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君の春になりたかった



3月になったけれど風は冷たくまだ冬の皮を被っていて春の兆しなんて微塵も感じない。
そんなことを思っていたらいつのまにか3月も終わりを迎えていて、またひとつ歳を重ねていた。

3月はまるでジェットコースターのような日々の連続でよく生き抜いたな、と少しだけ自分の背中をさすってあげたくなった。

誕生日、母に『産んでくれてありがとう』と伝えた。
こんなことを言うのは、初めて母の弱い部分を見たとき以来だな〜とあの頃を懐かしく感じる。
こういう言葉、やっぱりちょっと恥ずかしくて照れてしまうんだけど、伝えられるうちに伝えておかないと後悔しちゃうって。わたし知ってる。

もう何も後悔したくない。


3月半ばの2週間ほど夢のような非日常を駆けている感覚に陥っていて、だけどそんな日々が続くわけもなくあれらは幻だったんじゃないかと錯覚する。

最近、苦しくなる恋愛ならしないほうがマシだな〜と少しだけ冷静になってきているわたしです。

まあこんなマインドも今だけなのかな〜とか思ったりするけれど、人間の気持ちなんてものは一瞬で変わったりするので、とりあえず目の前の今だけを考えて生きていくことにしました。



誕生日の次の日、彼と久しぶりに1日一緒に過ごしました。
ずっと彼の家に置かれていたらしい東京のお土産を持って来てくれて、まるで誕生日プレゼントを貰ったかのような気持ちになってすごく嬉しかったです。

その日が終わると彼から『いい一年にしよう』とLINEが送られてきました。
何も深い意味がないことは知っているけれど''しよう''という言い回しに、彼の見ている未来にはわたしがいるの?と、あの日のわたしはまた勘違いをしそうになってしまった。

だけどそれは本当に勘違いで、それからよくかかってきていた電話は1本もなくなったし、LINEの返信も以前とどこか違う気がしている。
もうこんなことを気にするのにも疲れちゃったな。


彼は彼だし、わたしはわたし。
出会えたことが幸せだった。
同じ時間を過ごせたことが幸せだった。
別れも再開もきっとわたしに必要なことだった。


恋愛はタイミングが全てと言うけれど本当にそうなのかもしれない。
わたしたち、今じゃなかったね。

全部綺麗事だけど、もう綺麗事にしちゃってもいいんじゃない?


''じゃあさようならだね
最後に綺麗にしたって
汚れも傷も消えないみたいだ''

''誰かに出会って いつか幸せになったなら
思い出すこともないんだろう''


ちょうど昨日友達が教えてくれた曲の歌詞が今のわたしに刺さりすぎて久しぶりにくらってしまった。


そっか、思い出も時間とともに薄れていってどんな顔で笑っていたのか、どんな声で話していたのか、どんな匂いをまとっていたのか。
全部忘れていっちゃうんだね。寂しいね。

わたしと同じように彼の記憶の中のわたしも薄れていく。


『私のこと忘れないでね。』とkurayamisakaのcinema paradaisoが頭に流れる。
本当はまだあの時の終わりの続きをしたかった。
だけどもう、わたしのこと思い出しちゃだめだよ。



わたしもあなたの春になりたかった。
あなたの春がわたしでありたかった。
冷たい夜を塗りつぶしたかった。

LINEを送るのも電話をかけるのも会うのも、もうわたしじゃないね。
あなたはわたしの長い冬だった。
ふたりで春を迎えたかった。


''ねえ明日からはどこかで偶然見かけても
もう知らないふりをして目を逸らすよ
さようなら そしてありがとう''


暖かい太陽を背中に感じながらタバコを吸っていると、煙と一緒に少しだけ春の匂いがした。


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