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いかにも俺らしい


こういうバランスの話

酒をやめたわけではないが、もう長く飲んでいない。当然のことだが、晩飯にあてる時間が短くなる。というより、うどんとかパスタ、時にはおにぎりやパンなどで簡単にすませるようになった。朝や昼にそれを補うような食事を摂るわけでもない。当たり前のように栄養不足になる。
朝から妙にフラフラして、少々目眩がする。酔いが残っていてフラフラするのは常のことだったが、酒を飲んでいないのに……。どうも様子が違う。動きが鈍く、椅子から立ち上がるだけでもフラつくあり様だ。そばで見ていた者も心配するので、一応ということでかかりつけの医院に向かった。
どうやら貧血の症状だということで、血液検査をする。案の比重が軽いと。
「貧血ですね」
医者はふっと小さく笑った。
食事の話になった。酒を飲まなくなったと、件の話をした。こちらとしては、だから健康になっているはずだと少々胸を張り加減で話したのだ。
すると医者はまたふっと笑った。
「あなたの場合は、お酒を飲みながらタンパク質や脂質を摂っていたのでしょうね。チーズとかハムとか、おつまみもいろいろ摂っていたのでしょう。それがほぼなくなっちゃったわけだから」
「酒をやめちゃダメだったんですねえ」
またまた笑うではないか。しかも呆れ顔で。
「いえいえ、何事もバランスだということです。バランスのいい食事を心がけてください」
「バランスですか……」
バランスのいい、か……。いちばん苦手なところだな。
この偏りが俺の人生だぁ、くらいの勢いで生きてきた。そう100か0なのだ。バランスよくだなんて、そうそう要領をかまして生きてられるかあ。それで70年近く生きてきたのだ。何を今更だな。
しかしある意味健康を保つにも酒が必要だなんていかにも俺らしいな。
仕方がない、今夜から飲むとするか。
そう思った瞬間、頭の中にネオンの花が咲いた。

思い浮かぶのは安い店ばかり

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