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田崎健太 作「辺境遊記」私観感想文

 田崎さんのことを知ったのは、あるラジオ番組。「面白い方だなと」と思い、たまたま最初に読んだ著作が「電通とFIFA サッカーに群がる男たち」でした。
 ノンポリで、反権力指向でもない私ですが、今はなき「噂の眞相」を愛読しており(現在休刊)、「電通とFIFA サッカーに群がる男たち」は、それに通じる「熱心な取材と真摯な文章」の著作で、面白く読むことができました。
 次に手にしたのが「偶然完全 勝新太郎伝」でしたが、引き込まれるようにむさぼり読み、続いて「真説・長州力」「球童 伊良部秀輝伝」「真説・佐山サトル」「全身芸人」「ドライチ」「ドラガイ」「ドラヨン」「ザ・キングファーザー」と読みました。
 これらの既読作品では、「偶然完全 勝新太郎伝」、「真説・長州力」、「球童 伊良部秀輝伝」、「全身芸人」の一部、「ザ・キングファーザー」が面白く、好みでした。それは、描かれている人物が皆、「人間としてどこか欠落している代わりに大きな才能を持っている」「才能がその人自体を飲み込んでしまっている」という共通点を持っており、そこに私が興味を持つからです。
 そして、最新作「スポーツアイデンティティ」のあと、一番楽しみにしていた「辺境遊紀」を読みました。
 読書家でない私は、ノンフィクションという分野は手つかずで、20代の頃、沢木耕太郎の「深夜特急」「テロルの決算」「一瞬の夏」などを読んだ程度で、他のノンフィクション作品には触れずにきました。「辺境遊紀」を楽しみにしていたのは、辺境という、ここではないところ=他者と出会う事で、田崎さんにどういう内的変化が生まれたのか、ということに興味があったからです。しかしそれは、沢木耕太郎の「私ノンフィクション」という方法論しか知らなかった私の偏見でした。「辺境遊紀」は、私の偏った期待を裏切り、独自の視点、丹念なインタビューと簡潔な文章で、しかも、そこに写真や人物画(下田昌克 作)も加わり、辺境に済む人々のバックボーンも踏まえた現在を記してします。そこには、私が読んだ他作品の根底にも常に流れている「その人物や事象を、できる限り、正確に、真摯に伝える」ということに終始しており、田崎さん自身の内的なことは、極力、省かれていました。
 「辺境遊紀」は、私の偏った期待に応えてくれない作品でしたが、読み応えのあるもので、小笠原諸島やサハリン、南大東島など「日本人として知っておかなければならにこと」を教えてくれ、自分の無知さに、頭を殴られたような感覚になりました。そして、キューバや小笠原諸島を旅したいという気持ちをかき立ててくれた作品です。
 あとがきに
『見知らぬ場所を一人で旅していると、五感が冴えてくる。目をつぶって、出会った人のことを思い出す。
 一人きりで色んなことを考えているうちに、土地の空気がすっと自分の中に流れ込んでくるのだ。』
とあります。
 わがままを言えば、この流れ込んで来たものを書いてほしいと思っており、もっとわがままを言えば、田崎さんの小説を読んでみたいと願っています。

(ヘッダー写真は英治出版ブログより借用)







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