エロコンテンツは常に弾圧を受け続ける"弱者"である #1

目次
『AV業界の大転落』
『具体的な数字から見るAV業界の凋落』
『エロに対するゾーニングは都市規模で行われている』

 何回か表現規制問題やゾーニングに関するノートを書いたが、今回は少々切り口を変えて「エロコンテンツが置かれた現状」についてお話しておこうと思う。

『AV業界の大転落』
 いきなりでなんだが、どうにも世間様(というか男性向けエロが憎くて仕方のない人々)は、エロというジャンルが今でも "強者" であると認識しているように思えて仕方がない。
 確かに一昔前は「困ったらエロ、金にしたければエロ」という時代があった。私の古巣のAV業界も、以前はちょっとヒットシリーズを飛ばせばすぐに億単位のお金になる羽振りの良さがあったし、売れっ子監督ともなれば「1万本は売れて当然」という前提で予算が立てられていた。
 だが、インターネットでmp4だろうとaviだろうと楽にやり取り出来るようになった辺りから、海賊版や違法アップロードが横行し、それによって購買者の減少に歯止めがかからなくなった。
 また、そうした風潮を大手出版社のコンビニ売りの有名週刊誌などが後押ししていたのも問題だ。私も何度か知人の編集者から情報提供を求められたが、「海外サーバ系の動画サイトで無修正動画を見る方法」や「違法アップされた海賊版AVをタダで見る方法」といった特集記事が、PCもロクに扱えない50代以上のオッサン層に何故かウケるらしく、そうした情報を定期的に掲載していたのだ。
 しかし、有名雑誌にそれをやられると、暗黙の了解で「AVはタダで見られて当然のもの」と認知されて当然ではないか。さすが、僅かばかりの減税のために出版屋としての魂を売り渡すようなバカだらけの業界だけの事はある。まさか駅売り・コンビニ売りの週刊誌の誌面で、犯罪行為に手を染める方法を堂々とレクチャーするなんて……。
 そうした流れに加えて、ここ何年かで出演強要問題などで完膚なきまでに業界イメージが悪化し、さらには業界内の萎縮や思考停止や "逃亡" が相次ぎ、もはや滅びの日がいつになるのか指折り数えているような状況である。

『具体的な数字から見るAV業界の凋落』
 上にも書いたように、良い時では売れっ子監督の作品なら1万本売れて当然だったものが、今や有名メーカーの人気シリーズであっても、1~2千本も売れたら胸を撫で下ろすような有様だ。その数字だけで単純に判断するならば、全盛期の1~2割ほどにまで売り上げが落ち込んでいる事になる。
 実際には、昔よりも撮影予算を大幅に削るとか、二次使用三次使用(いわゆるオムニバス作品など)が当たり前になったお陰で、利幅という面ではそこまで絶望的でもないのだが、とはいえ良かった頃に比べたら目も当てられないほど「食えない&夢がない」職業になってしまった。
 これは制作メーカーだけではなく、AV女優や男優、さらには技術スタッフも同様で、まずAV女優など良い時には1本2~300万円というギャラも有り得たのに、今では人気の単体女優でも1本100万円が上限という相場になっている(元芸能人だの付加価値が付く場合は別)。
 しかも、これは単体女優のギャラだけが大きく減ったのではなく「ギャラのボリュームゾーン」が最も良い時代の半値ほどに下がっているのだ。十数年前は1本100万円が人気AV女優としての合格ライン。1本50万円くらいが知名度はイマイチだけど一定数ファンはいるよねといったところ。それ以下のギャラでしか回れない子は業界を辞めた方がいいという相場だったのに、今では名のある人気女優でも、1本50万円程度で回ってる子がザラにいると思われる。
 こうした状況であるから、もはやAVは昔のような「裸になれば楽に食える」といった職業ではない。そんな甘ったれた考え方で入っても、金にならないだけではなく、最悪の場合は回復不可能なまでに人生がぶち壊しになるリスクまである。(強要騒動のドサクサでAV女優も公然わいせつなどで逮捕されている事をお忘れなく)
 一番の売り物であるAV女優がこの有り様なのだから、男優や技術スタッフなど推して知るべしだ。以前は超有名映画監督の現場スタッフが、ヒマな時にバイトで仕事を請けていたのに、今ではギャラが酷すぎる事に加え、社会的な風当たりも厳しいため「だったら行かねえよ」となってしまっている。

『エロに対するゾーニングは都市規模で行われている』
 これはAV業界に限らない話だが、「売れなくなった」という以前に、「売り場が減る一方」という面も無視できない。例えばAVの場合、ネットを徘徊すれば販売サイトがいくつかあるが、現実の街の中で実際にパッケージを見て買おうとなると、東京なら秋葉原、大阪なら日本橋といった具合に、AVショップが集まっている大きな街を訪れるしかない。地方ともなると状況はさらに悪く、一昔前は街道沿いのあちこちにAVショップが点在していたのだが、AV不況のせいで閉店が相次いでおり、ネットのダウンロード以外に購入方法がない場合も多い。
 ではAV以外の、例えば18禁のエロ本などはどうかというと、これもコンビニの書籍コーナーから締め出しを受けており、昔と比べると非常に扱いが悪い。しかも、エロ本コーナーがあってもテープでグルグル巻きにされているため、中身が確認できず、これでは "信用買い" してくれる昔からの読者以外が買う訳がない。
 では本屋ならば専用の売り場があるだろうと思うかもしれないが、そもそも本屋自体がもう何年も前から絶滅危惧種である。また、本屋という業種の中でも比較的集客数が多いと思われる駅ビル店の場合、ビル全体のお約束で18禁の商品が置けないというケースが多い。試しにどこか適当な大きな駅の中の本屋を覗いてみて欲しいが、18禁コーナー自体が無い店が殆どだ。
 こうした事から、エロというジャンルに属す商品は、そもそもが普通の店に普通に置いてあるような物ではなく、専門の店ないしは "専門の街" に行かねば手に入らないような物だと理解できるだろう。
 エロコンテンツに対して、すでに "都市規模" で厳し過ぎるほどのゾーニングが完成しているのだ。(続)

◇ CM
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