オダ 暁

年齢性別不詳 物書き バー経営の経験 動物愛護活動家

オダ 暁

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サバイバルゲーム 第四話

 とつぜん目の前でバトルが勃発した。真っ暗で様子は見えないが、おばさんが俊郎とエミめがけてモップを降りおろしたのだ。バシッバシッと打ちつける音が炸裂し、その度に「やめてくれえ」「ごめんなさ~い」と二人は悲痛な声で懇願する。奈美子はあわてて制止しようとした。 「や、やめてください」だが、おばさんは狂ったようにひたすら打ち続ける。 たまりたまったうっぷんが一気に爆発したのかもしれない。おばさんの耳には誰の声も聞こえてはいなかった。このままでは殺傷事件になりかねない、奈美子はこの非

    • サバイバルゲーム 第三話

       どのくらい時間がたったのか・・とりとめもない奇妙な夢を見ていたら、すぐ近くで女のかん高い声がした。夢か現実かわからない。目を開けると真っ暗で何も見えない。美奈子は束の間、自分がどこにいるのかわからなかった。 「いやよ、バケツになんて私できない」感情的に叫んでいるのはエミさんだった。 「そんなこと言ってられないでしょう、あなたの彼氏も私もしたんだから大丈夫。がまんしないで早くしなさい」おだやかな口調で説得しているのは、掃除のおばさんだ。いったい、なんの話をしているのだろう。

      • サバイバルゲーム 第二話

         下降していたエレベーターの足元が、とつぜんガクンと衝撃を受けて上下に激しく揺れた。とたんに辺りは真っ暗になる。「きゃあ、なんなの地震?」受け付け嬢が雄たけびをあげて俊郎の背広にしがみつく。 「停電だ」 「いやあ怖いわ」二人はひしと抱き合い、奈美子は壁にへばりつき、おばさんは床にしゃがみこんだ。エレベーターが動いている気配は感じられない。灯りは消えたままだ。不気味な静寂がよぎるなか、奈美子は手探りで開閉ボタンや階数表示ランプを押しまくった。非常時用のスピーカーも試してみた。が

        • サバイバル 第一話

          人間の本質は緊急事態が起きてそれまでのメッキという綺麗事の自己演出が自然に解かれてしまい顕わになっていく。この物語は不満足な人生に甘んじている主人公とバカップル、自分の人生に文句だらけの清掃員の4人が夜中のエレベーターという密室に閉じ込められてしまう為に起こる喜悲劇である。 誰の言い分けに同調しますか?さあ貴方もお読みくださいませ。  年が明けて間もない、金曜日の夜。美奈子はオフィスでひとり残業をしていた。得意先への見積書のケタを間違えて課長から大目玉をくらい、今日はさん

        サバイバルゲーム 第四話

          シャンパンランチ 第四話

           わざと語尾をひっぱった三千代の甲高い声に、妙子は両手で耳をふさぎたくなる。 「落ち込んでいるんじゃないかと心配で・・それで久しぶりに会うこと思いついたのよ、ね、何があったのか話してちょうだい」  三千代の視線が粘着テープのように、まり子のうつむいた細面の顔から華奢な身体へとからみついた。 「ご主人の浮気か何か?イケメンだったものねえ、まり子のご主人って」  無遠慮な言葉が、三千代の毒々しげに赤い唇から矢継ぎ早に出る。妙子は不愉快だが、それをうまく口にできない。 「でも、まり

          シャンパンランチ 第四話

          シャンパンランチ 第三話

           約束の木曜日。TVの天気予報は東京のこの夏一番の最高気温を報じ、早朝から強い陽射しがじりじりと地表を照りつけていた。  早めにアパートを出て電車を乗り継ぎ、余裕のある時間運びで、妙子は新宿の街に降りた。デザイナーズブランドの渋朱色のワンピースは勤務先のデパートの社員割引でこの日の為に慌てて購入したものだ。ふだんラフな格好の彼女には珍しく女らしい装いだった。  平日にもかかわらず、大スクリーンが看板のアルタ前は人だかりができていた。快活でエネルギッシュな彼らの面々にさっと視線

          シャンパンランチ 第三話

          シャンパンランチ 第二話

           それが三千代に押し切られる形で交わした昨夜の電話の内容だった。  妙子はのろのろとベッドから起き上がり、ぬるいシャワーを浴びて汗ばんだ身体を洗った。それからバスタオルを巻き付け、洗面所の鏡台に立ちドライヤーで髪を乾かした。食欲はさしてないが空腹だった。パジャマに着がえ、冷蔵庫の方に歩きかけたとたん、電話のベルが鳴りだした。三千代だ、そう直感しつつ、そろりと受話器を持ち上げる。 「もしもし、妙子?」三千代の甲高い声が、いきなり耳元で響いた。一呼吸置き「さっき帰ってシャワー浴び

          シャンパンランチ 第二話

          シャンパンランチ 第一話

          女のエゴというか特有のイヤラシさを思いきり追求した作品です。偏見でしょうかね?読後感?自分的にはあまり好まないけど世の中善人ばかりじゃないから。  暑さが全身にからみつくような夜だった。 「ああ、疲れた」  仕事を終え、アパートの自分の部屋に戻り開口一番、飛び出す言葉はいつも同じだ。妙子の勤めているデパートは中元シーズンで連日大勢の客がひしめいきあい、それに比例して彼女の疲労も増していた。 「もう、くたくた・・それにしても、なんでこんなに蒸すのよ」  東京は都市熱で異常に

          シャンパンランチ 第一話

          人生ゲーム 第三話

          「最近・・感じが変わったよ。何か僕に隠してるんじゃない?」  バーで出会ったあと急速に接近してきた倉橋と、学に悪いとは思ったが、私は秘かに二人きりで会っていた。  敏感な学がそんな私の変化に気づかぬはずがないのに。 「正直に言えよ、ホントのこと。もしかして他にもっといい男が現われた?」  喫茶店に呼び出され問い詰められた私は、しらを通すしかなかった。学を嫌いになったわけではないし、倉橋との恋を成就させる自信もなかったからだと思う。 「わかったよ・・僕の思い違い

          人生ゲーム 第三話

          人生ゲーム 第二話

           あとになって、なぜこの時点でジ・エンドにしなかったのかと自問する。私は学生でも主婦でもない、夢を追うフリーターという中途半端な存在だった。その見果てぬ夢を捨て切れず、不安だったからかもしれない。 「嬉しいわ、洋子さんからの電話ずっと待っていたのよ」  一週間後に電話をした私に、受話器の向こうで由利は弾んだ声で言った。 「変な女だと思ったでしょう」 「・・いいえ・・」 「我ながら大胆なことしたわ。でも、お話したことは本当の気持ち。あなたみたいな人と友達になりたかっ

          人生ゲーム 第二話

          人生ゲーム 第一話

          第1話 この世で一番大切なものは何? 目に見えない愛や夢・・ 確固とした名誉・・ それともお金・・ 一つだけ選ぶとしたら、あなたはどれが欲しいですか?  由利という名の、その女性に出会ったのは、私がバンド公演が終わった蒸し暑い真夏の夜だった。 「まったくよオ、頭にくるぜ。演奏中にあくびくらいならともかく、居眠りしやがってさ」  生ビールのジョッキを片手に、リードギターの良樹は、鷲鼻のいかつい顔を歪めて声高に言った。 「でも途中でフケた客より、ましなんじゃないか

          人生ゲーム 第一話

          奇跡のエイプリルフール

          奇跡のエイプリルフール とある古い木造平屋。 キッチンには30代後半位の男性の死体が仰向けに転がっている。男性は頭から血を流し生死不明。 時刻は世間が寝静まった丑三つ時・・・男性の顔が床にへたり込んだ私からは、薄目を開き自分を睨みつけているように感じる。 (数時間前の出来事の回想) 男「もう終わりにしよう。この家に来るのも最後だ」 私「嫌!ぜったいに別れたくない、久しぶりに来てくれたと思ったら別れ話?」 男「俺もうウンザリなんだよ、頼むからおしまいにしてくれ」

          奇跡のエイプリルフール

          唇 私が体験した人生で一番記憶に残ったキスの話をしようと思う。 キス…接吻…口づけ いろいろな言い回しができるが、抱きしめたりセックスしたり、いろいろな愛情表現があるが、あれは私の心に染みた最高のキス・・・ 私が渋谷の109でアドバイザーをしていた頃、ボランティア活動をしている男の友人がいた。真面目で良い青年だった。友達以上恋人未満。 ある時彼に頼まれたのだ、ボランティアやっているから今度手伝ってと。私は未経験だけど、とにかく承諾した、自信はないけど力になるならと

          食べられたいの

          食べられたいの ねえねえ、男性ってどんな人が色気あるって思う? スポーツ万能なアスリート? ファショナブルなイケメン? クールで知的な陰のあるタイプ? 好みはいろいろあるだろうけど、あたしは両目の鱗が落ちる程びっくりしたの。入社1年目の歓迎会、彼は会社の先輩だったけど、とある居酒屋に行ったんだわ。うちの経理部、総勢15人で。彼の印象は平凡で正直言って薄かった。ただ清潔そうなイメージではあったけど。 居酒屋入ったら、まず着席して掘りごたつ風な横長のテーブルにお座布団とい

          食べられたいの

          雨のものがたり 第四話

          夏休みも終わり、突貫工事で宿題を仕上げて新学期が始まった。千秋ちゃんとはベンチで妙な別れ方をしてから、お互い連絡していない。でも休み時間に千秋ちゃんは、わたしの机までやってきた。そして、わたしに頭を下げた。 「この間はゴメン!スペアだなんて、ひどい言い方してしまった。ママに言ったら、わたしがあなたのスペア作ったら怒るでしょう、って言われた。それでやっとわかった、本当にバカなことを口にしたと反省してるからごめんなさい」  千秋ちゃんは必死に謝ってくれる。わたしは真実を打

          雨のものがたり 第四話

          雨のものがたり 第三話

           家に帰ると、朝食の用意をして両親はわたしを待っていた。 「お帰り」  何度も耳にした日常会話だ。でも両親の横にいるはずのミウはいない。ぽっかり空いた心の穴は開きっぱなしだ。  両親と差し向かいで朝食をとった。これも何気ない、当たり前の風景。でも、きっと奇跡のようなゼイタクな時間。ミウを失ってやっと気づいたのだ‥  わたしは千秋ちゃんのスペアの話を両親にした。二人は話し終わるまで黙って聞いていた。そしてお父さんが答えた。 「愛子に尋ねるけど、お父さんやお母

          雨のものがたり 第三話