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アジカン「ファンクラブ」感想

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ASIAN KUNG-FU GENERATION「ファンクラブ」(2006)を2018に聴き直す。作品だけに向かい合って書いた感想文です。ロック論、アジカン論ではないです。こんな… もっと読む
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ファンクラブまとめ

アジカン史上、最も暗く内向的なアルバムと聞いていた。半分は正しいと思う。心の機微のうち、暗い側面をかなり綿密に描き切った作品だと思う。しかし、自意識に引きこもっては作れない作品だと思う。情報化した社会、鈍化した社会、消費社会への警鐘、生の実感など。ショッピングモールに散りばめれたアフォーダンスに従って、われわれはゾンビのように彷徨っている、という言説を彷彿とさせる。自分の枠を出ないとわからないとこ

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11.タイトロープ

これもまた美しい曲、詩的な曲である。泣いちゃう。

あまりに美しいものに出会うと、その脆さ、非現実さ、醜悪な自分とのギャップから悲しみが湧いてくる。
大切にしようと言ってきた想いさえも、利き手でそっとこねくり回すうちに、原型がわからないものにすり替わってしまう、その不確かさが沁みる。
それでも、泣いたとしても、そういうものを全部集めて、自暴自棄にならず、「心でピースを探して」(「桜草」より)、

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10.月光

とにかく美しい。イントロのピアノの残響が拡大されて楽器が重なってゆくところは、神秘的な月光の筋が降り注いでくる様をイメージさせるし、言葉も繊細で心に寄り添うものが使われている。「おおきいおともだちのための子守唄」とでも言うべきか。

季節は夏、作中主体は夕立や、その後の雨のやんだ夜を眺めている。大降りの雨が降ってきて、でも空は土気色の奇妙な明るさをしていて、やんだと思えばアスファルトからヌメヌ

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9.センスレス

構成がおもろい四つ打ちの曲。アジカンはコーラスもうまいなぁ。そこで加速するんやなぁ。という印象の曲。

「コンクリートの〜温度感も何もない」までは、「ワールドアパート」や「バタフライ」でも触れられている通り、無機化、電子化、高速化、身体を離れて体温を失ったものたちと、自分の生の実感との乖離を歌っている。
センスレスとは意識・感覚を失ったという意味だ。「バタフライ」の作中主体のように5メートルの

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8.バタフライ

心臓に悪いイントロ、暗くてグロい歌、という印象だった(悪口ではない)。小学校の遠足で行った昆虫館の温室で、大量の蝶に追いかけ回されたトラウマがあるからかもしれない。虫全般が苦手。

まず全否定。作中主体は攻撃的な心を持っている。現実の生活を意味がないと否定し、過去も退屈も愛でずに否定し、自分の行ける居場所もないと否定し、世間から与えられた希望のルートも願い下げして否定する。もう何も残っていない

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7.真冬のダンス

私のかなりお気に入りの曲だ。悲しい時に「悲しみのステップを踏む」という独自表現をしてしまうほどだ。

これは愛の歌だ。全肯定の歌だ。人生は波瀾万丈、高低差がある方が、一般にもてはやされる(聞いていて面白い、人間の深みが増す、面接受けがいい等)。最後には華やかなフロアでギラギラのダンスをするような。
一方で、凡人である我々はエクストリームさに欠けるがまあまあ穏やかな人生を送っている。「つまらない映

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6.ブルートレイン

聴き始め、交互に鳴るギターがたまらない。
ラッシュ時の列車の焦燥、苛立ち、オートマティックな時の流れを表すかのようなドラム(めっちゃ技巧…)、まろやかな音なのに意識の表面を撫でる高さでゆらゆらしているギターは不安を抱かせる。もう一本のギターはエッジの効いた音で、機械の重さ、鋭さを思わせる。ベースが底を支えてくれるから曲としての芯の強さがある。そして唸るボーカル。

電車のモチーフは愛されている

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5.路地裏のうさぎ

メルヘンな題名だなあ。その割に物騒な歌詞だなあ。というfirst impressionだった。いまも、これは「おおきいおともだちのための絵本」だと思っている。

作中主体のいる現実は、じめじめした薄暗い路地裏の世界。それに対して星と月の輝く深い青の澄んだ世界。主体は成そうとしていることが達成できずひりついた焦燥感、から回って自分を苦しめる大きな情熱=乾いた思い、赤を体に受ける。それでも小さな星

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4.桜草

何も出来事が起きてない曲ナンバーワンではないか?

なんとなく塞ぎ込んで憂鬱な作中主体が、外の世界の眩しさに圧倒されつつも憧れ、少しずつ踏み出そうとしている。欠損した自身の何かを補おうとする。だけどもうまくいかなくて…。

「傷つくことはなかったけど心が腐ったよ」は名フレーズではないか。精神的な痛みや抑うつ気分にも理由が求められる、揺らぎの余地の少ない、ギチギチの、メトロノーム的な風潮がき

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3.ブラックアウト

個人的にたいへん好きな曲である。まずサビが2つもあって豪華だ。船に揺られているようなギターのリフが心地よい。徐々にドラムが刻み始めて、なんと四つ打ちになる!そのビートの裏に例のリフが絡み合っている。天才か!

ちなみに、自分的にブラックアウトとアフターダークで1セットという認識があるのはなぜだろう。名前?

一聴してすごみのある歌だと気付く。通奏低音のような悲しみ、無力感、そこはかとない焦

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2.ワールドアパート

この歌が嫌いだった。革命という語が使われているからだ。ビルに刺さるのだから、9.11を取り上げているのだろう。革命という強い語を使うのに釣り合う重い事件である。しかし。

Aメロ前半は、情報化、加速する社会を歌い、後半は自分の体からそれらが乖離して行くさまを歌う。「ぼくの両手にはこれだけだよ」。ヒューマンスケールを超えるあれこれ(携帯電話によって、深夜のクライアントからの連絡にも応答しなくちゃ

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1.暗号のワルツ

「解く鍵もないのに」を「ほの影のアイロニー」と聞き間違えていた。後藤さん言いそうだから…。

暗号のような、一度自分で咀嚼しなければ伝わらない言葉、ストレートにすぐに伝わらない分、噛み砕いた時の威力は大きい。そのひねくれ方は、照れ臭さ、明後日を向いてしまいたいスレた心、謎解きゲームに興じるある種の子供じみた遊び、と捉えて嫌気がさしているのか。平易に分かられたくない、自分の深淵さみたいなものを表

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