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北村直也『男はつらいよ柴又慕情』を語る

北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ柴又慕情』について語っていました。

(町田和美)北村さん、こんにちは、今日もよろしくお願いします。

(北村直也)はい、こちらこそ、今日はZoomなんですね。あれ、広ぽんは居るのかな。

(テンパープラザ広瀬)こんにちは!ちゃんといますよ!

(北村直也)あ、いたいた(笑)。密にならないようにしてるわけですね。

(町田和美)スタジオ狭いんで。

(北村直也)(笑)是非気をつけてください。さて、今日は第9作の「男はつらいよ柴又慕情」についてです。

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(町田和美)吉永小百合さん、可愛い!!

(テンパープラザ広瀬)すごいなぁ。

(北村直也)今も相当お綺麗ですけども、この頃のお姿は若いを通り越して、もう可愛いって感じですね。今回のマドンナ役の吉永小百合さんは鈴木歌子(うたこ)という役名で出演されるんですが、実はこの先の第13作目にもマドンナ役で登場されるんです。

(町田和美)同じ役柄ですか。

(北村直也)はい。次も同じ歌子役で出演されています。ご存知のように「男はつらいよ」っていう映画では、作品をまたいで同じ役で出演されている方とか、マドンナ役がすごく多いんです。準レギュラー的な感じですね。

(テンパープラザ広瀬)浅丘ルリ子さんとか。

(北村直也)そう、そうですね。浅丘ルリ子さんはその代表格ですね。特別編という作品を除いて浅丘さんはこれまで5作品にマドンナ役として出演されていますが、リリー松岡として全部同じ役柄です。その次に多いのが竹下景子さんの3作品出演なのですが、これは全部違う役柄なんです。

(町田和美)そうなんだ。

(北村直也)浅丘ルリ子さんの場合は、キャラが立っていますので、別役というよりは、そのキャラをそのまま残して一つのストーリーとして仕上げたかったんでしょうね。逆に竹下さんは「男はつらいよ」の空気感そのものを自然体で持っておられる方なので、同じキャラというよりは、別の役になっても違和感がないというような。

(テンパープラザ広瀬)持ち味があるんですね。

(北村直也)その通りですね。まさにそれこそ役者さんの凄さというか。さて、なんと言ってもこの作品は吉永小百合さんを中心にまわります。結婚適齢期を迎えた友達三人娘が旅行先で寅さんとの出会うところから物語はスタートするんですが、寅さんと出会うその前夜、三人娘が布団の中で語り合う内容がキーとなるテーマなんです。

(町田和美)女子トークみたいな。

(北村直也)今で言う女子トークなんですよ。でも紐解けば、その女子トークは「女性の自立」についての話なんです。

女性の自立について

(テンパープラザ広瀬)女性の自立…キャピキャピした感じがしませんね。

(北村直也)そんな空気感じゃないんですよ。自分たちはこういう生き方をしたいと思ってるんだけど、それが叶わない未来をぼんやり描いてて、半ば諦めみたいな。悲壮感ってのはなくて、そういう世の中だしって感じで。

(町田和美)当たり前みたいな?

(北村直也)そうですね。その言葉がぴったりかもしれませんね。当たり前だから、女性にはそもそもそういう見えないレールがあって、ある年齢になったら男性を見つけて結婚もして、子供を産んで仕事を辞めて。結局それが大人の女性というもんなんだなぁーってなんか納得してしまってるというか。

(町田和美)わかるし、なんか寂しいなあ。

(北村直也)寂しいですよね。でもその中で、吉永小百合演じる歌子は、じっと考えるわけです。二度ほど歌子の目線で、天井の消えた照明が写るんですよ。それが、ほんとうにこれでいいのかしら、っていう迷いの中の歌子が内省してる目線なんです。

(テンパープラザ広瀬)うんうん。

(北村直也)歌子には結婚を約束している彼氏がいるんですよ。実家から離れた愛知県の器を作ってる陶器家の職人さんなんです。でも、その陶芸家との結婚を親父さんが反対してるわけです。

(テンパープラザ広瀬)でた!頑固親父(笑)

一人親の愛情

(北村直也)そうなんです。今回も頑固親父が出てくるんです。前回の志村喬さんとはまた違ったタイプの頑固親父なんですけどね。宮口精二さんが演じておられるんですが、自分の面倒を見てくれている娘がいなくなると、もうひとりでは何もできなくなるタイプ、でも娘の彼氏には会おうとしないタイプの頑固者です。

(テンパープラザ広瀬)うわっ、タチ悪ぃ。

(北村直也)でも広ぽん、将来そうならない保証あります?僕は無理です。

(町田和美)(笑)北村さんとこも一人娘でいらっしゃる。

(北村直也)ましてや、娘が若き日の吉永小百合ですよ。

(テンパープラザ広瀬)やべぇ、無理かー。

(北村直也)男親なんてそんなもんですよ。だから歌子の親父さんを本当は責められないんです。でも一方で歌子には、歌子の人生があるんですよ。いつまでもお父さんのそばにいるわけにいかないんですよ。で、歌子はずっと映画の中で葛藤するんです。自分の選択で不幸になる肉親がいる、でもやっぱり自分は自分らしく生きたいんです。女性だからって、自分の気持ちに正直でいないことにもう限界になるんです。

(町田和美)うわぁ、それ涙出ちゃう。。

(北村直也)そうなんですよ。終盤に差し掛かるにつれて、どんどんその気持ちが観てる方に伝わってくるんです。ただ、そこに一人だけやっぱり状況に気づいてない人がいて、それが寅さんなんですよ。

(テンパープラザ広瀬)(笑)またふられるんですね、寅さん。それはそれで辛いなぁ。

(町田和美)えぇ、どういうこと??

(北村直也)さくら夫婦が自宅に歌子を晩ご飯に誘うんです。寅さん抜きで。

(町田和美)抜きで?

(北村直也)「お兄ちゃんがいると色々話しづらいってこともあるでしょ?」ってさくらは言うんですが、寅さんは自分の恋の行方についての密談と勘違いして、上機嫌になるんですよ。でも実際は事情を知ってるさくらが歌子の相談に乗ってやる場なんです。

(テンパープラザ広瀬)もしかしてあげて落とすやつ??

(町田和美)残酷すぎる。

(北村直也)そう、意外に残酷なんですよ、山田洋次監督は。だから「男はつらいよ」なんですよ。

(町田和美)(笑)それでそれで?

(北村直也)はい。その密談が終わって、博にもいろいろアドバイスをもらった歌子はいよいよ彼と結婚することをこのタイミングで決心するんです。

(テンパープラザ広瀬)遂に!

(北村直也)そこに寅さんが歌子を博のうちに迎えにくるんですね。夜も遅いからってことで。「何の話してんだよ、お前たちはよー」って感じで。でも上機嫌でね。

(町田和美)決心したんだ!

歌子のしあわせ〜夜の顕経寺

(北村直也)で、そこからとらやに帰るまでの道のりで、顕経寺のところを通るシーンになるんです。僕、ここのシーンが一番好きなんですけどね。歌子が心の内を全部寅さんに打ち明けるんです。これまでのことも、自分の思いも、そして結婚のことも。

(テンパープラザ広瀬)うわ、辛すぎるよ、それ。

(北村直也)辛いですね。でも歌子は涙をふりしぼって全部話すんです。これまで心の中に押し込まれていたものが全部出るんですよ。

(北村直也)今流れている音楽は、さくらのテーマっていうんです。この映画の定番曲みたいな感じなんですが、日本を代表する作曲家の山本直純さんが作られた曲なんです。

(町田和美)あ、これは聞いたことある!

(北村直也)いつも「男はつらいよ」では、一番いいシーンやちょっと悲しくなるようなシーンでこの曲がかかるんですね。僕もこの曲が大好きで。

(テンパープラザ広瀬)ほんといい曲だわぁ。

(北村直也)で、今回の映画のこの一番大事なシーンでは、この曲に続けて歌子のテーマが流れるんです。

(町田和美)え?みんなあるんですか。

(北村直也)そうなんです。ほとんどみんなあるんです。すごいですよね。で、この歌子のテーマも大好きないい曲なんですが、歌子が感情を全部外に出して自分の胸の内を語るこの感動的なシーンで、さくらのテーマに続いて歌子のテーマが流れるんです。明らかに違う拍子の二つの曲がこのシーンで融合して、夜の場面ですごく物悲しくてでもなぜか力強いムード感を醸し出すんです。それが絶妙なんですよ。

(町田和美)歌子さん、胸の内を出せて嬉しかったでしょうね。

(北村直也)そうなんです。歌子っていう女性は、自分で意気地なしなんて言うんですけど、芯はすごくしっかりしてるんです。自分に負けなかったんですね。ずっと自分の中で押し込んで来た気持ちをようやく開放することが最後にできて自立を遂げるんですよ。

(テンパープラザ広瀬)いい話だなぁ・・・

(北村直也)シリーズを通じてなんですが「男はつらいよ」に出てくるマドンナは何か問題を抱えているんです。苦しんでるって言うんですかね。現実と自己概念が完全に不一致なんですよ。で、そういったことを押し殺して生きているんですけど、それが寅さんと話をしたり、とらやのみんなに触れることで、少しずつ溶かすことができて自分自身を見つけるってストーリーが多いんです。今回のように女性の自立について書かれている話は他にも沢山あって、みんな素敵な話になってるんです。

(町田和美)今日は途中すごく感傷的になってしまったりして 。北村さんにご紹介してもらった吉永小百合さんご出演の「男はつらいよ柴又慕情」は、大阪ステーションシネマ他で【7/3(金)~7/16(木)】に期間限定で4K上映されます。北村さん、今日もありがとうございました。

(北村直也)こちらこそ、どうもでした。








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