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飯尾さんが教えてくれること

これまで出会った人たちや、昔なじみの人たちと、今もなお、何のわだかまりもなく、ずっとずっと仲良しで懐かしくて、会いたいなと思えばいつでも「会おうよ!」って言える、そんな人間関係に全方位から囲まれてる大人って、いったいどれくらいいるんだろうか。

私は、そうじゃない人だ。かつて蜜月を共にしたけれど、今は声をかけるのもはばかられる、そんな相手が何人もいる。そうなった理由は、例えば何らかの決裂だったり、互いの変化だったり、「おや、どうやら嫌われているな?」といった自主規制だったりする。

この人にはもう、声をかける資格もないな、と思うことがある。この人にはもう、声をかけたくないな、と思うこともある。以前は、そんなこと思っちゃいけない、どんな相手とも仲良くしなきゃいけない是が非でも!!って思い込んでいた。すべての人に対して、愉快痛快でいないといけない!!って。でも、そうじゃない。そうじゃないのだ。

「ずん」の飯尾さんが大好きである。ぱっと見、ものすごい善人に見える。だけどよく見ていると、あの笑顔のままで、ちょくちょく、毒を吐いている。番組の収録中、飯尾さんがひとりしゃべっていると、何らかの電子音をマイクが拾う。本番中に、あってはいけない事態だ。すかさず飯尾さんはカメラに向かって、あの笑顔のまま、低音で言い放つ。「誰かの携帯が鳴っていまーす♪」

キレるのではなく、叱るのでもなく。かといって、黙認するのでもなく。彼は一番面白い形で、ずばりド真ん中に釘を刺す。

鳴っていたのは飯尾さんのiPadであったことが、その後、知れるのだけれど。

イラッとしたときも、深く傷ついたときも、それらを全力でひた隠しにして、汗だくの笑顔でごまかし続けてきた私は、あの、品のある正直さに憧れる。あの正直さは、相手を傷つけない。むしろ、みんなアハハと笑っている。何だろう、あれは。何の魔法なんだろう。テレビで飯尾さんを見かけるたびに、目と耳をかっぴらいて凝視するのだけれど、まだマスターするには程遠い。今日もとっさに汗だくの笑顔が発動してしまって、電話を切って、ぐったりしている。ほんとうに笑顔でいるためには、やっぱり正直でいなくちゃ、身が持たないなあと思うのである。(2020/06/04)


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