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赤湯十分一山産 純粋欧州種MERLOT

Bottling the VINEYARD と並行して、紫金園/須藤ぶどう酒さんで醸造されるワインについても一部エチケット制作のお手伝いさせてもらっている。
今回は「赤湯十分一山産純粋欧州種MERLOT(メルロ)」のデザインについて経過をまとめておこう。


醸造家から一枚の写真を預かる

いつもの調子でとりあえずのラフ画(テーマは"たすき掛け"だった)をみせたところ、醸造家は「ん~、悪ぐねぇけど・・」と微妙な反応。

”何かこう、恰好つけだ感じっていうんでねくていいんヨ。別に特別なごどしったわげではねぇんだげんど、何つうが、その時代の人だぢがらしたら、赤湯のメルロで葡萄酒つぐってみるっつうのは "憧れ"みでなモンだったんだごでな。"

[ はい、お国訛りには google翻訳の出番ですよ 笑 ]
"It doesn't look like it's dressed up like this.
It's not like they were doing anything special, but for the people of that era, making wine with MERLOT from Akayu was something of a dream come true."

赤湯十分一山の葡萄畑を背景に記念撮影 / 撮影時期不明(紫金園 提供)

その話から出してきてくれたのがこの写真だ。
写真の中央あたりに映る2人の少年。紫金園4代目の孝一さんからみて、"親父" と "叔父(おんつぁま)"にあたる。写真に一緒に映っているみなさん(特に右側の男性たち)がどこの誰なのか、そもそもこの写真がいつ何のときに撮影されたものなのかもハッキリは分からないらしい。

須藤さんの家にはこういうよく分からない歴史的な資料がいろいろあるが、「俺わがるわげねぇごで~」といういつもの感じがたまらなく愛おしい 笑

彼らが葡萄畑にみた夢とはどんなものだったか

醸造家の昔話はおもしろかった。といっても四代目の体験談ではなく、「・・・って親父から聞いた」という話だ。
紫金園(その名がいつついたのかも不明だが)の創業は明治45年であり、大正・昭和・平成・令和と110年を超える葡萄栽培の歴史を刻んできた。

葡萄栽培の現場は技術とともに変化してきたことは疑いない。しかしながら世の中や時代の移り変わりに応じて形を変えてきた(変えざるを得なかった)という面も少なくはない。「伝統を守る」とは「変えないことなのか/変えることなのか」という問いかけにも通ずるものがある。

いずれ、純粋欧州種であるメルロを、雨が多く湿度が高い・ましてや豪雪地帯である赤湯の地で安定栽培するためには、先人たちの数えきれない試行錯誤があったことであろう。

ふと、醸造家の昔話にあった「赤湯のメルロで葡萄酒つぐってみるっつうのは "憧れ"みでなモンだったんだごでな。」を思い出し、彼らが葡萄畑にみた夢とはどんなものだったのかと空想してみた。
・・・ どんげな味するんだべな?
・・・ みんな驚くようなものができるかも?
・・・ 自分たちの手で実現させてみたい。
・・・ まずやってみっぺ。

そういえば、Bottling the VINEYARDプロジェクトが立ち上がるときも、白竜ドライエクスペリメント2018/チャレンジ2019のときも、勉強会兼交流会「善151」を開催するときも、同じようなことを葡萄畑で話していた。

未知の何かにチャレンジするときの心持ち・人間の素の感情というのは、昔も今も実はあまり変わっていないんじゃないか。そう思い始めたら、伝統として美化されていた先人たちにすら妙な親近感を覚えた。

時空を超えて彼らのパーソナルな心情にアプローチして、そこから見える景色をエチケットデザインとして描きたいと思った。

"蛇の目傘を広げた女性の後ろ姿"を描く

最終的にできたのはこれだ。

デザイン画ができた後も用紙とプリンタの組み合わせを変えていろいろ試し、"計算どおり"とは程遠いランダムなかすれ具合に翻弄されながら、とにかくレトロな質感を追求した。

令和5年3月1日(水) [大安・一粒万倍日]に発売されたときの写真である。

エチケットには「蛇の目傘を広げた女性の後ろ姿」を描いている。
このモチーフが誰なのかといえば、先ほどの古写真をご覧いただきたい。左端に映るこの方は紫金園2代目 須藤 義一さんの 妻 須藤 テイさんである。
ただ、先述のとおり真のモチーフは写真に写っていた兄弟(3代目とその弟)たちであり、彼らのパーソナルな心情からの景色とした。奥ゆかしさやもどかしさを含ませて、テイさんには後ろを向いてもらった。

リリース告知を発行する際に意匠についての補足を書き表したので、そのときのものを引用しておく。

なァんだて ハイカラなレッテル 貼らったごどなァ
―― 彼女がそう言って振り向いてくれるのを 僕らはずっと夢みてた。


 蛇の目傘を広げた女性の後ろ姿。口数少ない醸造家の意向を汲み、最終的には古風な意匠に仕上がった。コンセプトにも”ハイカラ”・”レッテル”という言葉を用いたので、時代を遡った先の世界観にどっぷりと浸かっていただきたいと願う。

 歴史ある赤湯の葡萄栽培。とりわけ十分一山は、地形・土壌・気候・気流といくつもの好条件が揃う場所だが、産業としての発展は先人たちの苦労と研鑽があってのこと。このたびのメルローもまた然り、純粋欧州種をどうしたら安定的に栽培できるのか。苦心の結晶ともいうべき漆黒の果実がこのワインの原料である。

 フルボディ級の苦労話はさておき、先人たちが畑に託した夢・描いた未来とは一体どんなものだったのだろう。憧れ、使命感、好奇心と探究心?それとも野心?あるいは孝心だろうか?今さら確かめようのないもどかしさ、飲み手にとっては想いを馳せる価値想像の余地であり、造り手にとっては新たな挑戦を繰り広げる産地創造の輿地とも言えよう。

 知れば知るほど赤湯の葡萄酒は奥深く、実に面白い。

「赤湯十分一山産純粋欧州種MERLOT リリース告知」

結城酒店 赤湯温泉店に特大ポスターとして貼っておいたので、赤湯温泉にお越しの際はぜひお立ちよりいただきたい。

結城酒店 赤湯温泉店に掲示した特大ポスター

醸造家の"遊び心"についてこっそり補足を

赤湯十分一山産純粋欧州種MERLOTはこれまでに2016年産・2017年産・2018年産の3ヴィンテージがリリースされている。
エチケットの制作班としてはヴィンテージの年とアルコール度数のみ修正していけばと目論んでいたが、醸造家の遊び心がそれに待ったをかける。

お客さんも気づくか気づかないかみたいな範囲で、ちょこっとずつ変えてみっぺ。笑

"試行錯誤の歴史" に敬意を払い、そうした須藤家のDNAがうずくんだろうなと納得してこの要求に応えている。ヴィンテージ3年分ののエチケットを並べて記載しておくので、しばし"間違い探し"をお楽しみください。

vintage2016
vintage2017
vintage2018

メディア掲載について感謝申し上げます

ジパング倶楽部の会員誌(令和6年3月発行)には、赤湯の烏帽子山公園を含めた置賜桜回廊の特集が組まれている。ありがたいことに、ココにちゃっかり(?)このワインも掲載されている。

もうひとつはWEB記事。たいへん気に入ってもらえたようで、大変うれしく拝読いたしました。
"ジャケ買いしがちな編集YK、今度は「素敵すぎるワインのラベル特集」もありですね……。" のキャプションについても、デザインを手がけた立場として非常に光栄なことであります。


生産本数が少ないので流通するようなワインではありません。
赤湯温泉にお越しになった際や各種ワインイベントなどで見つけていただく機会があれば嬉しく思います。

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