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聞く技術と聞かない技術

最近、仕事が絶不調です。外来の回転が悪くなり、時間がやたらかかるようになりました。何故でしょうか、外来の予習もしているのに。
最初は、数が多いから難しい症例が増えてきたのなと思いました。しかし、ストップウォッチで測定したら、簡単な症例でも時間がかかるようになっていました。外来時間が延びるということは、待ち時間が増えるということです。これは内科医として致命的なことだと危機を感じました。人数の割に、待ち時間が長すぎるお医者さんは褒められたものではありません。どうして時間がかかるようになったのでしょうか。
加齢による判断の遅さ、過労による判断力の低下。そういうことも一因となるでしょう。一方で、加齢や過労によらないことが表在化してきたとも言えます。
色々原因を考えましたが、やはり最も大きな問題は
「必要以上」に「聞き過ぎている」ことだと考えました。

おめー医者のくせに今日から人の話聞かない宣言すんのかこの野郎と思われるでしょうが、危ない癖だなと思ったので休日に筆をとるのでありました。

僕の分野の外来は、結局のところは問診をとって身体所見をとり、必要であればレントゲンを撮影したり、血液検査をすることになります。ほかにも胸部CTや肺活量など沢山の武器があります。
問診からどの検査が必要か、検査結果をどう解釈し判断するか、判断速度も含めて医師の力量です。ちなみに、問診から聞き出す情報は、古いですがこの本がとっても勉強になります。お勧めです。

医師としての経験を丁寧に積めば、判断に対してどういう情報が必要かつ十分なのかを短時間で絞れるようになります。同時に、この先どうするかも想定できるようになります。そのプロセスがあまりにも速いと3分診療と揶揄されることもあるでしょうが、最小限にすれば3分しかかからないことに、どれだけ時間をかけているのかともいえます。
沢山情報を引き出す必要があるならば問診票を使って、考えて分からなければルーチンにすればいいんです。もちろん思考放棄は×です。

おそらくAIが今後強くなるのは、素早く判断できる技能です。沢山の知識と経験からなせる技を、大量のデータベースから圧倒できるからです。ですので、独自性を持たないのなら、お医者さんなんて寿命の短い仕事だと思います。極論を言えば、ある程度AIになれば外来を速く回すことができるでしょう。というか、僕はおそらくAIっぽい人間なので、そこは少し気をつけるだけで大丈夫でしょう。いや、出来ているのかもしれません。

一方で、病院と言う場が状況を複雑にしています。
患者さんは「症状を解決してほしい」だけでなく、「困って病院に来ている」のです。いわゆる「解釈モデル」というやつですね。ざっくりいうと、患者さんが病気のことをどう思っており、どうしてほしいのかということです。これが1ミクロンも解決できていなければ、満足度はゼロです。「こっちは困って病院に来たのに何もしてくれなかった。検査ばかりで人を実験台にしか思っていない」とか口コミサイトは☆1となってしまいます。ところで、そういうレビューってイイねが沢山つきますよね。

この「解釈モデル」を聞き出すには、自発的に患者さんに語ってもらえなければいけません。一方で、この情報は、お医者さんの「治療」だけからみれば、シグナルではなくノイズのことが多いです。解釈モデルという、ある程度のノイズが含まれた情報を尊重すれば、話をよく聞いてくれるお医者さんになります。ですが、これこそが診療時間が長引く原因といえるでしょう。会話の主導権を相手に渡し過ぎないことです。タイミングを見て検査やクローズドクエスチョンを入れ、話の主導権をこちらに取り戻すこともまた、お医者さんの技能といえるでしょう。

やっぱり問題はこれかな。お医者さんだって医療資源であること忘れてはいけません。「必要以上に」聞き過ぎない。難しいっすね。
頭のいい先生の外来って、長いのそんなにみたことないっすよね。それ言うと死んでしまうんでやめていただけませんか!

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