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学校の司書の人。

インタビュー5:学校の司書の人。

~収入を上げたい~

Sさん:取材時28歳の女性。おでんの友人の友人。

インタビュー:2017年春ぐらい

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●1年前から学校配属に。
おでん:Sさんて、何をしてらっしゃるんでしたっけ。
Sさん:あ、私今、小学校で働いてるんですよ。
おでん:えっ、先生ですか。
Sさん:いえ、あの、図書館です。小学校の図書館…。
おでん:あ、司書さんやったんですか。
Sさん:そうなんですよ。
おでん:小学校で働かれて長いんですか?
Sさん:いえ、今2年めなので…、まだ1年間しか経ってないんですよ。その前は普通の公立図書館にいたんですが、去年小学校の配属になって。
おでん:へー、そうやったんですか。小学校の配属になるって知ったときはどう思われました?
Sさん:<渋い顔で>はぁ~…そっかぁ~…。……と思って。自由がなくなるイメージがあったから。
おでん:そんな職場なんですか!?
Sさん:いえ、本当はそんなことないんですけどね(笑)。実際に働いてみたら、カレンダー通りに休めるし、夜遅いこともほとんどないし。…公立図書館で働いていたときは、土日が休めなかったから。今はすごい、楽しく働いてます。
おでん:やっぱり、公立図書館とは雰囲気が違うもんですか。
Sさん:そうですね。公立図書館でも児童サービスはあるんですが、それよりもっとダイレクトな感じですね。不特定多数の人じゃなくて、うちの学校の人にサービスをするわけなんで。利用者との距離が近いというか…。それがしんどいときもあるけど、うちの学校は素直で優しい子どもが多いのでありがたいです。
おでん:子どもとふれ合う機会って、そんなにあります?
Sさん:あ、小学校には「図書」の時間があるんで。
おでん:あー。そんな授業あったな。
Sさん:そうそう。だから、各クラス週に1回は図書室に来てくれるんです。そこで、読み聞かせをやったり本の紹介をしたりしてます。
おでん:へぇー。
Sさん:なんかやっぱ、反応がすぐ返ってくるのはおもしろいですね。ちょっと声をかけるだけで、すぐ手に取ってくれたりするんで。中学生とか高校生とか、もっと年齢が上の子どもだったら、もっとおもしろいものとか刺激的なものを知ってると思うんですけど。小学生にとっては、大人が本を読んでくれるとか、大人が本を紹介してくれるとか、そもそも図書室に行くっていうこと自体が、まだ“楽しいもの”っていう意識があるみたいで。
おでん:そんなもんか~。
Sさん:それに、利用者が限られているから、一人ひとりの傾向や成長が分かるじゃないですか。どんな性格だとか、どんな本が好きかとか…。絵本しか借りてなかった子が、ちょっと難しいの読み出すと「あれ、こんなの選ぶようになったんや」って思ったりして。…それが分かったからって、何も言いませんし、どうするわけでもないですけど。そういうのはおもしろいですねぇ。

●最近は、昔話や童話を読んでいる。
おでん:好きなことについてお伺いしていいですか。
Sさん:あ、はい。いろいろ考えてたんですけど、強いて言うなら、昔話かなって…。
おでん:昔話?桃太郎的な?
Sさん:はい。仕事のために、最近、おもしろい昔話…といわれるものを。ちょっとずつ読んでるんですよ。
おでん:へぇー。
Sさん:今の仕事は、図書室に入れる本を選んだりもしなきゃいけないわけなんですが。なんかやっぱり、本ってすっごいたくさんあるので、その中で何を選ぶかっていうのは、自分の趣味やセンスだけではダメで。
おでん:まあ、確かに、自分の本棚じゃないですもんねぇ…。
Sさん:はい。限られた予算で何を買うかって考えると、結局ベーシックなものを抑えとこうっていう結論に達して。…で、昔話はそれこそ、語り継がれて読み継がれてきたということもあるし、趣味とかも関係ないし、現代の話じゃないのに現代にも通用するし。あと、読み聞かせをしたとき、結構、ウケる率が高い感じがするんです。なんでか分かんないんですけど。
おでん:ウケるんや、意外(笑)。なんか、おすすめの昔話とかありますか。
Sさん:えっと、「かちかち山」っていう話がありますよね。いろんなかちかち山の絵本が出てるんですけど、私はその中で、福音館書店から出てる『かちかちやま』がすごい好きなんですよ。小澤俊夫さんが書いていて、赤羽末吉さんが絵を描いてるんですが。
おでん:ほうほう。
Sさん:あの、おじいさんが畑で豆の世話をしているときに、山からたぬきがやってくるんですけど……
<『かちかちやま』の内容を詳細に語る>
Sさん:……で、たぬきの泥の舟はどんどん崩れていって、沈んでしまうっていう…。あ、なんか私、あらすじ全部言いましたけど(笑)。
おでん:いやー、おもしろかったです。
Sさん:その、私が好きなのは、うさぎがめっちゃひょうひょうとしてるんですよ。表情ひとつ変えないんですよね。たぬきが薪を背負ってるところに、火打石かなんかで火をつけるんですけど、たぬきが「あちちあちち」「うわーっ」ってなってても、うさぎはもう、「ひょー」としてるんですよ。
おでん:ふふふ。
Sさん:挿絵がすごく美しいんですけど、挿絵のうさぎがまた、本当にもう、「ひょー」って顔してるんですよ。
おでん:かっこええなぁ。
Sさん:そうそう、うさぎがめっちゃもう、全部クールなんですよ。正義感たっぷりというわけでもなくてね。それが痛快だしおもしろくて。私、『かちかちやま』は全クラスで読み聞かせしたと思うんですけど、うさぎの台詞を言うところで、毎回おもしろすぎて笑いそうになるんです。
おでん:あははは。昔話って地味なイメージがあったけど、結構おもしろいんですね。
Sさん:そうですね。地味な話って、大人が紹介しないと出会えなかったりするので、できるだけ紹介できればと…。
おでん:じゃあ、子どもに本を紹介するときは、だいたい昔話を選んでるんですか。
Sさん:全部じゃないけど、3回に1回は。
おでん:昔話以外で好きな本とかあります?
Sさん:うーん、そうですね。めっちゃ有名な本なんですけど、『いやいやえん』とか。
おでん:ああ、名前は知ってます。…読まなかったけど。
Sさん:保育園の話なんですけど。その、しげるっていう主人公が全然言うこときかへん子で、もう、めちゃくちゃするんですよね。友だちにばかやろうって言いましたとか、鼻くそなめましたとか。
おでん:えー…。
Sさん:もう、あかんことは全部やる子なんですよ。この子ホントにやばいなって思うんですけど、でも、本で読んだらめっちゃパンクというか。ほわーんとした幼年向きの童話かと思いきや、子どもの過激さや問題児っぷりが具体的に書かれていて、めっちゃおもしろい。
おでん:あははは。
Sさん:保育園の話だけど、小学校で読んだらすごいウケる。あかんことばっかりするけど、子どもにとってはあるあるなんでしょうね。周りにそういう子はいるし、自分にもそういうところあるし、って感じで。
おでん:読んでみたくなってきた。
Sさん:ぜひ読んでください。子ども向けのスタンダードな本っておもしろいんですよ。読んでみたら「あ、そらおもろいわ」って。そういうことを、小学校で働き始めてから知りました。

●司書の仕事とは。
おでん:昔から本は好きだったんですか?
Sさん:普通ですかね。自分が好きなものを好きに読んでる程度で。活字中毒というわけでもないから、全然読んでない時期もあったし。
おでん:ふうん…。でも、司書さんだから、「子どもに本好きになってほしい!」みたいな気持ちはあるんですかね?やっぱり。
Sさん:うーん、元からそんなふうに思ってたわけじゃないですね。正直言って、たくさん本を読むことが良いことなのか分からないし。別に、読まなくても良い子に育つだろうし、幸せにもなれるだろうし。
おでん:あ、そうなんや。
Sさん:でも、私は司書の仕事をしてるわけですから。…あのう、法律で、「子どもの読書を推進していきましょう」っていうのがあるんですよ。で、司書も図書館もその法律の下にあるわけで、私は「本なんか読まんでいいよ」って言える立場では絶対にない。だから、司書の仕事をしている間は、多くの人に本を読んでもらうっていう目的を達成したいとは思ってます。
おでん:なんか、司書さんって、本への愛や情熱が激しくて、「私の大好きな本、みんな読んで~!」みたいな感じやと勝手に思ってました。
Sさん:もちろん、私も好きな本はあるし、勧めたい気持ちもあるんですけど。なんというか、もっと実利的にとらえたいというか。本を読むことが、人生の助けになるってことを知ってほしいですね。
おでん:「本を読むのは得になる」ってことですか。
Sさん:そう考える方が好きなんですよ。すごく落ち込んだ時に、本を読むことで救われて翌日学校に行けたとか。本を読むことで、お金や命や法律に関わる人生の課題を解決できたとか。そういう、具体的なメリットにつながるってことを追求しないと。
おでん:地に足がついた感じ…。
Sさん:小学生がお金や法律の問題に直面することは少ないかもしれないけど、子どものうちに「本や図書館で調べたいことが調べられた」とか、「本や図書館って楽しい」とか、そういう経験をしておけば。大人になって窮地に陥ったときに、本や図書館が何かの役に立てるかもしれない。
おでん:現実的。
Sさん:もちろん、好きを伝えるのも大事ですし、いろんな考え方があっていいんですけどね。
おでん:「図書館不要論」みたいなのもありますもんね。気持ちだけではなかなか…。
Sさん:そう…。それも、「不要じゃないんです~!」って言うだけじゃなくて、きちんと理論武装していかないと。ぼーっとしてたらどんどん…。
おでん:あ、今後の目標を聞いてもいいですか。
Sさん:あ、はい。うーん。えーと…、もうちょっと…、収入を増やしたい(笑)。
おでん:切実やー。
Sさん:あ、もちろん、仕事の目標もありますよ。あのね、子どもの中にはこう、迷路とかウォーリーを探せとか、そういう本しか楽しめない子が結構いるんですよ。もちろん、そういう本が楽しいなら、それはそれでいいんですけど。でも、年齢に合った本が読めない子がいるんですよ。だから…彼らにとって読書がおもんなくなる前に、ちゃんと読書支援をしていきたいということですね。
おでん:一度「本キライ」ってなったら、ひっくり返すのは大変そうですもんね。
Sさん:図書室にいると、1日に2回ぐらい「なんかおもろいのんない?」って聞きにくる子がいて。本読むのが好きな子は、自分の読みたい本とか、好きな作家とかが分かってて、放っといても自分でポンポン選ぶんです。でも、読むのが苦手な子は選ぶのも苦手なんですよ。そういう子が「なんかおもろいのんない?」って聞いてくるんです。そのときに、あんまりおもんない本紹介したり、おもろいけど分厚いのんを紹介したり、何も答えられなかったりすると、信用が失われていくと(笑)。
おでん:プレッシャー…。
Sさん:そう…。で、私の中に、まだそのおもろい本のストックがあんまりないんですよ。だからそのために、いろいろな本の情報を集めて、おもしろい本を知っていかないと。ちょっとでも「ああ、この本読んで良かったなぁ」って経験してもらえるように。
おでん:うんうん。
Sさん:うちの学校、子どもに「家で読書する時間は何時間ですか」みたいなアンケートをとってるんですよ。で、読書時間がゼロの子がおるとか、読書時間が短いとか、そういう結果が分かるんですよね…。だからもう、算数の平均点を5点上げるぐらいの気持ちで、きっちり読書率を上げたい。そのためにも、しっかり勉強して、具体的な手立てを考えないと。…要は、私は、自分が働くことによって、具体的な成果を出したいんですよ!
おでん:おう!
Sさん:で、収入を上げたい。
おでん:なるほど。筋が通ってますなぁ。

<おわり>