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日本は大学を減らさないとダメ??

VUCA、アフターコロナ、エネルギー価格の高騰、インフレ、賃金の引き上げ、人材不足、などなど、昨今ではこれまでにない速度で世界が激変しているように思う。
そんな中、労働人口不足に対して、日本教育の現状を切り口に思うところを書いてみたい。

本当に労働人口不足か?

まずこちらのグラフを見ていただきたい。

こちらは、日本政府が発表している労働力人口の推移である。労働力人口とは、15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口のことである。

昨今で「労働力不足!」「人材不足!」と叫ばれているが、2012年からの労働力人口の推移をみると、労働人口はむしろ増加している。

直近だけを見ても、労働人口は2021年から2022年にかけて約5万人の減少があるもの、2022年の全体では6,902人の労働力人口がいることに対してその減少率は小さいと言える。

すなわち、世間で人材が不足していると言われているほどに労働力人口は減少していないことが分かる。

人によっては、この事実はにわかには信じられないかもしれないが、このデータは政府が公開してるオープンデータで、誰でも簡単に見ることができるものであって、隠蔽されているようなものではない。

実際に、筆者もインターネットで簡単に検索してこのデータにたどり着いた。

労働力人口について、少し違った見方をしてみよう。

こちらの表は、労働力人口比率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)を男女別、年齢別にまとめた一覧表である。

文字が小さくて恐縮だが、表の左下、男女計の総数を見ると、2021年に対して2022年は0.4ポイント増加している。
つまり、15歳以上の全人口に対して、15歳~64歳の労働力人口の割合は増加しているのだ。

これだけ「高齢化!」と言われていても、まだ現時点では労働力人口自体は変化なく、むしろ全人口に対する労働力人口が増加していることは紛れもない事実なのである。

しかしながら、これらデータを読み解くことなく、「少子化だから」「高齢化だから」「労働人口が不足しているから」という“先入観”だけで現在の人材不足を盲目的に受け入れようとしている状況にまず待ったをかけたい。

上記のグラフは、実際の就業者数の推移を示している。

こちらも、コロナ禍直前までは増加トレンドであり、コロナ禍以降もほぼ横ばいであり、実際の就業者数も減少していないことが示されている。

コロナ禍前の就業人口の増加は、アベノミクスの効果と言われており、正規雇用の促進や女性活躍、シニア人材の再雇用の促進などがあり、この間で、国民の給与所得の総額は増加している。

このアベノミクスの賛否や給与所得総額の増加に対して実質賃金が低下していた事実などについては、別の著作にその議論を委ねてこの記事では割愛し、あくまでも労働力人口に着目して論じたい。

なぜ人材不足と言われているのか?

次に、労働力人口自体は減少していないのに、なぜ人材不足と言われているのかを考えてみたい。

そのために、まずはこちらの表を見てほしい。

こちらは、産業別の就業者数の推移をまとめた一覧表である。

一つの目安は、コロナ禍が本格化した2020年の就業者対前年増減を見ると良いだろう。

コロナ禍により一般消費が著しく落ち込み、非農林業の中でも建設業、製造業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業などの就業者数が大きく減少した。

一方で、情報通信業、不動産業、物品賃貸業、医療福祉、公務などは就業人口が増加している。

そして、そんな2020年に比して2022年までの推移をそれぞれの業界で見てみると、建設業や製造業は就業人口の減少が継続し、卸売業、小売業は2022年に大きく就業人口が減少し、宿泊業、飲食サービス業は2022年に増加に転じたものの、2019年の水準までは戻っていない。

そんな状況下で、情報通信業や教育学習支援業、医療福祉、公務などは逆に就業人口が増加し続けている。

実は、就業人口が増加し続けているこれらについては、それぞれ説明がつく。

例えば、情報通信業は、コロナ禍でのオンライン技術の普及やそもそもの日本のIT人材の不足などを背景に、就業人口が増え続けていると言えるし、教育学習支援業については、こちらもコロナ禍での巣ごもり需要による通信教育などの普及が考えられる。
医療福祉に関しては、コロナ禍の影響もあるが、高齢者や障がい者の増加による求人の増加があり、公務は、コロナ禍で落ち込んだ経済を持ち直すための社会福祉や産業支援の充実のための制度の運用に人手が必要になったと考えることができる。

さて、ここで日本の産業の構造を見てみたい。

こちらは、ものづくり白書2023から引用したグラフであるが、日本の業種別GDP構成比を示している。

製造業、サービス業、卸売・小売業、(不動産業)、建設業、と並んでいる。

先ほどの、就業人口が減少している産業をもう一度並べてみよう。

就業人口が減少しているのは、建設業や製造業は就業人口の減少が継続し、卸売業、小売業は2022年に大きく就業人口が減少し、宿泊業、飲食サービス業も2019年の水準には戻っていない。

と記述した。

日本産業で大きなGDP構成比を占める産業の就業人口だけが不足していることが分かる。

つまり、人材不足の正体は、労働力人口全体の減少ではなく、日本産業の中で大きなウエイトを占める産業の人口が減少していることであり、日本産業にとってそのインパクトが大きいということである。

就業人口が減少している就業者はもともとどんな人材が多いのか

ここで、就業人口が減少している業種の就業者像に着目していこう。

建設業

実際に現場で作業する人材は、一昔前、二昔前であれば、工業高校などを卒業し、実技を身に着けた人材が主であっただろう。
勉強には自信がないが、体力と腕や手先の器用さには自信がある職人がイメージされる。

製造業

こちらも建設業同様に、工業高校で汎用機械や電気設備の扱い技術を身に着けた職人を目指す技術者が現場にいて、そうした現場の技術力をベースにして日本の製造業は発展してきたと言っても過言ではない。

卸売業・小売業

こちらは、商業高校などを卒業して商売の基礎知識を身に着けた人材が、仕入と販売、差額の利益という原理原則に基づいて商売をする組織の一躍を担う業界である。
また、小売業においては自ら食品などを製造する職人も多くいたであろう。

宿泊業・飲食サービス業

こちらは、日本全国にある旅館やホテルなどの接客業、飲食業においてもホールスタッフなどの接客業を思い浮かべると、勉強は苦手かもしれないがコミュニケーション能力には長けている人材を思い浮かべる。
余談ではあるが、接客業はその昔は“水商売”とも言われていた。
また、宿泊業も飲食業も先代からのお店を引き継ぐなど、経営の基本を知っているいわばインテリとは違う存在の人が事業を行っているケースも多いであろう。

これらの業界は、“大学卒”ましてや“大学院卒”などの学歴は全く不要で、高校卒業、もしくは中学卒業と同時に仕事を始め、その経験と腕で経営を行い、日本産業発展の足元を支えてきた。

言い換えれば、こうした学歴を持たない人材こそが、日本産業を下支えしてきた存在だと言っても過言ではない。

学歴社会となってしまった現在の日本においては、この事実に改めて目を向ける必要があるだろう。

学校数に見る現代の歪さ

言葉は悪いかもしれないが、これまでの日本は大学卒以外のいわゆる低学歴の人材がその経済の発展を支えてきた。

その事実を踏まえて、こちらのデータを見ていただきたい。

最終学歴を見ると、若い世代になるにしたがって大学・大学院卒業者の割合が増えていることが分かる。

つまり、日本経済を支えてきた人材の割合は減少の一途を辿っていたのである。

なぜ大学卒・大学院卒の割合が増加してしまったのかを考えると、その理由は多様化する価値観や就業の選択幅の増大などの社会的背景も思い浮かぶが、ここで一つの事実を示したい。

こちらは、文部科学省が公表しているデータを筆者がまとめ直したものである。

昨今の少子化も相まって、小学校の数は大きく減少しており、中学校も高校も減少のトレンドである。

一方で、大学の数だけは増加し続けている。

日本政府や文部科学省の方針として、特色のある研究の促進、世界をリードする研究の促進を掲げている背景もあり、大学はさまざまな学部や学科が乱立し、増加の一途を辿ってきている。

そして、そのトレンドに乗っかるようにして、大学卒・大学院卒の割合が増加したと言えるのではないだろうか。

つまり、日本経済の発展を下支えしてきた人材は減少し、本来であれば、日本経済の発展を下支えする人材になったであろう人たちが大学卒・大学院卒のレッテルを得て、逆に付加価値を生み出しにくい業界へと行ってしまったのではないかとも思える。

「大卒なのに全然使えない!」などという言葉が各業界の現場レベルでは飛び交ってもいるが、それは至極当然ともいえる。

現場で成果を出してきた人材は、大卒・大学院卒ではなかったからである。

だからと言って、一概に大学卒・大学院卒を否定するものではない。
もちろん、将来のイノベーションを生み出す研究は大切であるし、各業界においての研究開発や企業運営を行う人材も必要である。

ここで言いたいのは、そうした人材のバランスのことである。

直接的に付加価値を生み出す人材と、間接的ではあるが組織を運営したり技術開発をしたりして付加価値創出に貢献する人材のバランスが重要なのではないかと考える。

今後の日本の学歴との向き合い方

ここまで考えれば、人口に対して大卒・大学院卒の割合を適正に保つために大学の数を減らすことは一つの方向性の方にも思える。

しかしながら、大学は教育機関であるとともに研究機関でもあり、政府の方針は世界の中の日本を考えたときにそう簡単に変えられるものではない。

さらに、大学に通う学生がいることは、その町の経済を支えている市民でもあり、大学は町の経済発展の一躍を担っている側面もある。

従って、「大学を減らせ!」というのは安易な考え方でもあるかもしれない。

そこでもう一つの方向性として考えらえるのは、「大卒・大学院卒をそれまでの大卒・大学院卒と同等に扱うな」である。

つまり、大卒・大学院卒だからと無条件に研究開発職に配属したり、総合職に配属したりすることをやめ、人物に合わせた職種に配属する社会になることが最も良いのではないかと考えている。

世間では「学歴フィルター」と言われてはいるが、その実態は“学歴”によるフィルターではなく“大学”によるフィルターである。
そんな学歴フィルターも、企業側からすればうまく活用すれば良いと思う。

つまり、研究開発職や総合職に向いている大学、現場で直接的に付加価値を生み出す職種に向いている大学、それらをうまく区別しながら採用活動を行えばよい。

そして、昨今では国家資格として活躍しているキャリアコンサルタントも、学歴や大学によらない本人の適性を見極め、適切に導いてあげてほしい。

時には本人の意思に反することがあったとしても、本人のやる気と能力のギャップをきちんと指摘し、適した職種に導いてあげることも仕事であると思う。

意思と能力のギャップに気が付かないことは、本人も雇った企業も不幸にしてしまうからである。

話を元に戻すと、大卒・大学卒の学歴による適職に関する思い込みを捨てて、日本経済発展のために本来必要な職種に人材を適切に配分する社会になることを期待したい。

企業側だけでなく、若い世代の人においても「自分は大卒・大学院卒だから頭脳労働!」と決めつけずに、自分の適性を発揮できる業種や職種を冷静に見極めてほしいと思う。

もちろん、市場原理によって、そうした日本経済に直接的に寄与する職種の給与が高く設定されることも必要であるが、この記事では学歴と労働力人口の範疇に留めておきたい。

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