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嫌悪されるRMTの歴史と、NFTはビデオゲーム業界に受け入れられるか

はじめに

GameFiやNFT、メタバースなど、ゲームを経済活動と繋げる動きが活発化しています。ゲームのキャラクターやアイテムを売買する行為は、ゲームをシンプルに楽しみとして捉える側面からすると、金融商品としての側面がフォーカスされていて、ゲーマーのニーズを置き去りにしている感は否めず、賛否両論ある状況にあるのではないでしょうか。
DecentralandやTheSandboxなどをはじめ、メタバースエクスペリエンスでは、活発に取引がされていたり、ザッカーバーグ氏の示すMetaの世界では、クリエイターが自由にアセットを売買できる世界観を発表したり好意的に受け入れられている側面もありますが、ビデオゲームの世界では、古くからRMTの議論によって、対RMT業者の構図や、著しくゲームバランスを壊してしまうという側面から、非常に厳しいみられ方をしていると思います。SteamではNFT関連のブロックチェーン ゲームは販売禁止とされたことは業界で非常に話題となりました。今回はビデオゲームという観点から、今後NFTが受け入れられていくのか考察してみたいと思います。

Diabloのauction houseにみるマーケットとゲームバランスの難しさ

学生時代、私自身、UltimaOnlineに没頭していて、寝ても起きても、ウルティマを起動していたことを覚えています。当時は、家を立てるための土地が非常に枯渇していて、リアルなネットオークションで売られている1万円程度の小さな家は非常に魅力的でした。(時間をかけて、腐り待ちをするか、オークションでお金を払って買うか、非常に悩んだものです。)

MMO RPGの全盛期では、中国などでは工場にパソコンをならべてゲームを行う、いわゆるゴールドファーミングという手法をもちいて、ゲーム内通貨を稼ぐ手法が社会問題にもなりました。ゲームメーカーにとって、RMT業者が得た利益は、自社の利益にならないばかりか、ゲームバランスを著しく壊してしまう可能性があるため、RMT自体は100害あって1理なしのモデルであったと言えます。Diable3で導入されたファーストパーティーのRMTサービスであるAuctionHouseは、Diablo2でRMT業者による詐欺などが横行したことで、自社運営にするというアイデアが生まれたと言われています。

https://www.wired.com/2011/08/diablo-3-auction-house/

当初は、多く流通しないと見越されていたようですが、スタートすると、一転して膨大なアイテムが持ち込まれることになり、性能の高いアイテムが安価に入手できるようになり、プレイヤーが自らアイテムを得て、アップグレードを繰り返すというゲーム本来のテンポと面白味がなくなってしまうことになってしまいました。プロデューサーのJay Wilson氏は、「オークションハウスがゲームに深刻な被害を与えた」と、公の場で失敗を認める発言をして注目を浴びました。

Diabloはダンジョンを攻略するモチベーションはその戦利品を得ることにありますが、マーケットで購入されてしまうことによって、その攻略するモチベーションを失わせ、ユーザーをゲームから離脱させてしまうという事態に陥りました。こういった経験は、今、NFTを通じて、ビデオゲームとマーケットが両立することの難しさを改めて示している事例であるとも言えます。

ゲーマーから嫌悪感を示される既存ゲームのNFT路線

昨年末、Ubisoft Entertainmentはブロックチェーン技術を用いた、Ubisoft Quartzを発表し、独自NFTとなるDigitの発行、およびゴーストリコン ブレイクポイントでスタートしましたが、初期からゲーマーのフィードバックは否定的なものが多かったようです。Ubisoft Entertainmentは傘下にあるUbisoft Strategic Innovation LabがTezosとの提携を発表するなど、ブロックチェーンの研究とゲーム応用を進めてきました。しかしながら、UbisoftQuartzの初期テストとしてスタートしたGhost Reason:Breakpointのアイテムの販売量はお世辞にも売れたとは言えませんでした。下記の記事では、"Ubisoft’s NFTs are selling for far lower than expected."と書かれていて、12歳のピクセルアートが数千ドルで売られているのと比較するとあまりにも低い金額の取引しかされていないと批判されています。

一方で、元々Ubiソフトが目指している形について、語られている動画と要約記事があります。

他にも、S.T.A.L.K.E.R. 2を開発中であるGSC Game Worldは同じく新作にNFTとメタヒューマンなるものの導入を発表しましたが、ユーザーからの猛反発を受けて中止となるなど、ゲームにおいて、NFTというものがいかに受け入れられずにいるかを知ることができます。ゲームとNFTの関係において、否定的な意見は様々ですが、下記に要約されると思います。

  • アイテムの供給量が崩れ、ゲームバランスを壊してしまうおそれがある

  • ビデオゲームで購入したオブジェクトが永続的であり、将来のゲームで使用できる(バランスよく)ことを担保する必要がある。

ビデオゲームの投票権(DAO)としてのNFT

Ethereumの創業者のVitalik Buterin氏がWarcraftにおける弱体化の調整にショックを受けて、Ethereumを開発するきっかけにしたというのは非常に有名な話です。これまでは、ゲームのアイテムをRMTにおける導入の難しさというデメリットについて中心に書いてきましたが、ゲームのパラメータなどにおける投票権という側面から考えていきたいと思います。

例えば、ゲームを運営していると、特定の思い入れのあるキャラクターのパラメーターについて、なぜ、こんなに弱いのか、強くして欲しいなどといった意見をいただくことがあります。例えば、スポーツゲームなどでは度々このような議論は発生しています。

スポーツの場合は、選手の前年度の成績などStatsなどを取り入れるなどによって公平性を担保することができるかもしれませんが、アニメのキャラクターなどにはこういった外部データを入れることはできません。
このようなケースにおいては、DAOによる投票制を採用しているNFTプロジェクトなどが参考になるかもしれません。たとえば、DoodlesのDAOは、1 Doodle=1票という所有者全員がそのDAOの機能について発言権を持っています。

運営に関する全ての方針についてはコミュニティの活発な議論の末決められることになっているわけです。
仮に、NFTを保有していることでゲームの方向性の議論に加わることができるとすれば、それは一つのNFTの価値であり、導入する意味になる可能性があるのではないでしょうか。少なくとも、Vitalik Buterin氏がWarcraftにおける弱体化に問題を感じていて、他にも同じように考える人がいた場合に、ゲームのシステムを正しいと思う方向に変えることができたかもしれません。

Conclusion

NFTはRMTと非常に混同されたりGameFiといわれる投機的な位置づけが注目されていますが、実際には様々なアプローチがあると思います。逆にいうとこれまで説明してきたように、RMTばかりに固執してしまうと、本来の旨味が全く活かされない可能性があります。
NFTは、たとえば、Degital True Ownershipといわれるデジタルにもフィジカルと同じようなオーナーシップを持たせ、ユーザーがアセットを自由に扱うことができるようにするもの、規格化することによって、Metaverseやリアルの世界でも相互運用性を担保することができます。

または、先に紹介したDAOによる投票権や、コミュニティの運営のための合議制としての側面。他にも。EVE Onlineのキル証明書のように、シンプルに改竄されない証明技術という側面も有効かもしれません。

いま、Web3の中で、デジタルアセットは大きな過渡期にあることは事実です。10年前に、一部のゲーマーたちが、RMTで経験したMMORPGでのアイテム取引は、メタバース内のNFTを通じて当たり前になるかもしれません。
4歳の息子が、仕事机の隣で、レゴと同じように、器用にマインクラフトの家を作って遊んでいる姿があります。少なくとも私が子供の頃にはこういったデジタルの遊び場なんてものは無かったので、デジタルネイティブの息子にとって、ゲームの中で作る家と、レゴで作る家、デジタルとフィジカルの棲み分けや概念はどう写っているんだろうなと不思議に思います。
ちょっとした、いたずらで、自宅にある3Dプリンターを使ってマイクラの世界をリアルの世界に持ってきたりして遊んでいますがデジタルの中で組み立てたものをリアルに、またはリアルの世界をLiDARなどでデジタルに取り込む相互運用はこれからももっと進んでいくと思います。

マイクラの世界を3Dプリンターを使って現実世界へ

Mark Zuckerberg氏がMetaの動画の中で、相互運用性の無い世界は、スタジアムで買ったユニフォームを自宅で切れないようなものだと言っていましたが、もっと彼が大きくなった頃に「昔のゲームは、同じゲームの中でしかアイテムや、アバターを交換できなかったんだよねー、おかしいよねー」と言っている未来を想像すると、本来のデジタルにおける当たり前とされていたことは、技術の都合にすぎず、我々の感覚や法律すらもその技術の移り変わりと共に変わっていく必要があるということを改めて、感じさせらます。








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