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『アナと雪の女王』3D Blu-ray 感想

 先日、ふと思い立って『アナと雪の女王』を3Dで観返した。公開当時に好きだった人と観て、めちゃくちゃ寝た。その後に何らかのタイミングでちゃんと観返したけど、やっぱりそんなに好きじゃなかった。それよりも併映された『ミッキーのミニー救出大作戦』のほうが何倍も好きだった。
 と言うか『塔の上のラプンツェル』が好きすぎる。ラプンツェルは人生で初めてIMAX(かつ初IMAX3D)で観た映画で、IMAXの迫力も相まって今でも生涯記憶に残り続ける映画体験の一つとして宝物だ。ランタンが飛び出す3D効果も半端じゃない。だからどうしても比較したときに「アナ雪な~」という気持ちになる。

 まずこの映画、キャラクターの情感で筋がズタズタになっているような感触があって、瞬間瞬間は名曲と共に気持ちを持っていかれるし感動するんだけど、トータルのストーリーとして考えたときに「そんなバカな」となってしまう。それはそれで映画として嫌いじゃないけど、同じディズニーならやっぱり『シュガー・ラッシュ』みたいにストーリーと設定とキャラの感情の辻褄がバキバキにあっている映画のほうが観ていて気持ちが良い。

 ここから本題で、記事のタイトル通り、最近アナ雪をあらためて3D Blu-rayで観返した。「3D Blu-rayって何だよ」という人も多いかもしれないが、3D映画を観れるBlu-rayというものがある。一瞬流行り、一瞬で廃っていった伝説の勇者のような物理メディアである。
 これはPS4とPSVRで誰でも観ることができる。誰でもというのは語弊があって、PSVRで2時間の映画鑑賞に堪えることのできる人だけが観ることができる。PSVRで何本も映画を観ていると首と肩が死ぬほど痛くなる。あとは3Dテレビを持っている変な人か、3D対応のホームシアターを所有する貴族の方も観れる。

 私はPSVRで観た。画質は若干しんどいが3D演出の意図はしっかり汲める。そして3Dで観る『アナと雪の女王』は素晴らしい映画だった。いや、本当に素晴らしい映画だなとしみじみ今も思ってる。それを言いたいがためだけにこの記事を突発的に書き始めてみた。

 まず、3D映画には3種類ある。①「3Dで観ないと真価がわからない3D映画」②「3Dで観るとより楽しめる3D映画」③「2Dで観たほうが楽しめる3D映画」だ。①はほとんどないと個人的には思う。該当するのが『ヒューゴの不思議な発明』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』『ザ・ウォーク』あたりだと思う。
 3Dで観ないと真価がわからない、という表現は大袈裟な言い回しでも何でもなく、言葉通り3Dで観ないと意味が伝わらない映像表現があるという意味。『ヒューゴ~』なんかはかなり重要なシーンでリアルタイムで立体視差がゆっくりズレていくようなショットがあったりして、2Dで観ても何をしている映像なのかわからない。
 ②は『アバター』とかだと思う。「アバターは①だろ!」とキャメロンに怒鳴られそうだけど、アバターは(3Dで観るに越したことはないが)2Dで観てもめちゃくちゃ凄い映画。3Dじゃないと伝わらないような表現も(情緒とか迫力は置いといて)ない。③はちょうど先日に観た『ダーケストアワー 消滅』とかその時期のそういう映画。

 そしてアナ雪は②だ。この文章の流れだと「アナ雪は正真正銘の①だ。だからすごいんだ」と言いたいところだけど、②だ。というか当時も今もファミリー層だけは絶対に取り込みたいディズニーが①みたいな映画を作るはずがない。「2Dで観ても楽しめるけど、3Dで観るとより楽しめる」の究極が『アナと雪の女王』だと言っても過言ではないと思う。詳細を書く。

 まず、雪風吹がものすごい。2Dで観ると画面を左右にゴォーッと吹いているだけの粉雪が、3Dで観ると左右上下、奥から手前へ、手前から奥へとあらゆる方向に散っているのがわかる。つまり風向きがより体感的に把握できる。「いや、風向きなんかどうでもいいっしょ」とか言ってる場合ではない。小さな風向きの方向まで意図やテーマを込められるのがアニメーションだからだ。
 そして、エルサがレリゴーの時に手から出す氷の粒がすごい。何なら3Dで観て初めて「この氷の粒、こういう形で吹き出てたんだ」とわかるぐらいにはすごい。氷の粒が舞い、回転し、消失する流れの美しさ。氷の城の床の温度まで感じる透明感。3Dで観ることによって、よりエルサの美意識というか、深層心理みたいなところに触れた気になる。

 そしてそして、1番すごいのがラプンツェルと比べて「3Dですよ!」みたいな下品なびっくりショットがほぼほぼ存在しないこと。キャラクターの配置の入れ替わり、氷や雪の透明感、質感、そういうところだけで地味に丁寧に「3D映画」の勝負をしている。それでこの3D映画としての豊かさ。本当に感動する。
 それによって何が生まれるのかと言うと、キャラクターの実存感だ。この世界はフルCGの作り物、おもちゃ箱じゃなくて確実にどこか遠くに存在する世界なんだろうという納得感。そこに息づくキャラクターたちは確実に血が通っていて、息をしているんだろうという。
 そういう立体設計の上で、極めつけのマルチリグ。マルチリグとはレイヤーを何層かに分けて各々で別々の立体感をつけるステレオレンダリング方法。これによって画面全体の視差を強くしすぎず、キャラクターだけ自然な丸みを持った立体感として表示することができる。
 そういうところひとつひとつでキャラクターは生きていく。キャラクターを生かすのはストーリーや演出、俳優だけじゃない。技術もだ。技術を上手く使えばこんなにもキャラクターが躍動する。

 そういう意味で、情緒先行でおとぎ話味が強い作劇のアナ雪にとって、この3D戦略は完全に欠点を補うものとして機能する。情緒がストーリーを動かしているのに、画面の奥にはちゃんと生きたキャラクターがいる。これを「映画」と言わずして何と言う。

『アナと雪の女王』の3D Blu-rayは、3D Blu-rayの中ではかなりお手頃な値段で中古が手に入ります。楽しすぎて気が変になる『ミッキーのミニー救出大作戦』の3D版も収録されているという、素晴らしいディスクなので、配信全盛期の今こそ、ひとりでも多くの人に手に取ってほしい。

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