の牛は、出産間近になると体温が1℃下がります。センサーが体温を検知することで翌日のお産に準備万全でサポートができるそうです。それだけでなく日々の活動量から体調を把握したり、出荷する際の作業効率が軽減されるなど、牧場運営の効率が上がっているそう。 
 デジタルを導入する際、既存の運用が変わったり初期設定が大変なのでよく現場から不満の声が上がります。そういった抵抗感はなかったのかと聞いてみると、「最初のデータ登録は大変だったけど、几帳面なお兄ちゃんがやってくれたの!」と家族で助け合って解決したそうです。牧場内に漂う優しい雰囲気は山﨑家そのものなのだなと感じました。

※2 IoT・・Internet of Thingsの略称。モノ(センサー機器、駆動装置(アクチュエーター)、住宅・建物、車、家電製品、電子機器など)が、インターネットを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換する仕組みのこと。
【参考】Amazon Web Service IoT とは? (Internet of Things - モノのインターネット) | AWS (amazon.com) 閲覧日2024/3/22)

スマホアプリで牛たちの一元管理ができる


 子牛は生まれてから2〜10ヶ月ほどYファーム佐野で育った後、肥育農家に出荷されます。そう長い時間をここで過ごすわけではありません。けれどもその2ヶ月間たっぷりの愛情を注がれ、次の農家さんへ渡り、和牛として育ちます。少しセンチメンタルな気持ちにもなりますが、ありがたく大切に命をいただくことが私たちにできることではないでしょうか。


お互いにびびりながらコミュニケーションを図る

取材を終えて

 佐野市の食文化を支えるYファーム佐野のメグさんと税(ちから)さん。先端の技術を取り入れながら、牛や自然、そして自分を大切にする時間を作っていました。きっと私たちの想像できないようなトラブルやご苦労もあるかと思いますが、お二人の醸し出すおおらかさや前向きさでこれまで乗り越えてきたのではないかと感じました。

 牛はお食事の時間がとても長く、食べ物を一度胃に入れてから再度口の中に戻す「反芻」をする動物です。この反芻はストレス度が高いと見られないそうです。訪問した時はお食事中でしたが、帰り際には牛たちの反芻をたくさん見ることができました。ここが牛たちにとってのコンフォートゾーンなんだなと牛たちから伝わってきました。

 手塩にかけて育てられた新鮮な牛乳は学校給食のほか、両毛酪農業協同組合から牛乳やヨーグルトが販売されています。両毛酪農協同組合さんによると、佐野市では道の駅どまんなかたぬま佐野市観光物産会館で、足利市や館林市での直売所で購入可能です。さのまるが目印です!
また、よつ葉生協(対象地域は栃木県・茨城県・群馬県・埼玉県)にも出荷されているそうです。
ぜひ地酒ならぬ地ミルクを味わってみてくださいね。


🐮 株式会社Yファーム佐野 栃木県佐野市下羽田町649
 牧場では堆肥販売を行っていますので、Webサイトよりお問い合わせください。
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