見出し画像

映画感想文│弱いウルヴァリンが注射器で戦う!『レミニセンス』

近未来の戦争によって水没した世界。そこには記憶を辿り、更にその記憶を映像化できる上に保管まで可能な機械が存在し、金持ちは幸せな記憶の中で生き続けるという選択も可能なのだ。

と、ここまでは面白そうな話である。実際、話自体がつまらないわけではないし、ディストピア系のSFとして観れば総合的に悪くないのかも知れない。

しかし私にはどうしても合わなかった。

ヌルめのアクション、やや冗長なモノローグ、モタモタした追走劇、宙に浮いたまま活かしきられない設定、何だかよくわからないラブロマンス、そして一番は主人公の動機を実感しにくいところが原因だろう。なぜ彼は…の部分がアッサリし過ぎていて、見ている側に情熱が伝わらず、結局全編通してボンヤリ見つめるしかないのだ。誰がどんな窮地に陥ろうとも「ああ、そう…」くらいにしか思えない。

主演がヒュー・ジャックマンじゃなければ最後まで観られなかったかも知れない。しかしその主人公も、退役軍人で脚を負傷しているという設定は耐久面にのみ反映されており、多少痛がりはするものの散々走った挙句にビルからビルへ飛び移った後の着地にも耐えている。水中で気を失っても簡単に復活する上、浮上後は笑えるくらい音もなく忍び寄れる程だ。きっとヒューにはまだアダマンチウムが残っている。

軍人であったことを示すタトゥーが1度だけ役に立つが、それ以外で何か起こることは無い。バットマンのように銃を使わないという主義なわけでもないのに、決して銃では戦わない理由もよくわからなかった。2丁拳銃でカッコ良く戦ってくれそうな一見すると重要そうに見える敵は、闇雲に乱射するばかりでアッサリやられてしまい、結局大して重要なキャラクターでも何でもなかった。何だかどれもが、都合をつける為の設定という印象が強くて思わず眉をひそめてしまう。

また逃走する側も何だか手際が悪く、元汚職警官は地の利を得ているにも関わらず何度も簡単に返り討ちされてしまう。やはり彼はウルヴァリンなのか…。

そうは言っても脚本自体は意外ときちんとしており、多少の無理に目を瞑れば最後は筋の通った答え合わせをしてくれる。とは言っても「インターステラー」のようにハッとさせられる予想外の展開や、少しずつ気付かされる気持ち良さも感じられない。それぞれのギミックが想像の範疇を越えるものではなくて、「まぁそうでしょうね」となってしまうのが何だか寂しい。また、概ね大体の問題は痴情の縺れや謎の恋心が原因で起こっているので、ある意味ではリアルな気もするし、全体的に漂う所詮人間なんて…という諦めにも似た雰囲気とはマッチしている。ただ少し話が散らかり過ぎていたと思う。その割に結末は虚しい。ハッピーエンドとかバッドエンドとかではなく、画面に広がる世界のように、ただただ空虚だ。

だからきっとこの映画は私のような人間が楽しめるタイプのものではなく、もっと別な考え方や観方をする人たちに向けた作品なのだろうと思わされた。

とにかく長く感じてしまったし、オープニングからエンドロールまで音楽の趣味がイマイチ合わなかったのも具合が悪い。

決してつまらないわけではないけれど、作中の装置でも使わないと内容を思い出すのは困難な作品だった。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?