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書籍【ゲームチェンジ日本】読了

https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/4295202126

◎タイトル:ゲームチェンジ日本
◎著者:真壁昭夫
◎出版社:MdN新書


当然であるが、本当に重要なことは、変化を機敏に察知し、それに対応することだ。恐れている場合ではない。
「失われた30年」という言葉も、空虚さだけが漂う。
30年前に新入社員だった人々も、とっくに50代後半で役職定年という年代だ。
経営のかじ取りを、30年間変わらずに行っている企業なんてほとんどないだろう。
そもそも取締役だってどんどん入れ替わり、その都度年代だって若返っているはずなのだ。
それなのに停滞から抜け出せない原因は何なのか?
ひとつには「世界の変化の方が早かった」ということがあげられると思う。
ある変化が起きて、それをキャッチアップするだけでも数年を要してしまう。
そこで初めて戦いの土俵に乗れる訳であるが、その時すでに勝敗はついていて、後から参戦しても逆転勝ちするのは難しい。
実は日本経済の停滞は、これの繰り返しだったのではないだろうか。
製造業が主体のころは、新しい変化が出てきても、キャッチアップできていたのだろう。
「製造業」という業種が日本人の気質に合っていたことも、優位な点だったのかもしれない。

日本ではたまたまバブル崩壊の後に当たるが、その後インターネットが一般化し、それに伴ってITの進化、スマホの発明、AIの発展などなどが同一線上で拡大再生産されていった。
簡単に言えば、日本はこの波に乗れなかったということだ。
その答えは単純だ。
「ルールを作る側に回れなかった」ということが、負け戦の最大の要因と言えるのではないだろうか。
製造業主体の頃は、変化が緩やかだったので、それでも何とかなっていた。
しかしIT・デジタル・インターネットの世界は、とてつもなく変化のスピードが速い。
それはほとんどがソフトウェアの世界だからだが、ここが追い付けなかった。
もちろんITだってハードウェアが大事であるが、ソフトあってのハードだった点が、今までの製造業と大きく異なる点だ。
ソフトもハードも、両方とも大事であることは間違いない。
しかし、圧倒的にソフトウェアの部分で、波に乗ることが出来なかった。
だからこそ、それに付随するハードの部分までも弱くなってしまったのではないだろうか。
そういう意味で、日本という国家は、自分たちではルールを作る側に回れず、常に決められたルールの中で右往左往する存在なのだ。
もしあるルールの上で日本の産業が好調ならば、アメリカとヨーロッパはルールそのものを変更して、日本を潰しにくる。
これは産業界のみならず、オリンピック競技を見ていても感じる部分だ。
日本がこれから世界で存在感を示していくためには、ルールを作る側に回りたい。
しかしそれは現実的には相当に難しいことだろうと思う。
その既得権益を、アメリカもヨーロッパも手放す訳がない。
そこには狡猾さも必要で、そもそもお人好しの日本人にはそういう狡賢い戦い方が似合わない。
だったらどうやって我々は戦っていくのか。
これを日本国民が知恵を絞って議論して、答えを見つけていく必要があると思うのだ。
新ルールによって、世界情勢は確実にゲームチェンジが起こる。
それが、本書で上げられている3点「脱炭素」「半導体」「EV」だ。
もちろんこれ以外にも多数あると思うが、日本がゲームチェンジに上手に乗らなければいけないのはこの3点だろう。
というのも、ここで真剣に取り組まないと、日本経済の未来に大きなダメージが起きることは必須だからだ。
国際競争が熾烈化する中で、日本だけが無関係でいられるはずがない。
つまり、何もしなくても巻き込まれてしまっているのだ。それが今の世界情勢なのだ。
これまでとは異なる発想、価値観を持つことで、自らゲームチェンジする側に回っていく。
現状維持バイアスの気持ちをかなぐり捨ててでも、変化を真正面から受け止める必要があると思う。
3点とも密接に関連している事項のために、どれか1点をやればよいという状況ではない。
強弱はあると思うが、3点のバランスをどうやって取りながら、日本がどこを目指していくのか。
ここは賢く戦略を練っていきたい。
「脱炭素」も「EV」も、確かに環境に良い事は進めるべきであるが、そのルールを積極的に主導しているのは主にEU(欧州)だ。
EU諸国は、2035年にはディーゼルとガソリンの新車を廃止すると発表している。
しかしこれもルールが先か、技術が先かは微妙な話だ。
ガソリン車販売がメインの日本では逆風であるが、現実問題として、EVシフトは様々な点で難しい面もある。
寒冷地や、熱帯など気温の高低によって、現状の充電池では最大パフォーマンスが出ない。
マイナス気温の中で、車が動かず立ち往生すれば、それこそ命に関わってしまう。
都市部であれば充電ステーションが設置可能であるが、発展途上国の山村などでは電気を引くことすらまだまだ難しかったりする。
トヨタなどは全方位戦略で、ガソリン車は当然であるが、ハイブリッド車、EV車、水素車も含めて開発をしていく構えだが、ここにも逆風が吹いている。
EVに特化しないトヨタの戦略はどう考えても正しいと思うのだが、脱炭素・EVを推し進めるEUからすると、それを黙認することは出来ない。
この綱引きがどうなるかだが、もし世界中でEVが中心になった際は、大きなゲームチェンジと言えるだろう。
既存の自動車メーカーの優位性ははく奪され、パーツごとのモジュール化が進むことで、プラモデルを組み立てるように自動車が生産できる状況になってしまう。
そうなった時に世界の自動車産業のパワーバランスはどうなっていくのか。
2035年ガソリン車の廃止が、実際に達成可能な数字なのかどうか。
状況次第によっては、更にルールを変更していく可能性もあるため、状況を注視していくしかない。
「脱炭素」についても、「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」というのが、一つの指標になっているが、これも実質的に欧州が主導で決めたルールと言える。
エネルギーを化石燃料に頼っている日本にとっては、ここも逆風以外の何モノでもない。
現実的に原子力にも頼れない状況で、本書にも記載があるが再エネ(風力・太陽光)メーカーは日本ではほとんど育っておらず、内製で手配が出来る状況でもない。
再エネ比率を上げるためには、その技術を海外からの輸入に頼らざるを得ず、ここも首根っこを掴まれている状況だ。
日本はそもそもエネルギー問題を抱えている国家であるが、今後もこの弱みがどう影響するのかと訝しんでしまう。
そして「半導体」だ。
かつては日本企業が世界的に大きな優位性を持っていたにも関わらず、これこそルールを変えられたことで、凋落してしまった。
現状は台湾TSMCが製造では圧倒的世界シェアを誇っており、それがむしろ世界の大きなリスクだとも言われて、ゲームチェンジを図ろうとしている。
当然中国と台湾の関係もあるし、万一有事にでもなれば、世界的に影響が出ることは間違いない。
日本だって半導体を今後もすべて輸入に頼っていたら、万一の時は大きなダメージを受けることが予想される。
だからこそ今は国内生産すべく工場新設などを急いでいるが、技術的にもどこまでのものが製造可能となるのか。
EVにも関連するが、今後すべての電子機器に半導体が搭載されるのは間違いない。
それらは機器の制御に使われるのは勿論、センサーで取得した情報を解析するのにも利用され、さらにネットに接続することで大量のデータを送信するのにも利用される。
小売業でも「ICタグ」は見慣れてきたが、今後あらゆる商品にICタグが付けられるとすれば、これらも含めてICチップの需要は拡大し続けるのは必至である。
結局、資源にしても半導体にしても、どこまで内製できるかで世界的な有事になった際のリスクを許容できるかが決まってくると思う。
そういう意味では、食料自給率だって、いつまで海外からの輸入に頼っていられるのか。
全く個人的な意見であるが、国内のエネルギー問題は「脱炭素」の文脈が無くても、必ず解決しなければいけない大きな課題だと感じている。
約80年以上前、不幸な戦争に突入した直接の原因は、資源の取り合いによるものだった。
持つ者と持たざる者の不均衡は、戦争では解決しない。
だからと言って「みんな仲良く分け合おう」と言っても、そんなおとぎ話も通用しない。
日本はもっと賢くなる必要がある。
世界のルールを変える側に行くのはハードルが高いが、ひっそりと独自路線で、世界の争いに出来るだけ巻き込まれないような立ち位置を確保することは出来そうな気がする。
日本は益々高齢化と人口減で、世界の中では発言力が弱まっていくだろう。
その中で真正面から戦いを挑むことは、どう考えても得策と思えない。
「戦略とは、戦わずして勝利すること」と言ったのは、孫子だったか。
とにかく最小限の力で最大限の結果を得られるように、賢くいきたいものである。
(2024/1/29月)


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