見出し画像

なぜ食品ロスはなくならないのか

クリスマスのケーキや節分の恵方巻など、季節商品がたくさん売られては、翌日にはたくさん廃棄される。そのニュースか何かを見た妻子が「なぜ食品ロスはなくならないのか?」と疑問を持っていた。

先日、友人のSNSのコメント欄で詳しい方による議論があり、「そんな観点もあるのか」と感銘を受けたので、その内容を話をした。

この場にも共有したいところだけど、友達限定だし引用も出来ないので、論点を拝借しつつ自分なりに言葉にする。加えて、自分なりに解決策を考えた。

売上の予測が難しいのか?

そもそも予測ができるのか?クリスマスや節分のある曜日や天候によっても左右されるだろうし、儲かる季節商品だと参入する企業が去年より増えることでも競争は厳しくなる。例えば、ドラッグストアが新たに恵方巻を売るなど。

とは言え、お店の人だってプロだから、様々な要因を考慮しながら、ある程度正確な予想はできるのだろう。少なくとも、大量に余ることを避けるくらいの予想はできる。

でも、もし仮に正確な予測ができたとしても、それをスンナリと受け入れられない事情がある。…という話を以下で展開する。

願望をもとにした目標

例えば、自分の子供が「去年は夏休みの宿題を60%やったので、今年は65%を目指してがんばる!!!」と言ったとする。親は子供の賢明な見積もりを褒めるのではなく、平気で「いやいや、100%を目指せよ!!!」と言い返す。宿題なんて全部やって当然だという期待があるから。

同じく、現場の責任者が「去年の売上は60万円の売上だったので、今年は65万円を目指します!!!」と言ったとすると、予算を司るオーナーは「いやいや、100万円は目指せよ!!!」と言い返すかもしれない。年間の売上目標から逆算した予算が100万円であれば、それを目指すことを当然のように期待するから。

企業の売上目標は願望によって設定されている。根拠を積み上げて正確な見積もりをするよりも、「このくらい売り上げたい」という願いの方が強いのだ。

「出来ない言い訳ではなく、出来る方法を考えろ」とか何とか発破をかけてデスマーチに突入するプロジェクトは私も経験したことがある(食品業界ではないけど)。

今回の例で言えば、事前告知を早めたり、予約をとるよう営業かけたり、魅力的な商品にしたりするようなアクションをとれば、予算達成できるんじゃないのかと発破をかける。

最初から現実的な65万円を目指すケースと比べて、高い目標100万円を掲げることで、多少は結果も良くなるだろう。その効果を狙ってのことかもしれない。でも、流石に65万円→100万円のような無謀な目標は、蓋を開けると大量の食品ロスにつながる。

念のため多く仕入れたくなる引力

幸いにも予算達成には余裕があるケースだと、明らかに無理な目標は避けられる。それでも、得てして去年より低い目標を掲げるのは許されにくい雰囲気がある。市場の環境として高齢化が進んで胃袋の総量は減ったとしても、売上目標は上乗せしなければ「なぜ手を抜くのだ?」と責められる。

それに加えて、目標よりも多く仕入れる力が働く。例えば機会損失がある。無事に仕入れた分を売り切ったら「よくやった!」ではなく、「もっと多く仕入れて入れれば得られた筈の利益を逃した!」という話になる。上振れを期待して多めに仕入れる。

廃棄は損失に繋がるけれど、そもそも季節商品は利益率が高いので、機会損失のインパクトの方が大きい。また利益率が高いからこそ、夕方以降は割引して売るような選択肢も出てくる。当然、割引すれば売上は落ちるので、それを見越して予算達成のために多く仕入れるというのもある。

昨今は客足が読みにくいので、割引をかけるタイミングを読むのが難しいなんて話もある。安売りに釣られて、買い込んだ消費者の家で起きる食品ロスもある。

みんなで予約すればいいじゃない

予約して買うというのは、まったく素晴らしい解決策だ。現実的ではないということを除けば。

売り手が業界全体で「予約販売のみにしよう」という協定を立てても、そこに加盟していないお店・チェーン店・他業種の店などが出てしまう。

忙しくて予約し忘れた消費者が、予約せずに当日でも買えるお店を見つけると、ありがたく買ってしまう。結果として、協定を守らず当日販売したお店の独り勝ちになる。協定をつくってもチキンレースになって足並みが揃わない。

この話を聞いた妻と子供が「買う側にも問題があったんだ!なるべく予約しよう!」という気付きを得たのは収穫だった。

ではどうすれば解決するのか?

「1人1人が気を付けよう」はその通りなんだけど、もう少しシステマチックに解決できないのかなぁ…ということは妄想する。以下は我が家の素人意見ながら考えてみたこと。

案1:制度設計による解決

家族で話し合っていると「政府が余った恵方巻を買い取って、貧しい人に再配分しよう」みたいな案が挙がった。←この案そのものは、買い取ってもらう前提で多く作ることを許容することになるので悪手だろう。

政府にせよプラットフォーマーにせよ、仕組みで解決を試みるのは良い着想だと思う。各々が得をしようと行動することで、結果として世の中が良くなり、それが勝手に広がってゆくような仕組みがあればよい。

例えば、定められた日までに季節商品を予約してキャッシュレス決裁をすると、キャッシュバックをするような資金投入はアリかなと思う。買い手の予約率を上げるとともに、売り手も乗っかった方が特な状況をつくることで、チキンレースの回避を狙う。

とは言え、キャッシュバック分を織り込んで予約を高めに設定しつつ、当日は安く売る店が出てくるかもしれない。ルール設定(当日販売はアリ?恵方巻ロールケーキまでアリ?)や不正防止(密告した消費者にキャッシュバックしつつ、売り手にペナルティを与える)など、細々と詰める余地はある。

考えればもっと良いアイデアは出るだろうし、サービスデザイン界隈の人が既に考えていそうな気もする。

案2:テクノロジーによる解決

時間が経った食品は売ることができなくなるため、食品ロスが起きる。それならば、時間が経っても食べられるようになれば、廃棄せずに売れるのではないか。

例えば、真空パック・殺菌・瞬間冷凍できる業務用プロダクトと、つくりたて同等に復元できる家庭用プロダクトが普及していれば、翌日以降も販売できるので食品ロスがなくなる。

もしかすると、どこかのスタートアップ企業が既に生み出しているかもしれない。でも、わざわざそれを導入するコスト問題もあれば、普及を待たねばならない問題もある。

また、季節商品ってイベントの日に食べてナンボみたいな消費者心理もあり、食品として売ることが出来ても買い手が付くのかという問題もある。

案3:ブランディングによる意識付け

プラスチックフリー、フェアトレード、ヴィーガンに配慮したものを選ぶことが、ある層の消費者にとっては自己表現にもなる。地球にやさしい私、カッコイイ的な。

同様に、食品ロスを防ぐような取り組みをアイコン化して謳えるようにし、そういった企業から購入することが自己表現となって広がってゆけば、「1人1人が気を付けよう」が現実性を帯びる。

これはブランディング・デザインの腕の見せ所だと捉えている。

昨今の企業がSDGsを無視できないように。季節商品を予約なしに手に入る利便性を提供していたとしても、大量の食品ロスを起こすような企業はバッシングされるようになる。そのリスクが目標達成欲を上回れば、食品ロスを避けねばという力が働くだろう。

この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

「文章でメシを食う」の道を開くため、サポートいただけると励みになります。それを元手にメシを食ってメシレポします。