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中小企業は広報戦略を立ててPRをしたほうがよい~実務レベルで解説

 PRはパブリック・リレーションズの略語であり、「企業」と「社会や消費者など」の間のコミュニケーションのプロセスのことです(*1)。つまりPRは、企業と社会をつなぎ、企業と消費者をつなぎます。そして企業のPR活動にはしばしば広報という方法が使われます。

大企業はPRや広報に力を入れていますが、中小企業はいかがでしょうか。

もし中小企業の経営者が「PR・広報の必要性を感じていない」と考えていたり、中小企業の従業員が「必要だとは思っているが実施する余裕がない」と思っていたりしたら、ぜひこの記事をご一読ください。

中小企業ほどPR・広報に取り組んだほうがよい理由と、そこから何が得られるのかを解説します。


*1:https://www.dentsuprc.co.jp/pr/beginners/


すべての企業にPRが必要だから中小企業にも広報が必要

大企業がPRと広報に熱心に取り組むのは、費用対効果が高いからであり、人的または資金的な余裕があるからではありません。企業活動にPR・広報が役立つからコストと手間と時間をかけて取り組んでいるのです。

したがって中小企業もPR・広報に取り組んだほうがよい、といえます。


PRとは、広報とは


PRとは、広報とはなんなのか。その答えは3つあります(*1)。


■PRと広報の定義

●PRは戦略的コミュニケーションのプロセスである

●広報とは、企業などがPRについて社会に情報発信することである


PRと広報はしばしば同じ言葉のように使われ、ある企業はPR活動といい、別の企業は広報活動と呼びます。

ただし厳密には、PRは「概念または目標」、広報は「ツールまたは手段」という違いがあります。PRを実現するために広報を行う、といった関係にあります。


戦略的とは、コミュニケーションとは、プロセスとは


PRは戦略的コミュニケーションのプロセスのことなのですが、では戦略的とは、コミュニケーションとは、プロセスとはなんなのでしょうか。


戦略的とは、企業が戦略を立てて実施すべきもの、という意味になります。すなわちPRは、ただなんとなく情報発信して達成できるものではなく、企業が目標を立てて、目標を達成する計画を立てて実行することでようやく成果が得られるものです。


PRにおけるコミュニケーションとは、企業とパブリックの間のコミュニケーションのことです。パブリックには社会や消費者のほかに、自社の従業員や株主や行政機関や取引先なども含まれます。企業が関係するすべての人や組織や団体や利害関係者がPRの対象になります。


そしてプロセスは過程という意味なので、世間にみえるPR活動や広報活動だけでなく、その前の準備段階や、そのあとの影響や効果などもPRに含まれることを意味しています。


企業が情報発信する、とは~宣伝・広告との違い


広報活動とは、企業自らが能動的に自社に関する情報を発信していくことです。

企業が新商品を開発したとき、広告を出したり、SNSで使い方を解説したりすると思いますが、この活動のことをPRと呼ぶことがあります。よく「新商品をPRする」といったりするでしょう。


したがって宣伝はPRに含まれると解釈することもできるのですが、「PR・広報」といったときは「宣伝・広告」とは区別したほうがよいでしょう。


宣伝・広告には「よいものですから買ってください」という要素が濃厚に含まれます。

一方、PR・広報では、そこまで露骨にアピールしません。企業や商品・サービスのありのままの姿を伝えて「このような取り組みをしています」「このようなものです」と伝えます。


PR・広報に宣伝・広告の意図が含まれてしまうと、消費者はそれを察知して「結局、宣伝か」と落胆します。「広告疲れ」という言葉があるほど、宣伝・広告を嫌う消費者もいます。

PR・広報は、いわゆる宣伝臭や広告臭を出さないことで、パブリックの共感を得ることを目指します。


もちろん企業活動の1つなので、売上増や利益増はPR・広報の目標の1つになりえます。しかしPR・広報の目標は、宣伝・広告の目標より高いものを設定したほうがよいでしょう。

例えば、企業価値を高めること、ブランディングに貢献すること、社会的評価を集めること、などがPR・広報の目標になりえます。

そのために自社の情報を発信していくことがPR・広報活動になります。


PR・広報の本質とは~何が得られるのか


PR活動にも広報活動にも、手間とコストと時間がかかります。そうまでして、企業は何を得ることができるのでしょうか。


認知度や企業価値の向上、ブランディング、社会的評価、売上・利益増


PR・広報活動で企業が得ることができるものは次のとおりです。


■PR・広報活動が成功したときに得られるものの一部

●商品やサービスの認知度の向上

●企業価値を高める

●ブランディングの成功

●社会的評価の高まり

●売上増、利益増


これら以外にも得られるものはあると思いますが、少なくともこれらはPR・広報が成功すれば得られるはずです。


果実が確実に得られ、果実を得るまでの時間を短くすることができる


ここまでの説明で次のような疑問が湧くかもしれません。


●PR・広報をしなくても、売上が増えたり企業価値が向上したりすることがあるのではないか


この疑問の答えは「そのとおりです」となるでしょう。

画期的な新サービスを開発し、広告に予算をかければ、認知度が上がり、販売が伸び、売上や利益が増え、企業価値が向上するかもしれません。

しかし、画期的な新サービスをつくり、広告に力を入れてもヒットしないことはよくあることではないでしょうか。

また、画期的な新サービスを世に出したところ、当初はまったく売れなかったが、数年後にヒットしたといったことも起きます。


なぜPR・広報活動が必要なのか――。それはPR・広報活動を行えば、画期的な新サービスをヒットさせる確率が高くなったり、売上増や企業価値向上やブランディングを短期間で成し遂げることができたりします。

それはPR・広報には効率的かつ効果的に知らせる力があるからです。


企業は「商品やサービスの認知度を向上させたい」「企業価値を高めたい」「ブランディングを成功させたい」「社会的評価を高めたい」「売上や利益を増やしたい」といった希望を持っていると思います。これらが果実です。

PR・広報は、これらの果実を確実に得られるようにして、果実が得られるまでの時間を短くすることができます。


中小企業と大企業のPR・広報戦略の違い


もし中小企業の経営者や従業員が「うちの会社にはPRも広報も必要ない」と感じていたら、それは大企業が展開する大々的なPR・広報活動をイメージしているからではないでしょうか。


例えばトヨタ自動車は、在京テレビ局の有名アナウンサーだった人を複数人雇いPR・広報活動に力を入れています(*2、3)。

例えばユニクロを展開するファーストリテイリングは、環境にプラスになる取り組みを多額の予算をかけて実行し、それを公式サイトで知らせています(*4)。

そのほかにも、メディアにプレスリリースを送信したり、SNSや動画を駆使したりして、自社商品や自社サービスや自社自体の露出度を高めている大企業は数多(あまた)存在します(*5)。


中小企業がこうした取り組みをすることは、人的面でもコスト面でも難しいでしょう。

しかし中小企業が大企業のPR・広報活動を真似る必要はなく、次のように進めていけばよいのです。


■中小企業のPR・広報活動のコツ

●予算をかけない

●手間をかけない

●できることから始める

●地道にやる

●長くやる


中小企業はこうした観点を持ち、PR・広報戦略を進めていくとよいでしょう。


*2:https://www.jprime.jp/articles/-/26277?display=b

*3:https://www.advertimes.com/20210527/article352056/

*4:https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/report/2021/planet/

*5:https://sovec20210304.peatix.com/?lang=ja


中小企業のPR・広報の進め方


中小企業のPR・広報の進め方を紹介します。ただここで紹介する進め方は一例であり、PR・広報の在り方は千差万別です。ここで紹介する方法をベースにして、自社でアレンジしてみてはいかがでしょうか。


PR・広報チームをつくる


PR・広報活動は業務になるので担当者を決めます。

もし会社の規模がそれほど大きくないのであれば、経営者がPR・広報チームのリーダーになってもよいでしょう。


状況分析と課題の洗い出し


PR・広報のスタート地点は、自社と自社製品・サービスの状況分析と課題の洗い出しになります。

例えば次のような課題はないでしょうか。


●自社製品・サービスの機能や価値が消費者や顧客に理解されていない

●自社の社会貢献が世間に認知されていない

●自社の環境活動が知られていない

●自社の認知度が低い

●求職者や就活生に知られていない

●研究開発コストに見合った売上高や利益が出ていない


自社と自社製品・サービスの課題をすべて洗い出してから、PR・広報で解決できるものを探します。


目標を立てる~PR・広報で達成できることは限られている


課題がみつかったら、次にPR・広報活動の目標を立てます。

目標は「PR・広報活動が完了したら何を得ていたいか」といった観点で選ぶとよいでしょう。

目標は、先ほど紹介した「PR・広報活動が成功したときに得られるもの」にすることもできます。


■(再掲)PR・広報活動が成功したときに得られるものの一部

●商品やサービスの認知度の向上

●企業価値を高める

●ブランディングの成功

●社会的評価の高まり

●売上増、利益増


戦略・戦術を練る~何をするか


目標を設定できたら、何をするのかを検討します。これが戦略・戦術になります。

「何をするか」を検討するときに役立つのが、先ほど紹介した「中小企業のPR・広報活動のコツ」です。


■(再掲)中小企業のPR・広報活動のコツ

●予算をかけない

●手間をかけない

●できることから始める

●地道にやる

●長くやる


例えば、企業がSNSの公式アカウントを取得して情報発信することは、予算がほとんどかかりません。

また新製品を開発したら、取引先や顧客に向けたパンフレットをつくったり、公式サイトに情報を載せたりすると思います。その情報をプレスリリースにして、新聞社やテレビ局などのメディア企業に送ることができます。これは予算も手間もかかりません。


成果を測定する~PDCAを回す


PR・広報活動は会社が存続する限り続けていくものです。

しかし、ダラダラと続けて、ただ単に情報を発信しているだけでは効果を期待することができません。そこで「1つのPR・広報活動」を定めて、それが完了したら成果を測定するようにしてください。


例えば、1年間にわたって毎週1回、5分の商品紹介動画をつくってユーチューブにアップする、ということを「1つのPR・広報活動」にします。

これが終了したら、つまり1年後に目標の達成度を測ります。売上や利益は伸びたか、知名度を高まったか、資料請求件数は増えたか、といったことが成果測定になります。


そのあとはPDCAで回していきます。

成果が出ていたらそれを伸ばす方法を考え、成果が不十分であればその原因を追究し、その答えを「次の1つのPR・広報活動」の戦略・戦術に盛り込んでいきます。


中小企業がPR・広報するときの注意点


中小企業がPR・広報活動に取り組むときの注意点を紹介します。


人的余裕がない~経営者や管理職がやってもよい


人的余裕がある大企業であれば、PR・広報の専属スタッフを確保できますが、中小企業には難しいかもしれません。

そこで中小企業は、兼任者にPR・広報の仕事をしてもらってはいかがでしょうか。

「営業+PR・広報」「販売+PR・広報」「開発+PR・広報」「総務・経理+PR・広報」といった兼務体制を取ることは有効です。


例えば、営業部、販売部、開発部、総務部、経理部から1人ずつPR・広報兼務者を出せば、それぞれの観点からPR戦略や広報戦術を練ることができます。

そして経営者や管理職も積極的にPR・広報に関わったほうがよいでしょう。そうすることで企業理念をPR・広報に盛り込みやすくなります。


商品・サービス・事業ありきであり、PR・広報ありきにはならない


PR・広報は、伝えたいモノ・コトを、社会や消費者などの伝える活動です。

そのためPR・広報は「伝えたいモノ・コトありき」になるはずです。そして企業伝えたいモノ・コトは、商品、サービス、事業になるでしょう。

つまり、よい商品、よいサービス、よい事業がなければ、いくらPR・広報活動を充実させても社会や消費者には届きません。

PRのためのPRや、広報のための広報に陥らないようにしたいものです。


続ける


PR・広報活動には効果が出るまでに時間がかかるという欠点があります。

先ほど、「PR・広報活動は、果実が得られるまでの時間を短くすることができる」と説明しましたが、これはPR・広報活動を何もしなかったときとの比較です。

宣伝・広告と比べるとPR・広報は効果が出るまでに時間がかかります。


ありのままを伝える


PR・広報では、ありのままに伝えるようにしてください。嘘や虚飾はもちろんのこと「盛ること」も避けましょう。

また、イメージではなく、リアルを重視します。雰囲気ではなく実態を知らせます。

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