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書籍「「禅的」対話で社員の意識を変えた トゥルー・イノベーション」読了


https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/448418222X

◎タイトル:「禅的」対話で社員の意識を変えた トゥルー・イノベーション
◎著者:三木康司
◎出版社:CCCメディアハウス


理屈からイノベーションを起こそうとしても無理がある。内なる衝動、マグマのように溢れる情熱が実は本質。
問題はその衝動をどうやって認識するかである。
スティーブ・ジョブズが禅に傾倒していたことは有名であるが、「内なる声を聞く」「自分自身と向き合う」ことが、今の時代にものすごく大事なのはすごくよく分かる。
とにかく現代はノイズが多過ぎる。
スマホには引っ切り無しに通知が届き、情報も溢れている。
最先端の情報を追いかけていると言っても、正直食傷気味だ。
結局これだけの情報をすべて咀嚼して理解できる訳がないし、覚えるだけでも既に無理である。
一生かかっても読み切れない書籍に溢れ、その何億倍もの情報がネット上を踊っている。
やはり、内面に向かうことがよさそうだ。
私自身も「禅」ではないが、長時間のスロージョギングをすることで、それに近いことを実践しているつもりだ。
大体2時間くらいを超スローペースで走るのであるが、スマホなど電子機器を2時間触らないだけでも、効果がありそうな気がしている。
とにかくゆっくりと息を切らさず走る中で、頭の中が整理され、自分自身について考え、ものすごく自己の精神に有益なことだと気が付いたのだ。
日常生活で、特に仕事をしていると、たった2時間だけでもスマホを手放すなんて出来ないだろう。
こうして無理しても、自分と向き合う時間を作ることは、この現代社会だからこそ意味があるのだと思うのだ。
SNSで他人とコミュニケーションを取る事も重要かもしれない。
しかし引っ切り無しに他人と繋がっていたら、それこそ精神が疲れきってしまう。
繋がりから隔離される時間を設け、その時間を自分の内面との繋がりに充てる訳だ。
本書では禅の他に、イノベーションを創発するためのワークショップの内容を具体的に記してくれている。
ウサギとカメのイノベーションの理屈も面白い。
確かにウサギタイプでは、最初は速いが、徐々に失速して尻つぼみになるのはよく分かる。
理屈を始点にして動き出すと、内なる衝動から動く訳ではないために、最後までやり切れないのだ。
一方でカメタイプは、最初は一人の変人が言い出して、中々プロジェクトが進まないが、賛同者が1人増え2人増え、その内に臨界点を超えて一気にイノベーションが起こるという。
結局マーケティングとか、競合他社とか、理屈から入るよりも、「内なる衝動」を探すやり方が遠回りなようで近道ということなのだ。
そして次のステップが「ワクワク・トレジャーハンティング」というワーク。
これも名前は単純であるが、考え方は深い。
このアプローチを生み出したのがスゴイ。
このワークと比較すると、今までの企業のブレストやアイディアソンなどが、「方向性が間違ってないか」とも思えてしまう。
(とは言え企業の中で「内なる声を聞け」と言っても、誰もついてきてくれないだろう)
最初のステップとしては、自分が持っている能力を、まずは細分化し、整理してみる。
これは転職活動などをする際でも行うことだ。
改めて、自分自身の能力の棚卸をすることは、自己の振り返りのためにも意味がある。
そして次のステップが「10歳の頃にワクワクしたことを記述する」ことだ。
確かに子供の頃に夢中になったことは、自身の本心であり、本質なのではないかと思える。
大人になった今の自分には忘れてしまっている、ワクワク感、ドキドキ感という感覚。
それこそが内なる衝動の源泉なのだという理屈だ。
そして最後のステップで、この棚卸した能力と、ワクワクドキドキの交差点を掘り起こす作業に入る。
ここは著者主催のやり方で掘り出すらしいが、答えを示すのではなく、「対話」を重視して本人たちに気付かせるアプローチを取るという。
この手法も面白い。
この対話において、場所というか空間の状況も非常に細かく指定があるのが面白いと感じた点だ。
例えば会社の会議であっても、本来は、適正な参加人数や、参加者の質、座る位置、ホワイトボードやモニタ画面などツールの有無、とにかくあらゆるものを最適にしなければ会議の質は上がらないはずなのだ。
「まずは、創発しやすい雰囲気を作る」
こういう細かい点にこだわる事も非常に好感が持てる。
会社の中ではおざなりにされ、ついつい見過ごされてしまう部分である。
こういう所作を一つ一つ丁寧に行うことで、良質なアウトプットが生まれる。
イノベーションとは、生み出すものである。
だからこそ生まれやすいように、その雰囲気作りは非常に大事なのである。
「啐啄同時(そったくどうじ)」を目指すというのも、自分には無かった発想だ。
ヒナが卵から孵化するとき、内側からクチバシで殻をつつく。
親鳥はそれを待って、外側からもタイミングよく殻をつつくという。
内側のヒナと外側の親鳥が同時に行うことで、ヒナが無事に孵るのである。
これは良い言葉だ。是非覚えて、今後も使っていきたい。
合わせて「十牛図(とうぎゅうず)」の最後の言葉「入鄽垂手(にってんすいしゅ)」も良い言葉だ。
過去様々な経験をした人が、今度は自らが今後出会う人に対して教えたり、影響を与えたりすることを言うそうだ。
これも深い。
本書は確かに宗教っぽい部分もあるが、「禅を使って内省し、その後対話を使って真の内なる衝動を掘り出す」ということは、確かにイノベーション創発に有用な手法だと思ってしまった。
これだけ情報が溢れ、更には定型業務はAIが行い、分析や効率化もAIが得意とするところである。
人間が機械に勝つには、内なる衝動や情熱しかないのではなかろうか。
そう考えると、この手法はあながち間違ってはいない。
どれだけ考えたか。どれだけ自分の情熱の火を燃やすか。
これからの時代は特に必要な能力なのだと思うのだ。
(2023/5/21)

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