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名刺を作る

 指名嬢に名刺を作ってあげたことがある。

 名刺は、お店に業者が来て、パンフレットを見ながらベースのデザインを決め、文字デザインと書き込みたい内容を決めると、できあがってくる。外注のかわりに男子スタッフがとりまとめる場合もあるようだ。写真名刺の場合だと、写真を業者に渡して、通常の名刺と同じプロセスを踏んで製作する場合と、最近は繁華街に数多くできた写真スタジオで、撮影込みで製作する場合がある。いずれの場合も費用はキャスト持ちであることがほとんどで、その費用はバカにならない。
 私はMacユーザーであるが、デザイン系の仕事をしているわけではないし、大学も美術・デザイン系ではない。しかし、Macを使って企画書を制作しているうちに、フォトショップやイラストレーターも使用できるようになり、簡単なデザインもの(例えばカードとか年賀状)なら作れるようになった。そこで、自分でデザインした名刺を印刷屋で印刷して、指名嬢にプレゼントしていたのだ。仕事の環境から、キャラクターものを含め多くのデザインソースを得ることのできるので、そういったものをコラージュしていけば、割と簡単に名刺はできるのである。
 指名嬢の名刺を作る時、そのやり方は、仕事で行う提案と同じである。
 まずはオリエンのうける。名刺を作ってあげる旨を相手に伝え、どういうものを欲しているかを話してもらう。その時、そのニーズを踏まえ(具体的に「このキャラクターを使用して欲しい」というものから、抽象的なものまである)、その場で、通常の名刺屋にはないようなデザインコンセプトをぶつけてみる。反応が良ければ企画として取り込む。
 次はプレゼンである。最低二案は準備し、その二案も「こういったヴァージョン替えがある」というプレゼンをする。オリエンがきちんとできていると、すんなり決まる。二案ともオリエンを踏まえてのプレゼンだから「両方ほしい」ということになることもあった。
 あとは印刷屋に投げて、納品である。パソコンで名刺を作ってあげる場合、印刷も自分で行いカットして渡すという方もいるが、そこまでは手をかけられなかった。私としては、そういう方には頭が下がる思いだ。また、ショーを撮影して写真をプレゼントしている方もいるが、そういった写真が写真名刺になることも多いようである。
 自分で作った名刺を指名嬢が他の客に渡している姿をみると、ある種の喜びを感じる。幻想ではあるが、指名嬢と客をつなぐはずの名刺が、私が作ったことで、つなぐのではなく通せんぼしているような錯覚に陥るのだ。そういったとき、「あの客より自分の方が(指名嬢に)近い」と思ってしまう。
 キャバクラの営業鉄則で「客に『あなたは普通の客とは違う』と思わせる」というものがある。どの客にも『あなたは特別』と思わせることで、どの客も長く指名をさせていく手法である。
 そう考えると、この「名刺を作ってあげる」という本来であればこちらがアドバンテージを得られるはずの行為も、裏からみれば、指名嬢が私に『あなたは特別』と思わせる営業だったのである。しかも、私からの提案なのだ。まさに「鴨が葱しょってやってきた」状態である。加えて、オリエン、プレゼン、納品と短いタームのなかで三回も店に行っているわけで、非常のおいしいものだ。
 だから名刺を作ってあげるという行為は、非常にむなしくばかばかしい行為だと言える。しかし、キャバクラ遊びの本質の一つが「ばかばかしいことを、ばかばかしいとわかった上で楽しむ」なのだから、そういう意味では理にかなった行為でもあるのだ。
 アホらしい、、、、、でも楽しい。

※2005年9月記述

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