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書籍【チャイナ・イノベーション2~中国のデジタル強国戦略】読了

https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/4296000101

◎タイトル:チャイナ・イノベーション2 中国のデジタル強国戦略
◎著者:李 智慧
◎出版社:日経BP


アリババ・テンセント・ファーウェイ。各企業の経営戦略が網羅的に解説されていて、ものすごく参考になる。
日本企業は戦後に輝かしい復興を遂げて成長したが、それから50年遅れて中国がこれだけ攻めてくるとは、昭和時代に誰が想像しただろうか。
日本は過去の栄光に頼って、守りに入ったままでいいのか。
本書を読んで、逞しい中国企業に見習う点は多いと感じた。
ファーウェイはこれだけの米国制裁を受けているにも関わらず、今でも未来に向けた研究開発に惜しみなく投資をしている。
創業間もない時期に、旧来の中国企業ではなく、世界に打って出るために「米国の靴を履く」と決めたという。
その後ファーウェイは、IBMへのコンサル料も値切らずに業務を委託し、さらにオフィスも米国風に建て替えてコーヒーマシンを入れ、トイレも様式にしたという。
そして、中国の国内から超優秀な大学院生などを高額の報酬で引き入れ、本業で上げた利益を将来の研究開発に充てている。
これだけでも、今の日本企業に欠けているハングリーさが垣間見える。
日本の特徴である「みんな仲良く」は、世界の競争という文脈ではとにかく生ぬるい。
もちろん他人を思いやらない個人主義も行き過ぎるとよくないが、個人的意見としては、日本はもっと競争すべきだと思うし、挑戦もすべきだと思う。
世界では、足の引っ張り合いもあるだろうし、自分さえよければいいということもあるだろう。
しかし、それが世界標準であるならば、そこでの戦い方もきちんと学んでおかないと、いざという時に全く歯が立たずに敗北してしまう。
世界がどのように戦っているのかは、強く意識しなければいけない。
ファーウェイ自体は米国から様々な制裁を受けているが、企業としての地力があるからこそ強い。
創業者の任正非(じん せいひ)氏は、「いかなることがあってもアメリカを恨まない」と語り、結果最新スマホについては、国産のCPUを自前で調達し作り上げたくらいだ。
今後ファーウェイがどこまで伸びていくかは不明だが、日本でこういう企業が出てきていないのも事実。
見習うところは非常に多いのではないだろうか。
本書内では、さらにTikTok(バイトダンス)についても取り上げられていた。
バイトダンスの実体について知らないことが多かったので、ここで企業の概要を知れたのは非常にプラスだった。
確かにバイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイと比較しても、創業者の張一鳴(チャン・イーミン)氏は格段に若い。
すでに張一鳴氏はCEOを退任しているが、若い企業であることは間違いない。
TikTokは世界的なヒットアプリになったが、バイトダンスはそれまでも数々のアプリをリリースしているという。
張一鳴氏は「プロダクトを作るように会社を作る」と語っている。
これは意外と深い言葉だ。
会社を長く継続していると、事業形態も徐々に変わり、さらに創業時からの社員も減り、新しい人材に入れ替わっていく。
そうなると、どんな組織であっても縦割りになり、官僚主義に陥り、意思決定のスピードは鈍化してしまう。
会社経営と、自分たちの製品やサービスとが分断されるということが起きてくる。
それによって会社ごっこが蔓延し、顧客のことよりも社内政治に精を出すなんてことも起きてしまう。
そういう戒めの意味も込めていると思うが、本来はプロダクトと会社はイコールであるべきという理念らしい。
確かに新しいプロダクトを作成すれば、単純にそれを販売するだけではなく、収益管理も必要だし、顧客サポートも必要だ。
会社の中では、それらが別々のチームだったり部門だったりで管理されている訳だが、独立した会社のような形で業務をした方が、仕事が「自分ごと化」して責任感が生まれるのかもしれない。
当然自律的な社員が多ければ、事業の成長度合いも相当に変わってくるはずだ。
バイトダンスの企業文化として「不便であれば、自分たちで作ってしまおう」というのが根付いているらしい。
これは高い技術力があるからこその発想であるが、当時社内で使っていたオフィスツール(MS OfficeやGoogle Workspaceのようなもの)が使いづらく、結果自前で作ってしまったという。
これが、オフィスツール「飛書」ということであるが、生産性が格段に上がったのだという。
結局社内の細やかな課題についても、かゆいところまで手が届く訳で、自分たちの仕事に合ったツールによって、格段に働きやすくなったという。これも日本ではなかなか真似できないところだ。
張氏いわく、バイトダンスは「堅実かつロマンチックな会社」なのだそうだ。
自社のことをロマンチックという社長もめずらしいが、今後の会社経営としては重要な考え方かもしれない。
製品を作って売ればよいという時代はとっくに終わっている。
企業がどういう世界観を持っていて、どういう方向性を目指しているのか。
そこに賛同できなければ、優秀な社員も獲得できないし、つなぎ止めておくこともできない。
バイトダンスは人事制度として「OKR」(目標と成果指標=Objectives and Key Results)も導入しているという。
企業によってOKRの使い方は異なると思うが「人事評価というよりも、コミュニケーションツールとして利用している」という発言が、OKRの本質を理解していると感じた。
当社もOKRを導入して数年経過しているが、まだまだ社員に浸透しているとは言い難い。
それまでの企業文化を変えることは簡単ではないが、社員個々人の発想を変えてもらうことこそが特に苦労を伴う点だ。
理屈は頭で理解していても、どうしても今までの慣例を脱することが難しい。
特に部門の上長自身が無理解だった場合、「今までのやり方で何が悪いの?」という問いに対して、明確に答えられる部員はほとんどいない。
往々にして、企業の上長は今までのやり方が成功したから偉くなっている訳で、過去の自身のやり方を否定して「これから新しいことを」とはなかなか言いづらい。
当たり前であるが、企業とは「文化」の作り方が要ということだ。
今までの日本企業はトップが決めて、メンバーが愚直に実行するだけでよかったのかもしれない。
ほとんどはアメリカなどの先行事例があって、それを真似るだけで何とかなっていたとも言える。
しかし、そういう時代はとっくに終焉している。
グローバル化は益々加速しているし、今までのように先行事例を真似するだけでは到底競争力を保てない。
企業として向かう方針を明確に定めて、それをきちんと進捗管理していくことが重要だ。
この愚直な取り組みが「企業文化」を作り上げていく。
単純なことであるが、日本企業ではこれがなかなかできていない。
「企業のトップに覚悟がない」とも言える。
今までは自社内に留まっていて、社内政治に明け暮れていたら、それなりに生きていけた。
むしろ社内で生きていくための生存戦略として、最適化された動きが社内政治だったのだ。
しかし時代は大きく変化した。
きちんと外部からも情報を取得して、切磋琢磨しなければならない。
これから益々複雑化する世界を相手に、我々は戦っていく必要がある。
真剣に考えなければと、改めて感じてしまった。
(2024/4/17水)


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