#004. ノルウェーの新人バンド、ZELBOが目指すAORプログレ摩天楼。
はじめに
イタリアの老舗モーターサイクルメーカーと言えば、MOTO GUZZIだ。
その歴史は第一次世界大戦直後の1921年まで遡る。
我が国のHONDAが初めてバイクを市販したのが1947年なので、いかにMOTO GUZZIの歴史が古いかお分かり頂けるだろう。
しかし、第二次世界大戦下では自社工場が軍需生産に切り替わり、主力製品であるオートバイを製造出来なくなるなど、歴史が長い分、MOTO GUZZIは紆余曲折を経て今に至っている。
代表モデルは、やはりV7ということになると思うが、これは縦置き90度Vツインエンジンと呼ばれるもので、現在でもその骨格及び設計は大きく変わらずに受け継がれている。
最初に市販化されたのは1967年、、、今から50年以上も前のことだ。
MOTO GUZZIはこのV7のおかげで倒産を回避したとも言われている。
その後、1981年には傑作として名高いLe Mans 3が日本でも好セールスを記録する等、知名度及び信頼度も格段に向上。
これも全て、縦置き90度Vツインエンジンという、このメーカーにしかない独自性と堅牢性が認められたからこそであろう。
良い機会なので、今でも新車販売されているV7も写真でご覧頂きたい。
上の過去モデルと比べても、エンジンの構造及びスタイリングに大きな変化がないことは一目瞭然かと思う。(下が最新モデル。)
ということで、僕は生粋のバイク乗りなので、このまま朝が来るまで語り続けられるけども、キリがないので一旦ここで切り上げたい。
とにかく、今回僕が言いたかったことは「変わらないものにも、それ相応の良さがある。」ということ。
人類の科学技術の発達は目覚ましく、加速度的に古い技術がレガシーとして切り捨てられていく昨今、MOTO GUZZIのように、昔のエンジンのまま未だに奮闘しているメーカーというのは大変貴重だと感じている次第。
今や世界中でもSDGsが叫ばれて久しいけども、バイクもクルマ同様にガソリンエンジンが風前の灯火となっているわけで、例えばこのV7のような空冷エンジンが欲しければ、今すぐにでもバイク屋に駆け込むべきである。
今ならまだ買えるのだ、あなたにも、空冷が、、、!
まあそれは置いといて、普遍的なものは確かにこうして身近に存在しているし、それは音楽という分野でも同様なのではないだろうか。
今回はこのような前提に立ちながら、AOR系の新人を紹介したい。
デビューアルバムと言いつつ、その実体はAORのベテラン達が集結しているので、ナメてたらやられるので注意。
映画「イコライザー」じゃないけど、そこは気を付けて欲しい。
バイオグラフィにもあるDA VINCIは、その界隈では有名である。
北欧ハードポップのバンドとして、記憶に残っている方も多いはずだ。
今回のトピックとしては、やはりそのキーボードを担当していたDag Selboskaがリーダーとなって結成したことにある。
古今東西、バンドのリーダーがキーボーディストというのは男闘呼組の前田耕陽、、、或いはX JAPANのYOSHIKIぐらいしかイメージ出来ない。
(まあ、YOSHIKIはドラマー兼ピアニストだが。)
それはさておき、まずはMVで音源からチェックして頂きたい。
ん?ギターソロの前にキーボードのソロがある!?
そう、何といってもDag Selboskaがリーダーなので、キーボードのサウンドがきちんと前面に出ているバンドなのである。
基本的に、AOR系の音楽にキーボードの存在は必要不可欠だ。
特に北欧産ハードポップに関しては、その透明感あふれる美しいコーラスを引き立たせるためにも、これほど効果的な楽器は他にない。
分かりやすいところで、古くはEUROPEの名曲「The Final Countdown」なんかを思い出してしまうが、当時は賛否両論もあって、HR/HMのサウンドにキーボードなんて軟弱だ!なんていう論調があったことも記憶している。
確かに、キーボードの音はギターのようにソリッドでもないし、ヘヴィでもない。
一部の例外を除いて、鍵盤楽器自体が、そもそも歪ませる類いの音ではないから。
しかし同時に、キーボードの音は曲に奥行きを与える存在である。
ストリングスを多用するシンフォニックメタルを聴けば一目瞭然だろう。
単純にキーボーディストがいるバンドは音に厚みが加わり、より楽曲の完成度を高く見せることにも成功したと言えよう。
ZELBOが目指しているのは、北欧ハードポップのさらなる追求にある。
なぜなら、キーボードを前面にフューチャーすることで、例えば過去にASIAがやっていたようなプログレッシブな世界観をも醸し出すことに成功しているからだ。
そのため、プログレッシブなAOR好きにはきっとご満足頂ける内容ではあるけれども、ちょっとそっち系が苦手なメロハー好き諸氏には、ややパンチに欠けると言われるようなリスクは当然ある。
僕のように、過去にASIAやYESを聴いていた人からすると、本作に漂う昔から変わることのないプログレッシブAORサウンドに胸が熱くなってくるものだが、この辺は各リスナーの経験及び趣味嗜好に左右されることになるだろう。
この曲を聴け!
それでは本作から、いつものように1曲をピックアップしたいと思う。
それは10曲目の「Waiting for the End」だ。
歌詞にもある通り、喪失と再生をテーマにした楽曲である。
中盤の印象的なキーボードソロからギターソロへの流れも素晴らしく、何よりもサビのコーラスに至るまでの疾走感が気持ち良過ぎじゃなかろうか。
特にBメロが美しすぎると僕は思うのだが、いかがだろうか。
これがベテランの味、、、思わず目を細めてしまう自分がいたのは事実だ。
そして本作のアートワークも素晴らしい。
カラフルでポップ、、、やっぱりこれはASIAを意識してるんじゃないかって僕は勝手に思っているのだが、もしかするとただの気のせいかもしれない。
皆さんはどう思われるだろうか。
何れにしても、未だにこうしてプログレッシブなAOR摩天楼を築き上げようとしているベテラン達の姿には、思わずリスペクトを抱かざるを得ない。
特に本作は北欧ならではの透明感と、キーボードの音色によるアーバンな雰囲気のマッチングが絶妙であり、これはこれで癖になる美味さだ。
別に新しいことをやっているわけではないけど、それが良いのである。
新人だけどベテラン、もしくは新店だけど老舗、みたいなものだ。
若い世代の方も、躊躇せずに聴いて頂ければ幸いだ。
総合評価:84点
文責:OBLIVION編集部
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