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まだ発掘されていないレシピ

諸事情で、調理家電のレシピ開発者がユーザーの質問に答えている様子を聞き続けて、料理素人な私も「門前の小僧」ばりにレシピ開発者の思考回路が掴めてきた気がする。両者の気持ちが分かるため、両者のすれ違いについて気付いたことを言葉にする。

私はnoteを「知らんけど」の確度で書いてるので、あくまで私の個人的な仮説として読んでいただければ幸い。

定食屋での「裏メニューないの?」

話題の定食屋さん(居酒屋でもよし)に来たお客さんから「裏メニューとか無いの?」と聞かれる状況を想像してほしい。

お客さんは「せっかく来たので意外性あるものが食べたい」という気持ちだろうし、お店の人からすると「そんなものがあれば、定番メニューに昇格しているので、まずは定番メニューを食べて欲しい」という気持ちになるだろう。どちらの気持ちもわかる。

これと似たようなことが、「メーカー公式レシピを試してほしい開発者」と「新しいレシピを手に入れたいユーザー」の間でも起こっているように思えた。

ユーザーが裏レシピを求める背景

背景としてよくありそうなのは以下のどちらかだろう。

Case1. 取扱説明書を読まないように、同梱された公式レシピ本も見ない
Case2. 公式レシピの存在は知っているが、自分のニーズには合わない

「Case1.」の典型的なユーザーは、調理家電に同梱された公式レシピ本が眼中になく、料理研究家の先生が書いたレシピ本をいきなり買い求める。質問として現れるのは「最初に買うおすすめのレシピ本は?」などで、レシピ開発者の気持ちは「まずは調理家電に同梱されている公式レシピ本を見て欲しい」だろう。「そんなのがあったとは見逃していました!チェックしてみます!」と和解することもあり、メーカーによる啓蒙が必要だなぁと感じる。

別の「Case1.」の例として、「○○先生のレシピ通りに作ったけど、上手くいかなかったのでコツが知りたい」が寄せられる。例えるなら、第三者がつくったアプリの振る舞いを携帯ショップの店員さんに質問するようなもので、無関係とは言い切れないけど問い合わせ先が違う気もする。もし聞けるならば、レシピ本の著者本人に聞いた方が確実な答えが得られるだろう。

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「Case2.」の質問としては、「米ではなく玄米で作ることはできないか?」のように、何か問題があって公式レシピでは事足りないので、違うレシピを求めるもの。こちらについて次の節で掘り下げる。

うっすら頭を過ったのは、「公式レシピ本を読んでもトキメかない」問題によって、書店で目を引くオシャレなレシピ本を求める「Case1.」だとしたら、問題の本質は公式レシピのデザインにあり「Case2.」に帰着する。悩ましい。

まだ発掘されていない領域がある

フードテック界隈でも食の個別化が進むと言われている。当然ながら「うちは米じゃなくて玄米を使う」「糖質制限やってるのでイモは使わない」「もっと薄味が好み」「宗教上の理由でXXXはだめ」「好き嫌いのため」みたいな個別ニーズはどんどん増えるだろう。

おそらくユーザーの気持ちとしては、自分のニーズを満たすことが「できる or できない」の二択で捉えているだろう。自分だってそう思ってきた。

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一方で開発者の頭の中には、「まだ発掘されていないレシピ」の領域がけっこう広くあるんじゃないか。

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レシピ開発の現場では、いろんな条件で調理して食べてみて、お墨付きが出せるものだけが公式レシピとして世に出している。これが「調理家電で出来るレシピ」の領域になっている。

ソフトウェア開発で言う「検証済み動作環境」のようなもので、お墨付きはなくともやってみれば出来てしまうものもある。もし上手くできなくても誰も責任はとらないけれど、そのリスクを乗り越えて確かめて情報共有してくれた「人柱」さまには敬意が集まる。

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ハードウェアの制約や安全上の理由などで、出来ないことが確定していれば「調理家電でできないレシピ」となる。他方で「できない」と確定している訳ではないけれど、かと言って「できる」と検証された訳でもない「まだ発掘されていないレシピ」領域もある。

レシピ開発のリソースが限られていると、なるべく多くの人が使いそうなレシピから着手するので、ニッチなレシピは後回しになってしまう。発掘されていない領域に対して「できないのか?」という質問があると、回答時点では「できない」になってしまう。

確度と意外性のトレードオフ

おそらくレシピにも「確度と意外性のトレードオフ」みたいなものがある。

「できる」と検証されたレシピの材料の根菜を、別の根菜で置き換えても成功する可能性は高い。意外性は少なくとも、そのようなアレンジ技が浸透すれば、少しずつでも「できる」領域が自然に探索されて広がってゆく。

「できる」と検証された中でも、公式レシピ本は「確度」に重きを置いていて、料理研究家の先生が書いたレシピ本は「意外性」に重きを置いているというのが私の印象。だから、最初は失敗の少ない公式レシピで成功体験を積んでから、嗜好に合わせたレシピに挑戦するのが個人的オススメ。

未来予想:みんながレシピ開発者になる世界

フードテック界隈のトレンドを考慮すると、調理家電メーカーが検証して公式レシピとして提供し続けても、爆発的に広がる食の個別化・多様化に対処しきれなくなると予想される。

近い未来にはニッチなニーズを持ったユーザーが失敗前提でレシピ開発のような試行をして、上手くできた場合は他のユーザーにも展開されて、貢献に応じたインセンティブが贈られる世界になるんじゃないか。そういうプラットフォームが現れるのも時代の流れだろう。

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ある意味では料理研究家の先生が出しているレシピ本の位置づけに近いけれど、普通の人が書籍を出版するのはハードルが高い。書籍に対するblogのように、普通の人が作り手に回って良いものがピックアップされて、垣根が曖昧になってゆくと予想している。

そうなると、調理家電の競争力は単にプロダクトそのものだけではなく、そこに試行錯誤をする愛好者が集まるかにも左右される。ユーザーが他のユーザーに価値提供する意味で、調理家電のデザインもソーシャルな方向に向かうと予想している。


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