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雨の日に傘を貸し晴れの日に飲ませる

「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」金融マンと対照的に、「雨の日に傘を貸して晴れの日に飲ませる」のがデキるおかみさんという話。

行きつけのお店の飲み友が舞台に出演するというので、そのほかの飲み友&おかみさんと一緒に鑑賞してきた。

地元に帰ってきた一行で「軽く一杯」という話になるも、行きつけのお店は臨時休業である。だって、店を営んでいるおかみさんも一緒に鑑賞しているんだもの。

そこで我々一行は、ご近所にある別のお店に行くことにした。競合とは言え持ちつ持たれつで、お互いのお店の名刺を貼っていたりする。仕入れルートなどの情報交換もあるのかもしれない。

下町は狭くおかみさんのネットワークは強いので、私はただの村人Aではなく「あの店の常連さん」として粗相のないよう振る舞わなければならない。

楽しいひとときを過ごすうちに、雷音が轟きだし突然の雨が降りはじめた。帰りの電車があるので、雨のマシなタイミングを狙って強行突破で帰らんとしていると、立ち寄ったお店のおかみさんが人数分の傘を用意してくださっていた。

この手厚いおもてなしは、行きつけおかみさんの人徳だろう。大変ありがたくお借りして、濡れずに帰ることができた。

問題は、どうやって傘を返そうかという話である。もし自分が通りすがりの村人Aであれば、晴れた日にフラリと訪れて傘だけ渡して帰って問題もない。だがしかし、私には「あの店の常連さん」としての振る舞いが求められる。

そういう義務がある訳でもないけれど、一杯飲んで帰るのが粋ってもんだろう。私は家に帰ってご飯を食べる派なので、行きつけのお店ではフードを頼まないけれど、傘をお借りしたお店だとやっぱり食事もした方がいいんだろう。

飲み友も同じようなことを考えていたらしく「週末に別の友達と会う予定だから、傘を借りたお店をチョイスしてまとめて返しておきますよ」という助け舟を出してくれた。傘を受け渡すのも行きつけのお店なので、結局は傘を理由に飲むことにはなる。

全員という訳にはいかず、予定の都合で傘を託せない人も現れた。兄貴を独りで行かせる訳にはいかねぇので「お供しますぜ」と言うと、「私も」「俺も」となって全員で行く予定が組まれている。

おそらく純粋な親切心から傘を貸してくださったのだろう。そうだとしても結果的に、とっさに傘を出せるおかみさんは敏腕だった。

デキるおかみさんは、雨の日に傘を貸して晴れの日に飲ませる。

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