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映画感想文│『アンビュランス』『ザ・メニュー』

GWくらいからか、私の中の映画観たい欲が猛烈な勢いで膨らみ続け、1日2本くらいのペースで様々な作品を鑑賞し続けている。もう何度も観ていて終盤は眠くなってしまう映画、何度観ても途中で寝てしまって結末を知らないままでいる映画、飽きる程観ているのに飽きない映画など色々あったが、今回は初鑑賞で鮮烈な印象を残した2作について書きたい。

アンビュランス

原題「AMBULANCE」。

想像を超えるド派手アクションで観る者すべてを圧倒し、映像表現の新次元を開拓したハリウッドの“破壊王”=マイケル・ベイ監督によるアクション超大作がついに完成。

ジェイク・ギレンホール、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世、エイザ・ゴンザレスらハリウッドを代表するスターが集結した本作は“銀行強盗の逃走車が救急車”という前代未聞の衝撃的なストーリー設定。まるで観客自身も暴走する救急車に乗り込んでいるかのような臨場感溢れるカメラワークで、あらゆる予想を裏切る展開がノンストップでスクリーンを駆け巡る!

https://www.universalpictures.jp/micro/ambulance

トランスフォーマーシリーズを観て疲れ果てた大人たちを更なる混迷の渦へ叩き落さんが如く136分間ほぼ全てがアクションシーンという、ある種の開き直りとも取れるような執念の一作。

いつものジットリ舐め上げるようなカメラワークに加え、ドローンによる予測不可能な急降下や急接近が、CGによる演出では得られないような映像体験を生んでいる。

そしてほぼ最初から最後まで疾走し続ける救急車。その中で繰り広げられる手術アクションについてはファンタジー色が濃いが、今更なかなか被弾しない主人公に難癖を付ける人は居ないだろう。その辺のファンタジーについてはもうそろそろ飲み込んでくれよな!と言うベイおじさんの声を私は確かに聴いた。

とにかくハイテンションに息つく暇さえ与えずロサンゼルス中を走り回り、多くの犠牲を出しながら湯水の如く湧くパトカーを爆発させ続け、警察もマフィアも巻き込んで破壊の限りを尽くした挙げ句、最終的には人質として救急車内で頑張っていた救命士(小麦色の肌をした美女)が少しだけ成長を噛み締めて終わるという映画だった。

大袈裟な仕掛けと派手なギミックを惜しみなく注ぎ込んだ、とてつもなく小さな話として纏まっている点に皮肉が効いていて、良い意味でバカバカしくて笑えてしまう。

「アクション映画のアクションシーンは物足りないくらいが丁度良い」という言葉は私が「ジョン・ウィック:パラベラム」を観終わって残した一言だが、本作は何しろ100分くらいがアクションシーンである。物足りないどころか映画四本分くらいに匹敵する。しかもそれはほぼベイヘムとも呼ばれるベイおじさんお得意のカーチェイス或いはベイおじさんが大好きな過剰に弾薬を消費する銃撃シーンである。

終盤に一度救急車から降りる場面で一息ついて安心かと油断した途端、そこから更にコッテリ濃厚なカーチェイスが始まるのだ。食いきれないくらい大盛りのカツ丼を食べ終えたと思ったらデザートに特大のチョコレートパフェが運ばれてきたような感覚だ。しかしそこで「もう疲れたからやめよう」とならないのはベイおじさんの手腕と言えるだろう。

車が変形しないことに違和感を覚えるくらいにトランスフォーマーな雰囲気と、100%ピュアナチュラルなベイオイルを浴びるように楽しめる充実の一本だった。合間合間の会話シーンや、そこで交わされるジョークも良いぞ!

監督自身、かなりノリノリな印象を受ける点もまた、笑顔になれる要因である。トランスフォーマーは途中からかなり投げやりな感じがしたし…。

ザ・メニュー

原題「The Menu」。ヘンな邦題が付かなくて本当に良かった…。

サーチライト・ピクチャーズが贈る、極上のスリルに満ちた驚愕のフルコース・サスペンス!死ぬほど素敵な夜(ディナー)へようこそ。太平洋に浮かぶ孤島の人気レストランを訪れたカップル。目当ては予約が取れない超一流シェフが振る舞う極上のフルコース・メニュー。ただそこには想定不可能な“サプライズ”が添えられていた。三ツ星シェフが監修した誰もが虜になる“極上の美食”と社会風刺をきかせながら五感を刺激する没入感のある物語が融合した唯一無二の映像体験。(サーチライト・ピクチャーズ作品)【R15+】15歳未満の方は、ご覧になれません。

https://www.20thcenturystudios.jp/movies/the-menu

血管ブチ切れ系大爆発アクションである「アンビュランス」とは対照的に、終始お上品な雰囲気でテンション低めな本作。

しかしその厳かな雰囲気は、本作の皮肉と悪趣味なジョークに満ちたギミックのうちの一つとなっているのだった。

公開当時がどうだったかは覚えていないが、日本でもグルメブームが巻き起こり、ドコドコ産のナニガシを熟成がどうのこうのだの何ヶ月先まで予約が取れないだのそもそも一般人は予約が取れないだのといったような店が持て囃されていた時期があった。

食べる順番を指定したり私語を注意してくるラーメン屋でさえ「二度と行かねぇ」となってしまう私には縁の遠い店だが、本作の舞台となるのはそういう店である。そういう店であることは確かなのだが、肝心のシェフはそういう店に嫌気が差しており、それより何よりそういう店を有難がる客にウンザリしている。

だから本作の料理はどれもこれも仰々しい蘊蓄と丁寧に装飾された至高の一皿として登場するが、そのどれもが美味しそうに撮られていない。作中で美味しそうに見える料理は二つで、片方はそんなグルメの世界を冷めた目で見るマーゴ(アニヤ・テイラー=ジョイ)がテイクアウトする一品であり、これは調理のシーンからして実に丁寧に撮影されていた。観客の多くはここで涎を飲み込むのだろう。

最後のデザート「」は本作随一のブラックユーモアとなっていて、突飛で間抜けな姿をしたグルメブログたちが涙を浮かべて全てを受け入れているシーンはかなり笑える。しかしこれが不思議と美味しそうなのだ。結局手間暇とコストを注ぎ込んだ華美な作品よりも、より身近にある「あ、アレ食べたいな」こそが至高の一皿となり得るのである。

奉仕とは何か、美食とは何かという大きなテーマを絶海の孤島にある小さなレストランという「フォーン・ブース」よりも狭い空間の中で探求していく映画だった。

冒頭から恋人同士には見えない二人のやりとりや、役者陣の細かな演技による丁寧な描写が印象的な一方で、終盤の眠たくなる(ある意味リアルだけど…)格闘戦や、演出重視で辻褄の合わない流れは少しだけ気になってしまった。が、そんなことは気にせず飲み込めとベイおじさんが教えてくれている。面白かったんだからそれで良いのだ。

大袈裟な仕掛けで派手に大騒ぎして小さなテーマに着地する「アンビュランス」と、狭くて静かな限られた舞台の中で大きなテーマを紐解く「ザ・メニュー」。どちらも刺激的で記憶に残る名作だった。

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