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担当は猿之助 |エッセイ


前回、仕事が決まりそうになった話を書いたが、
あの日のことを振り返ると
なんだかとてもムムムの気分になるので、
蒸し返してしまい申し訳ないが聞いてもらいたい。

あの日、私は1日に2件の顔合わせが入っていた。
1件目の担当は全ての相槌が
「承知でぇす」
というギャルで、
顔合わせ本番の時も、
特に介入することなく
隣でケータイをいじっていたため(オンラインだったので会社側の人には見えていない)
ほぼ私のソロの戦いとなっていた。

1件目ですでに疲労困憊だったが、
すぐさま2件目へ。
顔合わせ会社の最寄駅で次の担当と待ち合わせをしていたので、指定された出口で待機した。
5分ほど待つと
「もしかして、、おしみさんですか、、?」
と後ろから声をかけられた。
マッチングアプリなどしたことはないのだが、
マッチングアプリの待ち合わせのようだ。

顔はまさに猿之助であった。
猿之助としか言いようがない顔だったので、
自己紹介されても本名など覚えられるはずもなく、
心の中で猿之助と名づけ、呼ぶことにした。

打ち合わせ後、時間が余ったので
なぜかセクハラの話となり、
「僕も学生の頃は、お風呂一緒に入ろうよ。
とか、胸ちょっと触らしてよ。みたいなこと
普通に言ってましたけど、今言ってたら大問題じゃないっすかぁ」
などとペラペラと語っていた。
猿之助の顔でそんな話をされても、
全く洒落にならない。
「今じゃなくても問題じゃないっすか。」
と私の本心を吐露したところで、
そろそろ時間だから向かいましょう、ということになった。

実際、顔合わせ中の猿之助は非常に役に立った。
私がほとんど話さなくても
どんどん話は進んでいき、あっという間に
是非働いてください!とあちらに言わしめていた。
先程の、【承知でぇすギャル】が比較対象なこともあり、
とても優秀でありがたい人のように思えたのだ。
先程のセクハラ話を忘れてしまうほどには、、。

午前中の件も含めて、また検討して連絡ください
と言って別れたのだが、
帰宅の電車に揺られている時から
猿之助から電話がかかってきていた。

家に到着するまでに3件も不在着信が入っていたので、
帰宅早々折り返すと、
明日の朝までに返事が欲しいとのことなので、
やるかやらないか決めてくれ、とのことだ。
ぶっちゃけ、私の中で猿之助の案件は
残業が多い、駅からめちゃくちゃ歩く、大手ブランドを振りかざす傲慢社員がいると言っていた、などの理由から全然なしだったので
「午前中顔合わせした方が時給も良かったですしリモートの割合も多く、私の条件に合っていたので」
とお断りにシフトしていたのだが
気付かぬうちに
「じゃあ、、やります、、」
と言ってしまっていた。

この間、何があったのか。
冷静に思い返してみると
「こんな大手で働けるなんて、本当にすごいことですよ。転職するのにもこの名前があると本当に楽だと思います。とりあえず1年でもやればすごいキャリアになりますよ」
とおだてられた。
後に自分がキャリアを求めていないことに気がついたが、この時は何故かなびいてしまった。

「時給は本当に頑張って、、100円上げる交渉をしてみます。いや、もうここで約束します。
プラス100円でなんとか!!どうですか?
休みも僕が交渉するんで大丈夫です!」
とも言っていた。
なぜかとても好条件な気がした。

また、
「今月末で担当区域が変わるので担当はチェンジさせていただきます。」
と言っていたが、
「おしみさんが働いて下さるのなら、
僕があと2、3ヶ月担当させていただきます!
後任と2人体制でばっちりフォローしますから!
これでなんとか勘弁してもらえないですか?」
とのこと。
挙句の果てには
「もう、呑み行っちゃいましょう!!」

こちらからすれば、はて?でしかない。
今日初めて会った人間にそこまで思い入れなど
あるわけなかろう。
担当継続や、呑みに行く約束がそんなに価値があるものだと思っているのだろうか。

冷静になると、猿之助!!なんやねん!!
と思えるのだが、
ちょっと考えていいですか?と切ろうとしても、
絶え間なく話続ける。
ちょくちょくと、
「これは内輪の話なんですけどね」
「今、会社の誰にも聞かれないところでこっそり電話してるんですけど」
のような、私はあなたの1番の味方ですよ感を出しまくってくるので、正常な判断が鈍ってしまった。
我ながらちょろいものである。

電話が終わり、
母に18日から仕事だという報告をすると
「なんでそんな嫌そうに話すのにやろうと思ったの?」
と言われ、一瞬にして目が覚めた。
私、嫌じゃんか!!!

夜も遅かったこともあり、電話はもう無理。
でも日を跨いだら良くない気がする。
話したらまた洗脳されてしまう気もするし、刻一刻を争う事態ということで、
メッセージで辞退の連絡をし、事なきをえた。

あのまま働き出してしまっていたらと思うと
肝が冷える。
なぜ猿之助は、この仕事を私にゴリ押ししてきていたのだろうか。
大手で正社員を目指せる仕事など、
多くのバリキャリ目指しがやりたいであろう。
最後に聞いた、
「これから僕、一生懸命書類作るんで!!
一緒に頑張りましょう!!何でも困ったことあったら電話してくださいね!」
が猿之助の笑顔と共に耳の奥に残って離れない。


おしみ
1998年3月生まれ
仕事を辞めて絶賛ニート中
毎日楽しいよ

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