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哀しき紐パン

単身アパートの生活が長いことやものぐさな性格もあり、私は衣替えを大々的に行うことがない。夏物も冬物も、基本同じ衣装ケース内に収めている。冬の場合は、衣装ケースの奥にある冬物を手前に持ってきて、手前の夏物を奥に移すだけである。半年後はその逆を行う。そのため、服を一着一着確認することがほとんどないのだ。

しかし先日、さすがに衣装ケースのキャパシティーが限界を迎えつつあるのに気づき、ようやく重い腰をあげ洋服を整理することにした。

衣装ケースを引っ張り出すと、奥の方にはすっかり存在を忘れていた服たちが続々顔をのぞかせた。イベントで一度しか着なかった服、買ったものの着る機会を逃した服、サイズが合わない服などさまざまだ。
そんな彼らに思いを馳せることもなく、私は片っ端からいらない服を捨てていった。「パンパンの衣装ケースをすっきりさせる」という一点突破しか私にはない。

中には女装を始めて間もないころに買ったものも出てきた。
「まだ着れそうかな」と思ったものの、よくよく見たら袖口がすすけていたので速攻ゴミ袋へ突っ込んだ。
ほかにも年齢的に私が着るには若すぎるものもあった。
いくら流行に興味がないとは言っても、長年女装をする中で好みの変化はあるものだ。今自分がその服を着て「似合わないな」と思ったものは、不要である。そんなものをいつまでも持っていても、タンスの肥やしにさえならないのでどんどん捨てていった。

勢いに乗った私は、タイツやレギンスの処分にも着手した。毛玉ができたものや二度と着ることのないものは容赦なく捨てまくった。
そんな中、衣装ケースの奥からレース状の紐が飛び出しているのに気が付いた。

「なんだこれは」
と思い引っ張り出すと、それはレースの紐パンであった。いわゆるマイクロビキニと呼ばれる布面積が少ないタイプのものだ。

「なぜこんなところに紐パンが…」
もはや理由どころか、買ったであろう私本人がその事実さえ忘れていた。そんなものをなぜ買おうと思ったのか、はたまた本当に私自身が買ったものだったのだろか。女装をしているとさまざまなことを見たり経験したりするものだが、理由さえ解明できないものもあるのかもしれない。よれよれの紐パンをぼんやり眺めながら、数秒間そんなことを考えていた。

もはや何故あるのかさえも覚えていない

衣装ケースに突っ込まれたまま一度も着けられることがなかった紐パンは、開閉のたびに生地が引っかかっていたのだろう。レースの一部が傷み、穴が開いていた。無傷であっても着用するつもりはなかったが、未着用だからと誰かにあげていたなら大惨事である。もはレースの紐パンではなく、ただ布の破片である。名前の通りレースかつ布面積もマイクロなので雑巾にもなりやしないのだ。

「こんなものが似合う女装になりたかったな…」
なんて思うことはもちろんなく、そのボロ布をゴミ袋に投げ入れた私は再び衣装整理に没頭し続けたのであった。


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