見出し画像

2023年1〜2月の良かった新譜

カネコアヤノ/タオルケットは穏やかな

 カネコアヤノ、今までピンときてなかったんですよ。『光の方へ』とか曲単体で好きなやつはあったんですけどアルバム単位で楽しむアーティストではなくて。そもそも個人的な趣味で弾き語りがあんまり好きじゃないのと、過去作に思うのは「もっとシリアスさが欲しい」でした。それらを満たしてくれたのが今作ですね。なので、個人的には間違いなく彼女の最高傑作です。
 初っ端からシューゲイザーライクな轟音から始まる点や、個人的に1番刺さった『月明かり』のFishmansぽい音景色など、ドリームポップの香りが漂っているのも好み。
 来月のbetcover!!との対バンが、僕にとって初めての生カネコアヤノになるのでヒジョ〜に楽しみです。


Maneskin/RUSH!

 こちらも同じく、個人的には初めてハマったマネスキンのアルバム。イタリア語詞の比率は抑えめでグランジ色も薄まり、その代わりに音がデカくなって間違いなく迫力が増しました。過去作に比べるとクラシカルなロックンロールの風味がより増した印象。『GOSSIP (feat. Tom Morello)』や『MARK CHAPMAN』の、"ここだよここ!"ってタイミングで始まる"これだよこれ!"って口走ってしまうギターソロ。ここまでカッコよく聴かせられるのはトーマス・ラッジと、本作唯一の客演トム・モレロ両名のフレージングの妙はもちろん、1st,2ndを経て洗練された曲作りによるところも大きいのだろうなと思います。去年からハマってたらサマソニも来日ワンマンも観に行こうとしてたろうに。とはいえここから更に脂が乗るであろう彼らのキャリアをリアルタイムで体験できる幸せをこれから噛み締めます。


Lil Yachty/Let's Start Here

 おそらく、僕が初めてハマったHip-Hopです。巷では「コレはHip-Hopにカテゴライズされない」という声がよく聞こえますが、このアルバムをキッカケに今ケンドリック・ラマーを掘っているところなので、結果的に僕にとってのHip-Hopの扉を開いてくれた作品です。
 とはいえやはり個人的にも「ラップかっけー!」みたいな楽しみ方はしていなくて、Pink Floydがよく引き合いに出されていますが、そういう現代的でドラッギーな歌モノとして楽しんでます。トラック主体の音楽にはもちろん造詣が浅いため音がどうとかはあまり説明できませんが、そういう僕みたいなHip-Hop全然分からないマンでも楽しめる作品です。そのくらいメロディアスなのでね。


YUKI/パレードが続くなら

  「YUKIのソロ、ちゃんと聴こう」と思わせてくれた本作。ジュディマリは結構好きなんですけど、YUKIのソロは代表曲をちょこっと知ってるぐらいで、なんなら "YUKI 現在" とか検索しちゃうようなミーハーだったんですけど考えを改めます。
 開幕の表題曲で優れた現代的センスを持ち合わせていることが分かります。The Weekndやビリー・アイリッシュなど、ポップシーンを牽引するアーティストたちに影響を受けたミニマルなアレンジが光りますが、そうしたコンパクトなフォーマットで素晴らしい曲になるのはソングライティングの妙と、あともちろん声が良いのと。
 続く『タイムカプセル』『My Vision』はジュディマリの延長線上にあるようなギター偏重のバンドサウンドでとっても好み。いつまでもジュディマリの名前使って説明してんじゃねーよ、と思われるかもしれませんがそんぐらいの造詣しかないんで許してください。
 ただ再生回数が多いのが『私の瞳は黒い色』なのが、なんかなぁ…。こういうピアノとストリングスによる大味アレンジの、"コバタケバラードの廉価版"みたいな曲が人気なのはどうなん?と。YUKIは全く悪くないんですけど、リスナーに対して 「まだこういう曲求めんのか」と個人的にはしょっぱい顔してます。


GEZAN & Milion Wish Collective/あのち

 前に紹介した4作とは違い、こちらは前作から知っていてリリースを期待していたパターン。というのも前作『狂』がとても好きなアルバムでして。僕にとっては最も歌詞を注目するミュージシャンになっていました。もうひとつ期待を高めていた理由は先行リリース曲『萃点』が素晴らしかったこと。合唱とも言えそうな重厚なコーラスの壮麗さとマヒトのメロディセンスが光る、2022年でも屈指の名曲でした。
 で、蓋を開けてみると期待に応える質の高さ。先述の『萃点』は前に置かれた『TOKYO DUB STORY』と続けて聴くと更に化けました。"アルバム"というフォーマットを大事にするGEZANらしいなと。メッセージ性は前作よりもリスナーの日常に寄り添ったものになっています。それゆえにより普遍性を得ている。ただ、この点はまだまだ個人的には咀嚼しきれていないので、時間をかけて理解を深めていこうと思っているところです。
 GEZANサウンドの特徴としては、ワールドミュージック的なエグ味も挙げられます。ただ、前作のそれとはまた違った演出の仕方が。というのも前作ではダブとGEZANメンバーによる声によってそのエグ味が生み出されていました。しかし今作ではMilion Wish Collectiveと題した大人数のコーラス隊の声がその役割を担っています。独自のオルタナ性を毎度更新する彼らへの期待は、また次作に向けても続きそうです。


The Murder Capital/Gigi's Recovery

 昨今のUKポストパンクシーンの隆盛は今更言うまでもありませんが、その中でFontains D.C.と並んで個人的に最も好みのサウンドを鳴らしているのが同じくアイルランド・ダブリン出身の彼らです。
 クラシカルなポストパンク特有の退廃的なダンディズムを存分に楽しめるという点で先に挙げた両バンドは共通しているのですが、The Murder Capitalのソレはより身体性を含んでいて、難しいこと考えなくてもロック小僧の琴線に触れてくるようなエモーショナルさがあります。Sonic Youthやキャリア前期のRadioheadのような、日本の音楽ファンが好きそうなギターによるダークなフレージングもとってもクール。


ASIAN KUNG-FU GENERATION/宿縁

 こちらは我が青春アジカンによるシングル。まずはタイトルの『宿縁』。セブンスを多用した緊張感あるコード進行に乗って実に"らしい"オクターブ奏法から始まるイントロを聴いた時は 「いいかも!」ってなりました。が、ヴァースとコーラスの繋ぎの部分、もうちょっとなんとかなんなかったですかね…。ギターのブラッシングと4ビートのスネアだけって、短いフレーズではあるんですけどやっつけ感を覚えてしまいました。ただこれからライブでしょっちゅう聴くでしょうしどうせハマると思います。
 ここからカップリング、まず『ウェザーリポート』。初っ端のギターの絡みがカッコよくて、こちらも期待が上がりましたがうーんなんというかゴッチ歌ってくれ。
 最後『日坂ダウンヒル』。前々から話されてた"サフブンの続編" の曲ですが、フレーズもタイム感もいい意味でラフで 「サフブンだわ〜!」ってなりましたね。近いのは『由比ヶ浜カイト』あたり。本作ではこれが1番好きかな。


ザ・クロマニヨンズ/MOUNTAIN BANANA

 クロマニヨンズの新譜ですがこちらは少し遅れて3月に追記してます。なぜかというと、どうしてもアルバムツアーに参戦してからレビューを書きたくて。で、行ってまいりました2023年3月5日仙台。

 も〜良かった。
 クロマニヨンズはライブですよ。やっぱ。
 で、ライブも合わせて本作を短くレビューすると、まず『イノチノマーチ』はやはりキラーチューンですね。過去の名シングル群と遜色ない出来のヒロト製ロックンロール。
『さぼりたい』は彼らには珍しいほど余白の多い楽曲ですがライブでもそのグルーヴは損なわれませんでした。ああいう曲をカッコよく聴かせられるのはバンドとしての強さを思い知らされますね。
 最後の『心配停止ブギウギ』も変わった曲です。タイトル通りブギー調の楽曲で、またも新しいクロマニヨンズが現れます。"ストレートなロックンロール"では括れないクロマニヨンズの表現の幅をここで再度実感します。
 前作『SICKS KICKS ROCK&ROLL』が全曲シングルという変わり種のアルバムだったため、久々にアルバム全体をファーストインプレッションとして楽しめたのもファンとしては嬉しいポイントでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?