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カワイイ骨壺に盛れる棺桶!葬儀具の可能性を拡げるデザイナーの想い(後編)入棺体験と生前葬は自己肯定感を上げてくれる「儀式」

可愛く華やかなデザインの骨壺、棺桶、最後の衣装などをプロデュースしている布施美佳子さん。前編では、布施さんが葬儀周りの活動を行う理由やきっかけ、活動の主な内容について伺いました。
後編では、布施さんがプロデュースする入棺体験や生前葬について、そして終活をするうえで大切と考えていることについて伺いました。
(聞き手:Ohmyso編集部)

入棺体験での一コマ。愛知県一宮市名産のツイードで仕上げた棺桶。儀式空間も自分らしくコーディネート

気楽に参加できる「入棺体験」で死を日常に戻せれば

――布施さんがプロデュースする入棺体験は、ただ棺に入るだけの経験ではなく「盛れる写真が撮れる」(!)と若い世代に人気だと伺っています。入棺体験を行う団体は他にもありますが、そこがかなり違いますね。

リボンにフリル、キャラクター。女の子の「好き」が詰まった棺桶に、自分が選んだ衣装で納まる入棺体験

棺桶を人形のパッケージに見立てて、まるで自分がバービー人形になったかのような写真を撮影できたりもします。ただカワイイ写真、盛れる写真が撮れるからと、気軽に来て欲しい。そして棺桶に入ったら「思いがけずスッキリした」という思いを味わってもらえたら嬉しいと考えています。

というのも、あまり前面には出したくないですが、入棺体験によって死を身近に感じる機会を提供したいという思いが根底にあるためです。前編でお話ししたように、私は死について深く考えてしまうような子どもでした。でも、現実ではなかなか親や友達と生死に関する話はできませんでしたし、みなさんそうだと思います。

ただ、話せなくて自分の中で考えてしまっていると、よけいに死への憧れが強まってしまうように感じるんですよね。いったん死について口に出してしまえば、自分の人生とまっすぐつながっていることが分かる。人生の終着点が死ですから。本当に日常と隣り合わせなのに、なぜかそこには触れちゃいけないから、憧れになったり、逃避先になったりしてしまっているのではないかと。

入棺体験は仮の死を体験することですから「ここで自分の本当の気持ちを確認してみてね」という思いで行っています。みなさん、棺桶に入る3分間で生や死についていろんなことに気づくようです。そして棺桶から出てきた後、「なんだか生まれ変わったような気持ちになった」とつぶやく人が少なくありません。

「入棺体験は涙活になる」と言ってくれる人もいるんですよ。棺に入って、自分が亡くなることをイメージして大号泣してスッキリするのだと教えてくれて、そういう効果もあることに初めて気がつきました。

入棺体験ワークショップで棺桶に納まる布施さん。葬儀のときと同様に、お別れのためのお花が顔まわりを彩る

自己肯定感が上がる生前葬のすすめ

最近では、模擬納棺式を取り入れた生前葬のプロデュースを行いたいと考え、準備をしているところです。

入棺体験をいくつか行って強く感じたのが、儀式こそがふだん感じていない感情を表に出す機会だということです。棺に入る本人の気持ちも、それを見ている参加者の気持ちも高まってきて、ふだん隠れている感情が表に出てきやすいのです。そしてその感情を言語化することでより感動的な体験になる。生前葬を行うなら、納棺式を取り入れるのは絶対にやりたいと思いました。

その効果を確信したのは、昨年リハーサルとして行った自分の模擬生前葬です。20人の友人に来てもらい、自分のこれまでの人生を紹介した上で模擬納棺式を行いました。すると皆が納棺式の場でふだんは言わない私への気持ちを伝えてくれて。友達同士でも、そういうことってなかなかしゃべらないじゃないですか。「あなたのこういうところが好きだった」「こういうところに感動したよ」と言ってもらえたのがとても嬉しくて、自己肯定感がすごく上がりました。その経験だけで、この先10年は何があっても生きていけるのではと思えるくらいに。

恐らく、これは儀式という場だからこそ表れた効果だと思います。例えば、友人の誕生日にコメントを贈るといっても「誕生日おめでとう。今年もよい年になるといいね」といった表面的なことを書くくらいだと思うのです。儀式で感情が出やすくなって、何より自分のなかで口に出したくなるというのがいい。結果、気持ちを伝えてもらった本人はめちゃくちゃ褒めてもらえることで自己肯定感が爆上がりする。自分でやってみて初めて、生前葬というのは本人にとってとても良いものなんだと感じました。

とくに日本人は、ふだん褒められる機会がとても少ないと思います。生前葬は、たくさん褒めてもらえるチャンスです。

――参加される側にとっても、改めて「故人」役となった人との絆を大事にしたいと思える大事な機会ですね。

はい。参加した方に「私もぜひ、これをやりたい」と思っていただけるような生前葬をと、空間や式次第のプロデュースを含め準備を行っているところです。

あなたにとって大切な人と同様の価値が、あなたにもあることを忘れないで

スワロフスキーのクリスタルを散りばめた豪華なデザインの骨壺は、まるでフランスの貴族が使っていたキャンディーポットのよう。蓋の裏側にフォトフレームを入れられるデザイン

――葬儀周りのさまざまな活動をされるなかで、自分らしい終活を進めていくときに大事にすべきと感じていることはありますか?ぜひ、読者にアドバイスをお願いします。

終活をしておきたいと考えている人のなかには、「自分が亡くなるときには最低限の葬儀でいい」という人も一定数いると思います。一般的な葬儀をしたくない、人の手を煩わせたくないというのも自分らしさですし、本当にそう考えるのであれば、自分の感覚を大事にしてほしいです。

でも、もしその根底にあるのが自己肯定感の低さだったなら。「自分にはお金をかける価値なんてない」と考えているのであれば、その感覚を紐解いていくとまたちょっと違う自分が見えてくるのでは?という、お節介な気持ちもあります。

気がかりなのが、「私が亡くなったときは特別なことをしてほしくないと思うけれど、見送る側だったら本人が望むような葬儀をしてあげたい」という声です。自分の大切な人と同様の価値が、自分にもあると考えてほしいなと思います。

自分の本当の気持ちを考えるためのタッチポイント[GT1] として、私のデザインした骨壺や棺桶、入棺体験、そして生前葬がお役に立てれば嬉しいです。

――死を疑似体験することが自分の葬儀について考えるきっかけになると同時に、とくに納棺の儀式は自己肯定感を上げるためにも有効、ということですね。

自分の何かを褒められるときって、ふだんは「そんなことないよ」と謙遜してしまいますよね。でも棺桶に入っているときは「故人役」を務めているので、反応できません。褒め言葉をそのまま受け入れるしかないんですよ。絶対に否定できない、それが本当にいいと思っています。自分が幸せになるための儀式を、ぜひ体験してほしいです。

(写真提供:布施美佳子)


【布施美佳子(ふせ・みかこ)プロフィール】

布施美佳子(ふせ・みかこ)

布施美佳子(ふせ・みかこ)
アパレルメーカーを経て1999年にバンダイへ入社。2015年、自分の好きなデザインの骨壺に入りたいという思いから「GRAVE TOKYO」を立ち上げる。棺桶や骨壺、最後の衣装、位牌などの葬儀具デザインを行うほか入棺体験や生前葬企画も手がける。


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