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「公募」コピーライターの憂鬱


「公募」コピーライター。
コピーライターという肩書きなら、誰でも知っている肩書きです。一般的には、糸井重里さんが有名ですが、キャッチコピーを書く感覚の鋭い人というイメージでしょうか。

その肩書きに、「公募」が付くと少しだけニュアンスが変わります。具体的には、コンテストを中心に活動するコピーライターであり、本業は何か別のことをしているケースが多い気がします。

優れたコピーを書く能力は、通常のコピーライターと変わらないのですが、公募コピーライターはコンテストごとに求められる要素を見極める力に長けています。彼ら(もしくは彼女ら)は、本業や家事のかたわら、空き時間を使って、ひたすらコピーを書きます。

過去の入賞作を参考にして、自分なりに傾向と対策を立てて、入賞できる作品に仕上げます。人によっては、その分析結果をネット上で販売したりすることで、公募コピーライター界隈をレベルアップさせ、さらに盛り上げようとする存在もいるのです。公募というと、小さな世界ではありますが、最近では侮れない力を持ち始めているのも事実です。

たとえば、新聞広告の日に開催された「#広告しようぜ」です。こちらは、朝日新聞の広告を一般から募集する企画ですが、入賞作は朝日新聞の紙面に実際に先日掲載されました。Twitter上からも気軽に応募できるため、公募コピーライターはいつものコンテストと同じ感覚で投稿して、入賞を競い合いました。
(残念ながら、最終的な入賞作は、クライアント側の意向を加味しながら、デザイン性を重視し、コピーだけの作品は選外となりました)が、コンテスト開始直後はTwitterから投稿されたコピーが大量に同サイト掲載されたため、このコンテストを盛り上げるのに一役買った感があります。公募コピーライターが、まさに火付け役となり、コンテストを盛り上げたのです。

また、新聞広告のコンテストといえば、奈良新聞の「クリエイティブ・アド」があります。こちらは、先ほどの「#広告しようぜ」とは異なり毎月開催されるコンテストです。開催当初はデザインされたものを審査員が品評し、奈良新聞に掲載する作品を決める形式でしたが、途中からキャッチコピーのみでも応募できるようになりました。いわば、公募コピーライターの存在を意識したコンテスト形式になったわけです。

そもそも、公募コピーライターとは、いつから存在したのでしょうか。公募でキャッチコピーを募集する企画は、昔から存在したとは思います。その多くは「標語」と呼ばれ、自治体などが交通安全などの目的で一般に呼びかけ、住民の意識を高めるために開催されたものだったように思います。この頃のコンテストは、賞金も高くなく、選ばれたからといって、他人に自慢できるものではなかったように思います。まだまだ、公募コピーライターと呼べる存在はいなかったのです。

やがて、「公募」というジャンルが確立されたのは、専門の雑誌が発行されたあたりではないかと推測されます。1985年に、「公募ガイド」が季刊誌として創刊。雑誌の登場で、日本全国のコンテストが一冊で見渡せるようになりました。「公募」が趣味である人たちが、一定数いる。そんな世の中になったのです。

公募コピーライターの主戦場の一つに、「ラジオCMコンテスト」という公募形式のコンテストがあります。全国各地のラジオ局が、テーマに沿ったラジオCMコピーを一般から募集する企画で、北は北海道、南は九州まで、あらゆる放送局が開催しています。山口放送が開催する「KRYラジオCM大賞」は、2020年で開催30回目を迎え、おそらく日本最古のラジオCMコンテストであると思われます。「KRYラジオCM大賞」が、日本全国に伝播し、今では、毎月どこかのラジオ局がコンテストを開催している状況が生まれました。ラジオCMコンテストで、倍率何百倍もの競争率を勝ち抜いた猛者が、公募コピーライター界隈ではよく見かける面々です。コツコツと空き時間に、コピーを書き、自分の書いたコピーが少しでも良くなるように、一生懸命に手を加えます。締め切りギリギリまで粘って、作品の精度を上げていく。この姿勢は、通常のコピーライターと一緒です。ただし、仕事でない分、プレッシャーはなく、伸び伸び取り組めるのが特徴だと思います。

そして、公募コピー界の総本山とも呼べる「宣伝会議賞」で、自分のチカラを思いっきり出し切ります。グランプリ賞金100万円も、たしかに魅力的ではあります。が、賞金というよりも、自身の実力を発揮して、最高の結果を手にしたい。そのためのチャンスとして、「宣伝会議賞」を捉えているのです。公募コピーライターの多くは、「MAX応募」と言われる、応募できる制限数いっぱいまでコピーを書いて、書いて、書き続けます。書いては消して、また書いて。自分が出せるチカラの最大限のところまで取り組むのです。公募コピーライターの日常について、お分かりいただけたでしょうか。

これだけ、活躍の機会が増えつつある公募コピーライターですが、それでは、なぜ憂鬱なのか。

その理由を、徐々に今後、解き明かしてまいります。

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