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女装とゴルフ

たまたま目についたビジネス雑誌に「ゴルフとビジネス」なる特集が組まれていた。ゴルフで作るビジネス人脈だとか、大手企業のトップはゴルフを通じてビジネスを切り拓いているだとか、ゴルフが仕事に有効性のあるものだということが謳われていた。

私が新卒で入社した会社でも、社内ゴルフコンペなるものが毎年開催されていた。
回覧には「ふるってご参加ください」などと書かれていたが、よくよく先輩社員に聞くと、本社勤務の社員は全員強制参加だという。本社総務課勤務だった私は一気に気が重くなったのは言うまでもない。大人の世界と言うのは、こんなにも不条理なものなのだろうかと思うと同時に、
「面倒くさい!絶対やだ」
という思いが一気に沸き上がった。そしてどうにかしていかない方法はないかと、仕事では働かない頭を必死に働かせた。

とにかくあんな日がな一日芝生の中を歩き回り球を打つだけの娯楽の何がいいのだろうか。
”高原の新鮮な空気の中、ゴルフを楽しむ紳士な俺”に酔っているとしか思えないのだ。子どもの頃から田畑と山を眺めながら育ってきた私からすれば、ありがたくも珍しくも何でもない。

さらに先輩社員に聞くと、道具を一式そろえると、一万円以上は普通にかかると言う。私はさらに気が遠くなった。
そんな私をみて先輩は、
「ヤフオクで買えばいいじゃん」
と言ったが、軽々しく言ってくれるなと思った。そんな問題ではないのだ。
そんなものに給料を使うより、大好きな服や化粧品、ウィッグ何かを買った方が断然有意義に決まっているではないか。
だいたいゴルフにしろ車にしろ、
「最近の若者がそういうものを買わないのはおかしい」
という価値観を押し付けないでほしいものだとつくづく思った。
私の脳裏には、どぶに札を散らす図しか思い浮かばなかった。

散々ゴルフについてぐずっていた私であったが、新卒社員で下っ端中の下っ端だったことも幸いし、参加者の頭数に入れられずに済んだ。
それでも社内でゴルフの話になると、何とかして時をやり過ごす仕草を取り続けなければならなかったのは変わらなかったのであるが。

言われれば言われるほど誰がするかってなる性格

しかし、よくよく考えれば、女装だってゴルフと似たようなものである。

夜遅くに店に集い、ただ化粧をして着飾り新宿などに行き、女装仲間と夜通し酒を飲みながらしゃべるだけなのだから。興味のない人間からすれば、それのどこが楽しいんだと思われそうなものである。
”新宿の夜の街で、酒と空気に酔っているだけの私”と茶化されてもしょうがない気がする。
女装の道具だって一式そろえると、結構お金ががかかる。私がゴルフ道具にお金を使うことと同じように、女装に対してもどぶに金を捨てる図が思い浮かぶ人もいることだろう。

そんなことを考えると、たとえ私が学生時代などにゴルフをかじる程度にやっていたとしても、社内ゴルフコンペの話が上がったところで、
「会社の人とゴルフをするのは嫌だなぁ…」
と思っていたに違いないはずだ。女装にしたって仕事で二丁目に行こうとなったら途端に腰が重くなるだろう。

要は原因はゴルフにあるのではなく、
「俺たちが楽しいと思ってるからお前らもやれ」
という組織的な無言の圧力に抵抗を感じていた気さえする。私は尾崎豊か。

とはいえ、女装の中にもバリバリ道具を買いそろえているゴルファーの方がいらっしゃることだろう。
ゴルフは紳士のスポーツとは言うが、そんな人は私にとって、紳士も淑女もかねそろえた人に見えて仕方がない。

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