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こころも体の一部です(講演より)


みなさんこんにちは。

今日は、お忙しい中、ずいずい元気になるために来ていただきまして、大変にお疲れ様そして有難うございます。

私、さきほどご紹介にあずかりました、ンマニ伯爵と申します。何をしているかと申しますと、ここにありますように「精神科医」と「産業医」ですね。精神科の診療所で働いたり、企業向けの労働衛生関連サービスを提供しているわけです。えーと、産業医、ご存知でしょうか。産業医も医者なんですが、治療とかはしないんですね。診断とかもしません。社員さん達の病気や怪我を未然に予防したりするのが仕事です。

そのほかに、シーランド公国というところ、さあどこでしょうね。そこの伯爵というのをやっております。ご存知ですか? シーランド公国。そんな国、しーらんど。と。そういう感じですね。


さあ、シーランド公国です。グーグルさんの地図で……どこでしょうここは。そう、ヨーロッパのあたりですね。ここにフランス、イギリスとありますが、ドーバー海峡もありますね。その、この辺りです。ここ、拡大しますと、こうですね。やっぱり判りません。陸地はどこでしょう……っと、ないですね。そうです。実はシーランド公国ってのは、こんなです。

私はここにいる、おそらく何百何千もの伯爵のうちの一人なんですね。面白いでしょう。このシーランド公国ってのはいろいろと面白いストーリーもあるんですが、まあ今日は時間もありませんので、ご興味がおありの方は後ほど検索してみてください。


さあて、本題にまいります。

通常、なんか精神的に弱ってるな、とか、精神的な病気だな、っていう時って、こういう言い方しますでしょ。「こころの病気」って。まあ、これは分かります。なんとなく、「精神の病気」っていうと、固くて、なんかすごく怖いような、何というか言いにくいんですね。だから最近は「こころの病気」という言い方をして、ちょっとマイルドにしたりしてるわけです。最近はそれでも、うつ病とか躁うつ病、発達障害といった病名などがマスコミでもよく出てきますので、ちょっとイメージが怖くなくなっては来てると思うんですが、昔はこういう言い方をしないと、一般にはあまり知られていなかったですから、不気味で分からない、怖い、っていうイメージがあったんですね。


さあ「こころ」ってなんでしょう。何だと思いますか?

ここに、いろいろ出てきてますね。ハートとか、びっくりとか。ぐるぐる悩んでいたり、これは怒ってるんでしょうかね。これ、いろんな感情です。「こころ」は、実際には感情だけではないですが、まあここでは簡単に、「いろんな感情」として、描いてあります。

こういったもの、なんでしょうね。

こうですね。「こころ」ってのは、ここにあります、タンパク質で出来た薄いピンク色の臓器、「脳」という臓器で作られているわけです。まあ、このあたりは、いろんな見方があるかもしれません。「こころ」ってのは、霊魂だ、とかですね。いや、「こころ」はスピリットで脳じゃないよ、みたいな。脳とこころは別だよ、って感じですね。でも私は医者ですし、医者としての話をするためにここに来ていますから、本日は「こころ」は脳が作っている、という、医学の前提でお話しております。


さあこの「こころ」も病気になります。脳で作られた「こころ」ですが、脳ってのは、胃や心臓や腎臓なんかと同じようにタンパク質で出来ていて、たまに不具合が「病気」という形で出てくることがあります。同じですね。他の臓器と、そこは同じなわけです。他の臓器と同じように、人体の中で、遺伝子を基にしてアミノ酸からタンパク質が合成されて集まって、そして動いている内臓の一つですから、同じように不具合が発生してくるわけです。

その不具合の原因によって、おおまかにこんなふうに別れているわけです。あまり細かいことを言うと大学の授業みたいになっちゃいますから、ざっと触れるだけにしますが、こう、脳を外から見て判る異常、見ても判らない機能の異常、と別れてまして、それぞれまた、いろんな原因があるわけです。これは「脳で」起こっている不具合が、実際の精神、すなわち「こころ」の症状に結びついているわけです。他の臓器と全く一緒ですね。胃潰瘍みたいに見て判るものもあれば、見ても形の変化は判らないけどずーっとグルグル鳴ってるとか、そういう機能の異常もあるわけです。


さあその「脳の機能の異常」のうち、一番おそらく馴染みがあろうかと思う言葉が「うつ」です。


さてみなさん、この三つ。それぞれ、聞いたことがありますか?

どんなふうに違うんでしょうね?


実は、「うつ」にもいろんな段階がありまして、「うつ」というのは一般用語といいますか、医学的な言葉ではないわけですね。これは単に「元気がない」「ヘコむ」といったことをいってるだけですが、「抑うつ状態」となりますと、その程度がちょっと普通じゃないよ、という医学用語になってくるわけです。

最近はさすがに少ないかもしれませんが、以前は「うつ病? 元気がなくなる病気? そんなの、誰だってなるよ。俺だってたまになる」って、まあ悪気があってのことじゃないんでしょうけど、励ましのつもりで仰られる方もいらっしゃいましたね。

けど、「抑うつ状態」は、もうそんな「普通の凹み」とは違う状況になっているんですね。「うつ病」なら、なおさらです。放っといても忘れててもいつの間にか治ってる軽い擦り傷と、包丁でざっくり切っちゃった傷くらいの違いがあります。包丁のほうは、血を止めて手当して、しばらく包帯巻いて使わないようにしていたり、という必要がありますよね。擦り傷と一緒じゃないわけです。


さて「普通じゃないほど」元気がなくなるという「うつの症状」というのは、一般的にすぐ思い浮かぶのは「うつ病で」ということかと思いますが、実は「うつ病」だけではない色んな原因で起こってくるんです。

「抑うつ」という言葉は、いってみれば「セキ」と同じ。寒くても、喘息でも、ホコリ吸い込んでも、風邪でも、結核でも、とにかく色んな原因、病気じゃないものも含めて、いろんなことで起こってくるわけです。

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じゃあ、「抑うつ状態」になる原因って、いったいどんなモノがあるでしょうか。どんなものがあると思います? いかがですか?

ぱっと思いつくだけでも、こんだけあります。ここに、甲状腺とか副腎とか、こう、「体の」臓器や、「体の」病名が描いてありますね。中程には、まあ精神科で診るような病名、そして感染症や、嗜好品、薬剤や薬物、習慣などでも出てくるわけです。如何ですか? 驚きました?

もちろん、ここに書かれた「体の」病気になるとみんなが「抑うつ状態」になる訳じゃないです。可能性はそれぞれバラバラなんですが、「抑うつ状態」の方から見ると、こんな原因があり得ますよ、ってことなんです。

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で、まあその中でも代表的なもの、って感じの「うつ病」について言いますと、これはこんな診断基準になっています。これは実は一つ古い基準なんですが、お役所に出す書類なんかでは今でもまだこの基準ですね。こんなふうな色んな症状が書いてあります。

単に「元気がない」だけではないんですね。集中力とか、自信がなくなって、実際に活動できないレベルになってしまうんです。現実的ではない罪の意識、なんかもありますね。これが、「朝だけ」とか「怒られた後に、ちょっと」いうより、「ほとんどずーっと、毎日」起こってくるわけです。このままじゃあ、仕事はもちろん、場合によっては普通の、日常生活も難しかろう、というものです。これが、脳の機能の異常で起こってくるわけです。

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これを模式的に説明しますね。

我々は通常、こんな感じで動いています。このバケツに入っているのが、エネルギー、すなわち「気力」ですね。バケツに沢山入っていると、この下の出口から沢山出すことができて、沢山の活動が出来るわけです。沢山入っていればいるほど、下からも勢いよく出てくる感じ、おわかりでしょうか?

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そしてこれが「抑うつ状態」でのバケツです。これ、エネルギーがもうこれしか無くなっていますね。この高さしかありませんから、出てくる気力もチョロチョロ、ちょっと出てもすぐに無くなってしまいそうです。

なんでかといいますと、このように、元々入ってくるエネルギーが、ストレスや悩み、不安などで外に溢れていってしまったり……これ、このように、仮にストレスなんかが無いとしても、バケツに穴が開いてるような状態、神経の状態があるわけです。これでも貯まりませんね。どんどん抜けていってしまいます。

だから、「がんばる」ことが出来ないわけです。「無い」んですから。「無い袖は振れない」んです。だから、「がんばる」ことは出来ませんし、「がんばらせる」ことは無意味なわけです。

無いんですから。

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こうなってきますと、先ほどの診断基準のような、色んな苦しい症状が出てきてしまうわけです。これが厄介なことに、どんどん悪循環していくんですね。デフレスパイラル、ってご存知でしょうか。似たような感じです。「抑うつスパイラル」、ですね。ぐるぐるぐるぐる回りながら、症状が悪化していってしまいます。先ほどのバケツ、ほうっておくと、そうなってしまうわけです。

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じゃあどうやって治療するかといいますと、基本的にはこんなふうになります。

目的は「エネルギーを貯める」ことですから、まずは出ていくのを止める必要があるわけです。まず、一番先に、これを止めておかないと、いつまで経っても貯まりませんから。だから、うつ病の時は、まず「休む」のが必要なわけです。

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次に、必要な場合は、薬を使います。バケツに穴が開いている場合は、そこを閉じなければなりません。その穴を閉じるのが、薬というわけです。あと、先ほどありましたように、「体の」病気で抑うつ状態になった場合も、そちらの原因はこの「穴」になりますね。その治療が、この絆創膏になるわけです。

休んでいるだけではなかなかエネルギーが回復しなさそうな場合は、実はこの穴から漏れてることがあるんですね。だからこれを閉じることが大事になってきます。

気合では、閉じません。無理に気合を出そうとすると、エネルギーが穴からますます吹き出してしまって、悪化します。

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さて「出ていく」ほうを抑えてもなんだかもう一つ……という場合は、ひょっとするとエネルギーが注がれるところに邪魔物があるのかもしれません。これですね。

場合によっては、バケツの穴は小さくて、こっちがドーンと大きいせいで気力が貯まらないこともあります。その場合は心理療法や環境の調整などで、邪魔を除いてやる形になるわけです。

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そうしますと、気力がこんなふうに、どんどん溜まっていきます。どんどん、っていいましても、実際のバケツのように、三十秒くらいで貯まるわけじゃないですね。例えば仕事を休まなければならないような状態からであれば、仕事に復帰できるくらいまで元気になるためには、少なくとも二〜三ヶ月、平均すると半年程度は掛かるんです。

これ、じれったいですが、ちゃんと貯まる前に働きだしたりしちゃいますと、せっかく貯まりかけたのをドーンと使い切ってしまってまた症状が出てきちゃうんですね。

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そう。としますと、これを防ぐにはどうしたらいいか。

まずこの、「邪魔物」を作らないことですね。これがあると、入ってくるエネルギーが少なくなりますから、いずれまたこの気力が減っていってしまいます。これは無くしておきたいところです。無くすには、自分ひとりで抱え込まない、っていうのも大事なポイントですね。

難しいことや悩み事、ありますでしょ。これ、誰にでもありますから。これがなんで「難しい」とか「悩む」かといいますと、「自分ひとりでやろうとして限界になったから」ですよね。自分だけでは解決できないから、難しかったり悩んだりするわけです。

だから「抱え込まない」です。まあぶっちゃけ、助けてもらうわけです。いいじゃないですか。助けてもらっても。またこんど何かでお返しすりゃいいんです。自分ひとりが知ってることや出来ることなんて、たかが知れてます。だから、他の人のお知恵を拝借するんです。

次は「出し過ぎない」ですね。これ。ストレス無くても、漏れが無くても、出しすぎたらやっぱり気力がどんどん減っていってしまいますよ。

もちろん、頑張っていろいろやるのは必要ですよね。けど、これ、食べるのとおんなじなんです。食べることは必要ですよね。食べないと、死んじゃいます。けれども、食べ過ぎたら、病気になりますでしょ。頑張るのも同じです。頑張るのも必要なんですが、頑張りすぎると、やっぱり病気になっちゃいます。胃だって脳だって同じ臓器なんですから。使いすぎればやっぱり病気になっちゃうわけです。

さてこの、小さくなってる穴。実はこの穴ですね。自然に開いてしまう穴につきましては、予防っていうのは難しいんですね。誰でも、いつでも、ストレスなどがなくても開くことがある穴です。けれども、調子が悪い状態が続くと穴がどんどん大きくなってしまうんです、これ。だから、他の部分の工夫をして、大きくなったりしないよう、防いでいくわけです。不調になったら、ほうっておかずに、早めに対処しておきましょう、ってことになるわけですね。

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さあ先ほどの「休む」ってのはわかりやすいですが、「抱え込まない」ために、相談って、どこに? って思いますよね。あと、ストレス、どうすんの? です。

相談は、ここです。お馴染みの役所のホームページに、しっかり書いてありますね。見たことありますか? 無いですか? 職員さん、教えてあげてくださいね。つまり、役所なんかで、こういう「こころの相談」なんかをやってるわけです。

病院に行ってももちろんいいんですが、まだ病気とはいえない相談の段階では、医療機関で出来ることはほとんどありません。医療機関は、病気を治すところですから。なので、こういった相談の場所で相談していただいて、そこで、これは医療が必要だ、となれば医療機関につないでいただく、という形になるわけです。

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じゃあ「ストレス」は、といいますと……

とはいっても、ストレスの原因は、ほんっと様々でして。ここで全部説明していたら、また年が明けちゃいますよ。なので、ぶっちゃけ、これが一番多いでしょ? ってのは、これ。

でしょ? 違いますか?

まあ、異論はあるかと思います。けど、まあ、ストレスの大半は対人関係のストレスでしょうし、その対人ストレスの大半はこれでしょう。他のストレスも多いかもしれないですが、なんかすごくイヤな感じで「こころ」にズッシリ来るのは、多分これだと思うんですが如何ですか?

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で、この場合はどうすんのか、ってことですが、これ、対処の大原則があるんですね。これです。「コントロールできるものをコントロールする」です。

どういう意味かと申しますと……

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世の中には、自分で「コントロールできるもの」と「できないもの」があります。

これ、どうでしょう。コントロールできますか? 難しいですね。これは「コントロールできないもの」です。まあ、いろいろ工夫すればいけるかも、という意見もあろうかと思いますが、コントロールできていればそもそもストレスになってはいませんよね。

さてじゃあ逆に「コントロールできるもの」は、こうです。そうですね。自分が何をどうするか、しか自分にはコントロールできません。当たり前です。

だから、ストレス、特に対人関係のストレスへの対処方針は「自分が動く」ことを考えることです。「相手が動く」「考え方が変わる」を待っていては、いつまでもストレスは無くなりません。

「え、悪いのは相手なのに」って思うでしょ?

でも、「自分が動く」んです。

なんでかといいますと、対処の目的は「いま悔しくならない」こととか「相手をぶったたく」こと、「過去に向かって」恨みを晴らすこと、じゃなく、「これからの」ストレスを減らすこと、だから、ですね。

相手は自分のロボットじゃないですから、自由自在にコントロールできるはずは、ないですよね。変わるか変わらないか分からないイヤな人。そんなことに振り回されていつまでもストレスを感じてるなんて、バカバカしいじゃないですか。

人間、寿命は限られてるんですから、自分の行動でとっとと解決したほうが、人生の今後にとって「勝ち」ですよね。自分自身の人生に関わる問題を、相手の力ではなく、自分の力で解決した、ってわけです。

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さあこうやって「うつ病」「抑うつ状態」を予防していきましょう、っていう話ですか、当然ながら目的があります。病気そのものでの辛さ苦しさを避けるのももちろんなんですが、これは、限りある人生ですから、有意義に過ごしたい。そして、「自殺」を防ぎたいから、なわけです。

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これはちょっと前の、厚労省と警察庁の統計なんですが、これ、いろんな原因がありますが……割合で一番大きいのが、「健康問題」なんですね。

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で、その「健康問題」の内訳を見てみますと、こうです。

一番大きいのは「うつ病」となってますが、次に大きいのが「身体の病気」ってなってます。意外でしょ。「自殺するような病気」っていうと、「うつ病」、ってイメージでしょ。でも、意外に「身体の病気」も多いんですね。

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そして、一番多かった「うつ病」のところの内訳を見ますと、これ、うつ病になった原因と思われるもの、沢山ありますが、このうち二割くらい「身体」なんですよ。

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だから、「自殺」を減らすんだから「うつ病」を減らす、メンタルヘルス対策、って一直線に考えるわけにもいかないんですね。

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つまり、「こころへの対応」だけをやるんじゃなく、もちろん「脳」という臓器を大事にするという意味で「体」を大事にすることの他に、うつ病のような病を防いでいくためには「体そのもの」も大事にしていかなきゃならん、ってわけです。

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体そのもの、たとえば、「がん予防」、どうでしょうか。

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これ、「がんを防ぐための新12か条」というものです。これ、こうしてみますと、この辺りは「脳に良いこと」ばっかりです。

これ、がんを防ぐ、つまりカラダのために良いこと、なんですが、結局は脳のためにも良い、つまり「こころ」のためにも良い、ってことです。

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じゃあこれはどうでしょう。「運動」です。

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この表、ご覧になられたこと、ありますか?

実はウォーキングの効果は凄いんですよ。中之条研究という大規模調査がありまして、それで一日の歩数と防げる病気を関連付けられたんですね。

ここ見てみますと、ウォーキングして、「認知症」とか「うつ病」とかを防げる、ってなってますでしょ。あとは他の色んな病気の予防になることが紹介されているわけです。これ、今まで「なんとなくそうじゃないかな」って思われていたことを、ちゃんと統計調査して確かめた、貴重な結果なんです。

で、こうやって健康になっていくと、やはり「体のために良い」ことは「こころのためにも良い」ですよね。脳にとっても良いわけですから。

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じゃあこれは

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これは国立精神神経センターの研究です。

メタボ、ご存知ですよね。メタボリックシンドローム、大問題ですね。日ごろの習慣によって発症したり悪化したりする病気です。これ、真ん中に「うつ病」ってありますでしょ。

メタボって、単なる「体の病気」じゃないんですよ。こうやって、「こころ」にも影響しているんです。そう、「こころ」だって、「体」なんですよ。すなわち「体のために良い」は「こころのためにも良い」わけです。

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ここまでまとめますと、こうなりますね。

体に良いことは、脳にも良いこと。脳に良いことは、こころにも良いこと。

すなわち「体に良いことは、こころにも良いこと」なんです。

それでは皆さん、こころをいたわるためにも、体をしっかり元気に保っていきましょう!

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お聴きいただき、ありがとうございました!


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