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#0038 北海道弁「○○ささる」の功罪

皆さんは「○○ささる」という便利な言葉をご存じでしょうか。
北海道弁なので、道産子の皆さんは日常的によく使ったり聞いたりすると思います。「あっ、間違えてボタン押してしまった!」「あっ、うっかり線を引いてしまった!」といったときに「○○ささる」を使うのですが、標準語にはない便利な活用方法だと思うので、いくつか具体的な使用例を見ていきましょう。(1818文字)

○便利な言葉「○○ささる」

●押ささる

テレビのリモコンを間違えて押してしまったとき
「あ!リモコンいじってたらボタン押ささった!」

壁によしかかっているときに肩が証明のスイッチを押してしまい、意図せずに部屋の電気を消してしまった。
「おっと!肩がスイッチにあたって押ささっちゃった!

●送らさる

本文を書いている途中なのに間違えてメール送信ボタンを押してしまったとき
「メール書いてる途中に送信ボタン押ささってメール送らさったわ!」

何も知らされていないなか、知り合いからプレゼントが送られてきたとき
「おおー、なんか知らないけど○○からプレゼント送らさってきた!」

●意図せず発生した結果を表す

このように、意図せずにその結果を招いてしまった、或いは不可抗力で自然に起こったことを表すときによく使います。
標準語では、頭に「間違えて」や「いつのまにか」といった言葉を添えて、「○○してしまった」と表現するところですが、「○○ささる」と言うだけで表現することができます。

●裏に隠れた意味

既に薄々感じている人もいらっしゃると思いますが、意図せず発生した結果そのものを表していることに加えて、自分の犯したミスを棚に上げ、不可抗力的にその事象が起こってしまったかの如く責任転嫁しているのです。

「あ!リモコンいじってたらボタン押ささった!」

この文の場合ですと、リモコンをいじっているのは自分なのに、なにかの拍子でリモコンを押してしまったような言い回しです。標準語では、「リモコンをいじっていたら、間違えてボタンを押してしまった。」となり、恐らく「ごめん」と謝るのだと思いますが、恐らくこの文例の場合は、「俺のせいでなく不可抗力的にボタンを押してしまったので自分に責任はない。仕方ない。」という意味が包含されている気がします。

整理すると、「○○ささる」の裏には、「責任転嫁」と「仕方ない」の意味が隠れていると思うのです。

○多用は避けるべき⁉

とても便利な言葉で標準語にしたら良いのにと思ったことがありましたが、最近、言葉について色々と意識して考えているからか、裏に隠れた意味を知っているからこそ、多用は避けるべきと思います。

この言葉を多用していると、他責にする癖がついてしまうと思うのです。

北海道は移民の国です。みんな訳ありで北の大地に入植し、過酷な自然環境の中で開拓をしたり、新たな商売を始めたりした歴史を持つ土地です。それゆえ、自分の思い通りにいかないことが大自然の驚異を前に多分にあったのだと想像します。そうした状況下において、「○○ささる」という言葉を使うことで、自分のミスとはわかっているんだけど、追い込んでいては持たない。自然の力には敵わない。こうした背景で使われるようになったのではないかなと思います。

現代になっても、自然の力は大きいことに変わりはないのですが、インフラが津々浦々に整備されていますから、開拓時代とは環境は大きく違います。なので、自分のせいではないよ的な意図での「○○ささる」は使わずに、「○○してしまった!」と非を認めるようにしたいと思います。

○良い使い方「飲まさる」「食べらさる」

一方で、100%良い使い方だなと思うものがあります。
それは「飲まさる」「食べらさる」です。

他責にしている点は変わらないのですが、この言葉の裏には、食べ物が美味しすぎるから思わずビールが進んでしまう→「ビールが飲まさる」お酒があまりにも美味しいから食事が進む→「お寿司が食べらさる」といったように、ふるまわれた食事や飲み物を讃えていて、いくら自分が我慢しようとしていても、この美味しさには負けてしまうといったニュアンスを感じる良い表現だなと思うのです。

北海道には美味しいものがたくさんあります。
海の幸に山の幸、お酒やビール、たくさんあります。
ぜひ、多くの人に「飲まさって」欲しいですし、「食べらさって」欲しいと思います!

釧路市の地酒「福司」に関してのレポートを先日書いたので、宜しければこちらもどうぞ!




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