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【2021年ベスト読書前半】百年体計モラトリアム

1年が終わる。1年が終わるとどうなる?知らんのか、次の1年が始まる。という感じで、1年が終わることなぞ、私生活には本来何も関係はない。しかし区切りがないとだらだら生きてしまうのが人間というしょうもない生物の性であるから、やっぱり区切りごとに物事を振り返ることに意味はあるのかもしれないと思い直し、今この文章を書いている。ちなみに2021年内に書き終わるはずがこの時期になった、本当にどうしようも無い。

2021年、あなたはどんな年になっただろうか。私は例年に比べ、ほんの少しだけ読書のジャンルを広げられた年になったと思うので、この年間ベスト読書も割と無秩序なものになった。悩んで悩んで15冊に絞ったものの、どうしても順位をつけることができず、ランキングではなく順不同になってしまったが、よかったら今年の私の琴線に触れたものたちを見てほしい。

冊数がそれなりにあるので、サクサクとまとめていきたいと一応思っている。思っているだけになったらすみません。まず今回の前編では7冊の感想を書いてみた。

米澤穂信『本と鍵の季節』

登場人物たちを愛さずにはいられない!読みやすいミステリーだった。米澤お得意の青春もの。下の記事でなかなか気持ち悪く感想を殴り書きしているので、この本についてはよかったらこちらを読んでくださると嬉しい。というわけで割愛。

https://note.com/preview/n0f21b7c98787?prev_access_key=f754f66973f7e5de38c5d16c98820955

角川春樹『存在と時間』

今年は俳句が少し気になり、何冊か俳句集を読んでみたが、1番気に入ったのがこれだった。「存在と時間とジンと晩夏光」という俳句に文字通り痺れた。短い言葉なのに、こんなにハードボイルドかつ情景が鮮やかに浮かび上がるものがあったのか。今まで正直あまり俳句の良さがピンと来ていなかったが、やっとその深さと潔さが分かり、私にとってとても意味のある一冊になった。

上野千鶴子 鈴木涼美『往復書簡 限界から始まる』

生きづらい社会であると感じている人は少なくないと思う。その理由は多種多様であろうが、私は学生という閉ざされた環境から社会へ飛び出したとき、自分がどんなに性差について何も見えていなかったかを身をもって感じ、社会にうんざりすることが本当に増えた。この本は、そんな社会に「限界」を感じている上野千鶴子さんと鈴木涼美さんが、承認欲求や男女など、12のテーマについて書簡をやりとりしたものをまとめた一冊である。

自分の生きづらさの一部が他人によって明確に言語化され、ほっとした気持ちもあるが、より一層この社会がどんなに「限界」かということに対しての解像度が上がってしまい、希望のような絶望のような気持ちになる本だった。

この本は私にはとても刺さったが、実は他人にノリノリ勧めたい本というわけでもない。上野千鶴子さんといえば、フェミニズムをかじっている方でもそうでない方でも一度は耳にしたことがある名前だと思うが、炎上の女王と呼んでも差し支えないくらい燃えまくっている方である。私は上野さんの思想の一部に賛同しているが、全てに納得しているわけでなく(ここで深く問題を書くのはやめておく)、炎上するのも仕方がないよなと思う場面も多々ある。悪意ある切り取り方をされているから炎上しているというのもあるが。

他人に本を勧めた時、私がその内容に全面同意していると思われることは少なくない。この本はどんな性別の方が読んでも間違いなく勉強にはなるとは思うが、そういった意味で他人に全力で薦めたいかと言われると言葉に詰まるのである。

星新一『ノックの音が』

全ての作品が「ノックの音がした。」の一文から始まるショートショート集。

星新一は私が何かを語るのもおこがましいほど、どの作品にもハズレがなくてびっくりしてしまう。このショートショート集も、サスペンスやらコメディやら色んなジャンルを書きつつ、全部きっちり面白い。私は「計略と結果」という作品が特に好みだった。ノックの音がして、医者である主人公の元を訪ねてきたのは、強盗犯である男とその仲間の女の2人組。男の方は警官に撃たれて怪我をしており、治療を強いられるところから物語は始まる。後を引くラストが良かった。

ハズレがないという意味で、私にとって星新一は東野圭吾と同じような立ち位置にいる。何か新鮮な驚きがあるわけではないけれど、どの作品も安定して面白いから、本屋で選ぶときに困らないし、他人にも勧めやすい。毎日食べても飽きない白米のような作家。

アントニー・マン『フランクを始末するには』

ミステリ短編集。ブラックジョーク的な笑いがある。ものすごく好きかと言われるとそういうわけでもないのだが、「買いもの」に衝撃を受けて今回のベスト読書に入れた。なにせ「6月5日 牛乳 新聞 サンドイッチ ガム バナナ キャットフード」といった買いものメモだけのミステリである。よくまぁこういうことを思いつくなあと思った。

これは毎年開催されている、創元推理文庫&創元SF文庫の復刊フェアで購入したものなのだが、名著が名著となり得るには理由があるなという当たり前の感想をもった一冊だった。

山田正紀・恩田陸『SF読書会』

恩田陸信者なので買った本。山田正紀と恩田陸が名作SFについて熱く議論している対談集。めちゃくちゃアツい。小松左京の『果しなき流れの果に』とか、自分が好きでも理解が追いついていなかったりする作品たちについて、大好きな作家が掘り下げてくれる有り難さ。

私がこの本を2021年ベスト読書に選んだのは、恩田陸の大好きな《常野物語》シリーズ(『光の帝国』『蒲公英草紙』『エンド・ゲーム』)が題材にあったから。オタク、感涙である。このシリーズの作品は登場人物もテイストも異なっているが、常野一族という、様々な超能力を持った人たちが登場するという部分だけ共通点がある。どの作品もあたたかくて綺麗だけれど、同時に残酷なくらい恐怖も内包していて、恩田陸はその両立を描くのがとても上手い。ざらっとした感触の文章を書く。あと、『エンド・ゲーム』(『光の帝国』の「オセロ・ゲーム」の続編)を筆頭に、世界観の説明が全然ない。敵対している存在を「あれ」と呼び、彼らを倒すには「裏返す」しかない。何を言っているか分からないと思うが、読み始めると、このわけのわからなさを引きずりながらも読者をぐいぐい引き込むのだから凄い。

さてそんな《常野物語》シリーズだが、今回の対談集を読み、ゼナ・ヘンダースンというアメリカのSF作家の《ピープル》シリーズに大きく影響を受けていることが判明し、思わず五体投地した。なんてありがたい対談集なんだ。作品の背景を知るのが好きな人は絶対にこの本を買った方が良い。

どの部分もとにかく面白いが、だらだら書くのもどうかと思うので泣く泣く「善悪二元論への不信」の部分について絞って書く。今日び善悪は表裏一体というのは一般的な思想であると思うが、この対談集を読んで、善悪二元論が成り立たないことが目立ち始めたのは、確かに9.11以降からかもしれないと思った。この作品の根底にも「敵ー味方というのは相対的なものでしかなく」、「本質的な悪などなくて、ただシステムが悪を発生させてしまう」という思想があると作家たちが話している。どの視点から物事を見るかで敵味方も善悪もひっくり返る、何故なら全ては主観にすぎないから、という恩田陸の思想を知ることができて、垂涎ものの対談であった。

あと《常野物語》シリーズは柳田國男の『遠野物語』を意識しているのかなと予想していたが、恩田陸が「頭のどこかにあった」と回答していて、やっと答え合わせができたのでとてもにっこりした。

ただこの対談集は、題材となっている作品を読んだことがある人か、作家同士が酒を飲みながらイチャイチャしているのを見るのが好きな異常者か、どちらか向けの本ではある。一応始めに各作品のあらすじは記載されているが、それだけでは対談内容を理解しきれない部分が多々ある。(私も未読の作品が題材となっている章は正直楽しみきれなかった。)

そのためこれもSF好きな方には勧めたいが、そうではない人にとっては微妙な一冊ではあると思う。

神林長平『小指の先の天使』

「愛」とは何ぞ。エゴ、依存、恋と変わらない、そのために技術を身につけなければいけないもの、僕らが生まれてくる前からスタートしていたアポロ計画だ、などと人によって色んな答えがあると思うが、私はなんだかどれもピンと来ていない。明確な答えをいつか得られるのかもわからないが、愛のたとえとして何かを挙げるのであれば、この本もそのうちの1つに入るかもと思った。信じられないほどクサいことを言っている、大丈夫か?大丈夫じゃないので誰か助けて欲しい。

SFを読んで涙を流したのが生まれて初めてなもので動揺しており、自分でもマジで何を言っているのか分からなくなってきたが、とにかくこれはSF連作集である。感想を書こうにも、自分に刺さりすぎて、言語化しようとすると本そのものではなく自分について語り始めそうになってしまうので(藤本タツキの『ルックバック』がバズった時にこの現象をよくTwitterで見かけた)、何について書けば良いか分からなくなってしまった。それくらい名著だった。強いて言うなら、自分を閉じがちな人に読んで欲しいと思う。

ちなみにこの本はあとがきもすごく良い。書いているのは私の大好きな作家である桜庭一樹なんだけど、タイトルは「神林。神林。神林。」。オタク丸出し。まだただの学生だったときの桜庭にとって、神林がどんなに偉大で、どんなにお守りのような存在であったかが熱量たっぷりに語られている。これは桜庭一樹の書評集『小説という毒を浴びる』にも載っているが、他人に分かったような口をきかれるのが堪らなく嫌な10代だった人にぜひこの書評も読んで欲しい。

ところで話は逸れるが、私は中学生のときに桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』を心の中で大事に大事にしていた。主人公であるなぎさと、転校生である海野もずくの2人には、ありきたりではあるけれど、各々の地獄があり、私は2人に自己投影していた。全部から逃げ出してしまいたくなった時期、なんとかその場にしがみつけていたのは、あれを読んで自分は砂糖菓子じゃなくて実弾を撃てる(=自分で金を稼いで生きていける)ようになるまでは、自棄になりきることはしないと思えるようになったからだった。

まだ全然重さのある弾は撃てていないけど、それでも当時の約束は守れたなと少しだけ嬉しく思うし、その辺の学生を見て脳死状態で「楽しそうで羨ましい」なんて言う人間にはならずに済んだ。羨ましいのはいくら脂ぎった肉や生クリームを食べても気持ち悪くならない若い身体だけである。もう今スイパラとか行けないよ。

もし10代の頃の自分に会えるのなら、私は無事に実弾を手に入れることが出来て、その重さを持て余したり廃棄したくなったり楽しんだりしているし、今の苦しみはやがて終わって次から次へとやってくる新しい地獄の中をどんどん駆け抜けていくし、良い肉は無理をしてでも食べなさいと言いたい。

結局自分語りになってしまった、もういいか。

前半まとめ

とりあえず7冊書いてみたが、全然短くまとまらなかった!特に後半に向かうにつれてどんどんだらだら長くなってしまった、校長の話か?後半も小説とそれ以外とを織り交ぜながら書いていくつもりなので、良かったらお時間がある時に読んでくださると嬉しい。








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