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ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』を振り返る (1/全3記事)

こちらは全3部のうち、1番目の記事になります。

【ゲーム紹介の取り組み】
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それまで反射神経が要求されるアクションゲームが、ゲームとして扱われていた時代にファミコン史上初のAVGとなるパソコンから移植された。
1985年11月29日(金)にファミコンに登場した、あの『ポートピア連続殺人事件』だ。開発チュンソフト発売エニックス、そして、原作はご存知、『ドラゴンクエスト』シリーズでお馴染みの堀井雄二氏。
高価なパソコンから移植され、そして初めて触れるAVGという未知なるジャンルに、ファミっ子の胸は高鳴った。

※本稿は主にファミコン版を中心に書かせていただいています。
メーカー名等は当時の名称を使用しています。

本作は複数の機種でリリースされました

ポートピア連続殺人事件』は、元々パソコンを対象とした、エニックス主催の第1回ゲームホビープログラムコンテストの入選作品です。ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』の開発でタッグを組むことになるチュンソフト中村光一氏の『ドア・ドア』も同コンテストの入選作品です。

[発売機種]
PC-8801,8001,6601,6001
FM-7シリーズ
X1シリーズ
MSXシリーズ
ファミコン
[価格帯]
 3,600円 / 3,800円 / 5,500円 / 5,800円
[媒体種類]
テープ / ディスク / ROM

当時のパソコンは各社の独自仕様でつくられていて、メーカーごとに性能が異なり個性がよく現れていました。この『ポートピア連続殺人事件』も同様に、マシンごとにグラフィックや一部内容が異なるなどの違いがありました。また現在のようにデータを使い回しすることも困難で、他機種への移植作業といっても、ほとんどが一から作り直すような時代でした。

ファミコン版のシステムの特徴

パソコンからファミコンへとプラットフォームを移すにあたり、不慣れなユーザーに対しての改良を行うにあたって、一番顕著に表れていたのがシステムまわりの変更でした。
ファミコン版の発売に至るまでのシステムの変遷は以下のとおりです。

■PC版『ポートピア連続殺人事件』(1983年初出)
コマンド入力

PC-8801版『ポートピア連続殺人事件』冒頭シーン
"ゲンバニ イケ" (現場に行け)等の言葉を自分で入力する(コマンド入力型)
「ゲンバ イケ」等 多少の文字の省略は認められている。

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■PC版『オホーツクに消ゆ』(1984年初出)
コマンド選択

PC-8801版『オホーツクに消ゆ』冒頭シーン
用意されているコマンドを選択するシステムを採用(コマンド選択型)
この作品が初めてコマンド選択型システムを採用したことで知られている。

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■ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』(1985年発売)
PC版『オホーツクに消ゆ』のコマンド選択型を採用

ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』冒頭シーン
"ばしょいどう" (場所移動)等の言葉を選択する(コマンド選択型)
PC-8801版『オホーツクに消ゆ』で登場したコマンド選択型システムを採用。

パソコン版は「コマンド入力型」と呼ばれ、キーボードから直接行動したい言葉を入力しゲームを進める方式が当時の標準的なスタイルでした。その後、言葉探しの問題点を解消するために考え出された「コマンド選択型」のシステムが、PC版『オホーツクに消ゆ』で初めて採用されました。そして最終的にそれがファミコン版『ポートピア連続殺人事件』に持ち込まれ、のちのAVGの標準的な方式として他の作品でも活用されるようになりました。

またファミコン版『ポートピア』は、のちの1986年に控えている『ドラゴンクエスト』の入門用としての役割もあったとのことです。ファミっ子が初のRPG『ドラゴンクエスト』に触れる前に、複雑なシステムに混乱しないようパラメータ要素を差し引いた、このAVG『ポートピア連続殺人事件』で慣れさせておく意図があったといわれています。

“本格”と書いてあるけれど。

「本格サスペンス アドベンチャーゲーム」。
ゲームは花隈町(はなくまちょう)という場所から、サラ金会社社長の密室殺人事件を捜査するという形でスタートします。舞台が神戸とは明示されていませんが、花隈町をはじめ、その他の地名も実在します。堀井氏が兵庫県出身ということもありますが、実在する土地で事件が発生する物語は、次回作にも引き継がれています。
また、「密室」、「アリバイ」、「殺人事件」など、探究心を刺激するキーワードも多く登場し、当時のファミっ子の興味をそそる要素がたくさん盛り込まれていました。
このように実在する地名を使い、そしてサスペンスの設定のみならず、ファミコン版にのみに設けられた地下迷宮や暗号解読など、日常生活では体験できないスパイのようなシチュエーションをも盛り込んで、私たちファミっ子を楽しませてくれました。

犯人は言えないけれど。

世間では、本作をプレイしていなくとも犯人を知っている人は多いのが残念なところですが、物語の性質からさすがにこれは言いたくなる心境です。
ゲーム開始直後、「犯人は誰か」という目的で証拠を集めて物語を進めることになりますが、クライマックスでは単に「犯人捜しゲーム」という観点で、この作品を片付けられないことに気がつきます。
この作品のシステムは、みる、しらべるなどの指示をだすのはボスであるプレイヤーで、部下のヤスがその行動を行います。グラフィックの表現をはじめボスの視点で描かれているため、当然 画面にはボスという人物は登場しません。またボスが自分から発言したり、プレイヤーの意思に反して勝手な行動をとったりもしません。この作品では自分の体験がすべてボスの体験となるため、プレイヤーとの完全な一体化がなされています。
当初このシステムは単に刑事ドラマのようにコンビを組んで捜査をする様子を表現したかったのだと安易に思っていたのですが、クライマックスではこのカラクリを使った理由を知ることになり、なるほどとうなずきます。そう、堀井氏は早くから、このシステムでしか成し得ない方法でAVGを表現していたのです。
AVGはご存知のとおり、物語を進行させる目的以外に、他のジャンルほどすることがなく、一度クリアしてしまえば、作品としての役割を終えてしまいます。創り手はユーザーの一度のプレイに勝負をかけてくことになります。『ポートピア』は、まさにそんな感じの印象でした。

完成度は100%ではないけれど。

この作品は、まだ半導体が高価な時代に発表されたこともあって、バッテリーバックアップはもちろん、パスワードによるゲームの途中記録すらできませんでした。つまり電源を切れば次回は初めからやり直すことになって、継続的にプレイするこのジャンルのゲームでは致命的な仕様でした。
しかしその仕様ゆえ、メモをとり次回以降はいかに要領よくゲームを進めていくかを考えるようになります。何度もプレイするなかで最終的にはいくつかのシーンを飛ばせることに気がつきます。この方法を利用すると物語の流れを知っていれば、30分にも満たない時間でクリアすることができます。通常 AVGといえばフラグを立てるために順序よく情報を得ていく必要がありますが、この作品はフラグチェックされていないイベントやシーンがあって、プレイの仕方によっては前後の話がつながらない事態も起こります。このあたりの事情はゲーム性を左右することにつながるので、堀井氏のファミコン版AVGの次作である、『オホーツクへ消ゆ』への課題となったのではないかと思います。同作は実に丁寧に作られていて、『ポートピア』あっての作品であると感じることができると思います。


現在プレイするには

版権の都合からか、コンシューマ機はファミコンのみの発売で、他機種への移植はありません。現行機でのリメイクやダウンロード販売などの形態でもリリースされていません。
そのため現在はファミコン版のカセットを手に入れる必要があります。価格も安価ですのでこれを機会にプレイされてみてはいかがですか。



『ポートピア連続殺人事件』について、さらに次の記事に続きます‥。

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