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読後感想文「最も賢い億万長者」

副題は「数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか」
グレゴリー・ザッカーマン著
水谷 淳(訳)

2024年2月25日(日)。おはようございます。予報より早く冷たい雨が降り出す日曜日。配達業務はお休みか...

にわか経済オタクとして、あれこれいろいろと書いておりますが、にわか経済オタクだけに、ジョージ・ソロスとかウォーレン・バフェットとか、過去ではジェシー・リバモアとか、そのあたりの有名どころよりもむしろこの人の方がすごい実績を上げている、ということを、この本を読んで初めて知った次第です。

ジム・シモンズという一介の数学者が、自分の専門分野である高等数学を駆使すれば大儲けができるということに目覚めて、同じく超絶頭のいい仲間たちを次々と投資の世界に誘い入れては資産を増やしていくという、まことにアメリカらしいダイナミックかつ生々しいお話です。

ジムはルネサンステクノロジー(ルネサスではない)という会社を立ち上げ、のちに世界屈指のヘッジファンドとなる「メダリオンファンド」を創設。

ファンドの1988年から全活動期間の年率運用実績は、ジョージ・ソロスのクォンタムファンドやウォーレン・バフェットのバークシャハサウェイを凌ぎます。

ストーリーの根底には最初から最後までずっと高等数学、金融工学の世界が流れており、膨大なデータとの格闘、そこからいかにして相場の法則を見出だすか、MIT、バークレー、シカゴ大学、またIBMなどの先端企業から高等数学の専門家を次々と引き抜いて、相場の法則を見出だすアルゴリズムの開発に精を出す日々を描きます。

開発したプログラムをめぐっての数学者同士のいざこざや、トランプ政権が誕生した大統領選をめぐっての政治理念の違いによる争い、衝突、そして解雇、訴訟など、頭のいい人には頭のいい人なりの人間ドラマが展開される点も読み応えありです。

数々の困難を乗り越えて投資の世界で大成功をおさめたジムが後年たどり着いた境地は、自分のライフワークである「自閉症を治療する」活動を支援すること、そして宇宙の誕生や人類の起源を探ることです。

チリのアタカマ砂漠に巨大天文台を作ってビッグバンの証拠を探し出そうという壮大な計画の一方で、ビッグバンと対立する理論、研究も支援するという、まことに宇宙規模で懐の深いおじいちゃんであります。

「財産を築くだけでなく、財産で何をするか」

ジムは今日現在健在(85歳)ですが、81歳の時に母校MITで講演し、以下のような人生訓を述べています。
「自分より賢い人と仕事せよ」
「美を道しるべにせよ。何かがうまくいってるとき、そこには美の感覚、
美意識があるはずだ」

金融工学、確率偏微分方程式とかマルコフ連鎖とか難解系に興味のある人はそれだけで読みがいあると思いますし、投資で一儲け企んでる自分としては想像を絶するジムの努力にただただ敬意を表したい、それだけでも読んだ価値はあると思いました。