#001. AOR系ベテランルーキー、MEMORIA AVENUEが誇示した北欧の血。
はじめに
フランスの哲学者モンテスキューが著書「法の精神」の中で、気候が人間の性格に影響を与える可能性を示唆しているのはご存知だろうか。
要約すると「冷たい空気に対応するために、人間は血流を増加させる。それ故に、寒い地域に住む人々は、温暖な地域に住む人々よりも性格的に勇敢である。」といったような内容だ。
もちろん、1748年に出版された本なので、モンテスキューは当時の科学に基づいて推論しているわけだが、なかなかに面白い指摘だと思う。
これを南北に長い日本列島で考えてみよう。
例えば、同じ日本人でも、北国に住む人と南国に住む人の性格は、決して同じということにはならないと思う。
もちろん、あくまでも傾向の話だが。
南国に比べて気温の低い北国では農作物の生育が悪く、その出来次第では寒い冬を越すにも大変な苦労を伴う。
明治期以前に、大飢饉が発生したのも東北が中心だったのがその証左だ。
冬が長い分、生命活動が脅かされるわけだから、必然的に日常生活には緊張感が生まれるだろうし、果たしてそれが人間の性格に与える影響は推して知るべしだと僕は考えている。
では、地球温暖化は今の現代人の性格に、一体どのような影響を与えているのだろうか。
これについては未だ結論は出ていないものの、先のモンテスキューが仰る通り、気候風土と人間社会が相互的に密接な関係にある、ということそれ自体に間違いはないだろう。
そうして考えると、人間社会の中で産み落とされる芸術文化諸々の類いも、限りなく気候風土の影響を受けていると言えなくもない。
なぜなら気候の影響を受けた人間が、その手で製作しているのだから。
今回はこれを前置きとして、北欧はノルウェー出身のベテランルーキー、MEMORIA AVENUEを紹介しようと思う。
さて、MVをご覧の通り、その音楽性は北欧由来の美しい旋律を主体としたAOR系のロックに仕上がっており、所謂「メロディアス・ハードロック」好きにも決して無視することの出来ない作品である。
北欧出身のバンドがなぜこれほどまでにメロディ重視なのか、これについては諸説あるけれども、先ほど述べた気候風土の影響に加え、当地に伝承される神話や民謡といった民族文化からの影響が大きいのではないかと思う。
かたや日本にも古くは和歌であったり、民謡や演歌といった土着文化が存在しており、それは刷り込みのように我々日本人のDNAに深く根を生やしていることは否めない。
つまり、俗に言う「心の琴線に触れるメロディ」というのは、各国の土着文化に由来している可能性が高い、ということ。
一方で、音楽的に似たようなサウンドを鳴らすバンドでも、出身地の違いによって世界観や雰囲気が全く異なっていたりすることはよくある。
分かりやすいところで、アメリカとヨーロッパではバンドの醸し出す雰囲気からして、まるで異なる態様が見受けられるのは一体なぜなのか。
これについて、北欧のフィンランド出身であるフォークメタルの第一人者、KORPIKLAANIは以下のように述べている。
日本のHR/HMファンにはご存知、KORPIKLAANIは北欧の民族音楽をメタルミュージックと融合させ、シーンの起爆剤としても一躍有名になった存在だが、やはり気候風土への言及は見逃せない。
さらにこのインタビューで興味深いのは、北欧諸国でも国によってバンドを取り巻く環境に大きな差異があることだろう。
(この辺りの考察は長くなってしまうので、また別の機会に譲りたい。)
MEMORIA AVENUEの話に戻そう。
彼らの哀愁漂うメロディを聴けば、北欧出身であることに気付くだろう。
そして40代以上のハードロックファンにはきっと好印象に映るはず。
というのも、ミレニアム世代以上の方なら、過去に産業ロックと呼ばれたムーブメントを体験済みだからだ。
一方で、Z世代と呼ばれる若い方には、音楽的にも見た目的にも懐古主義的というか、どこかノスタルジックな風情を感じる向きもあると思う。
実はこれ、風情でも何でもなく、彼らは正真正銘のベテラン達なのだ。
すでにバンドの概要については上でも引用した通り、中心人物のTor Talleは過去にNORTHERN LIGHTというメロハー系のプロジェクトに参加していたギタリスト。
2005年に日本盤もリリースされているので、記憶にある方もいるかもしれない。
ちょうどYoutubeに音源を見つけたので、参考に貼り付けておく。
このプロジェクトには僕が敬愛するカナダ人ボーカリスト、Rob Morattiも参加しているので、状態の良い中古盤を見かけたらぜひ購入したいところ。
音楽性もその筋が好きな人にはドストライクとも言えるし、そもそもMTMレーベルからのリリースなので、内容に偽りなしのクオリティだろうと思う。
再び、MEMORIA AVENUEの話に戻す。
このデビュー作は全12曲(日本盤は13曲)収録でボリュームも十分だ。
全体的にはミドルテンポの楽曲が多く、例えば1980年代前後に活躍した産業ロックと呼称されたバンドが好きだった人には、恐らくきっと、極上の多幸感を味わえることだろう。
言うまでもなく、JOURNEYやFOREIGNER、SURVIVORを聴いていた人にはもちろん、少し前だとBAD HABITやSHY、最近だとPLACE VENDOMEやWORK OF ARTなどを好む方々には、問答無用でオススメできる逸品である。
個人的には9曲目の「If You Fall」のアレンジには思わず腕組みをして唸ってしまった。
SDGsで令和な時代にして、清々しいほど大胆に付点8分ディレイを駆使したイントロ&バッキングなのである。
いやこれ、ギターを弾かない人には全くもって意味不明だと思うのだが、この機会に付点8分ディレイという言葉は覚えておいても損はないと思う。
(たぶん得することもない。)
例えば、邦楽で分かりやすいのは、PERSONZやLUNA SEAあたり。
参考となる楽曲を貼り付けておくので、興味のある方はイントロのギターに注目して聴いてみて欲しい。
このように、ディレイというエフェクターを使うことによって独特な浮遊感を出す奏法であり、現在ではあまり注目されないテクニックの1つでもある。
ちょうどYoutubeで解説動画を見つけたので、これからギターを始めようと思っている方は、ぜひ見ておくべきだろう。
再び、MEMORIA AVENUEの話に戻したい。
今回のデビューアルバムはサウンドプロダクションも良好で、躍動感あふれるVocalの歌唱力にも安定感があるため、終盤まで心地良く聴くことが出来る。
加えて、全曲シングルカットでも通用しそうなほど、キャッチーでポップなAOR系の歌モノがズラリと並んでおり、内容に対する満足度は非常に高い。
その春風駘蕩な音楽性とは裏腹に、常に美しいコーラスを意識したアレンジは、まさに北欧出身の意地とプライドの結晶とも言えるのではないだろうか。
ちなみに、ドイツ出身のバンドでFAIR WARNINGと言えば、泣く子も黙るメロハー系の重鎮としても有名だが、当時ベーシストでコンポーザーを担当していたUle W. Ritgenは次のように語っている。
重ねて申し上げるが、こうした美しいメロディを重視した楽曲は、北欧神話などスカンディナヴィア特有の土着文化を背景にして生まれている。
加えて、冷たく寒い気候風土がその世界観の醸成にも一定の影響を及ぼしていることは、本稿の冒頭でも述べてきた通り。
ともすれば、これが北欧産の音楽の特徴であり、そしてまた、寒い冬を毎年過ごす日本人の耳さえも、容易に釘付けにしてしまう要因なのである。
この曲を聴け!
それではMEMORIA AVENUEのデビューアルバムの中で、僕が特に気に入っている曲をピックアップしてみよう。
それは5曲目に配置されている「Waiting Forever」という曲。
静かに始まるイントロからAメロ、サビ、そしてギターソロに至るまで、本作の出来を象徴するかのような、素晴らしい楽曲に仕上がっている。
歌詞の世界観とも齟齬はなく、このポジティブ且つエモーショナルな雰囲気は、今後のMEMORIA AVENUEの将来性を強く印象付けたと思っているのだが、果たしてどうだろうか。
もちろん、他の楽曲も負けず劣らずの内容であり、驚いたことに本作は「捨て曲」に該当するような曲があまり見当たらない。
ベテランルーキーのデビュー作とはいえ、驚異的な完成度の高さだ。
ただ、アップテンポの楽曲が少ない等、所謂ハードロックな成分が薄い為、全体的にサウンドにエッヂが足りないという不満はある。
気の抜けた炭酸、とまではいかないけど、猫も杓子も強炭酸が流行っている現代音楽事情からすると、少々ソフト過ぎるという評価があってもおかしくはない。
さらに言うと、前半の流れはパーフェクト。
しかし、後半になるとその選曲のせいか、ちぐはぐな印象もあり、やや失速気味になっているのも気になってしまった。
出来ればもう少し、後半に配置された楽曲のアレンジをブラッシュアップして欲しかったと思う。
とはいえ、彼らにとってこれがまだ1stアルバムであることを考えれば、今回の不満点は許容範囲の微々たるもので、むしろ次回作への期待の表れだ。
何はともあれ、北欧ロックのベテラン達が集い、その名に恥じない作品を見事に完成させた事実には変わりない。
まさに北欧の血というものを、見事に誇示してくれたと思う。
そしてまた、今がちょうど季節的にも冬真っ盛りということもあり、彼らのサウンドを身近に感じる良い機会である。
旬の食べ物は、旬の時期に食べるのが美味しいという理屈でもって、ぜひこのアルバムも「食通」である皆さんに手に取って頂きたいと思う。
総合評価:87点
文責:OBLIVION編集部
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