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似た構造の何か

開店前の居酒屋の前を通った。入り口が開いていたので何気なく中を覗くと店員が皆でテレビの野球中継に見入っていて、なんとなく自分が店員の一人としてその中にいる状況を想像して苦しくなった。

多分僕は周りに比べて圧倒的に野球に関心がないのだが、それを態度に出して空気を壊すのも悪いので、なんとか自分も見入っている感じを装うのだろう。そして、打とうが走ろうが何とも思ってもいないのに「おー!!」とか言っている自分がだんだん嫌になってきて、しだいに気が滅入ってくるに違いない。周囲も僕がそこまで興味を持っていないことを察知して話を振ってこないので徐々に輪に入れていない感じが際立ってきて、しかしテレビを見ている演技は始めてしまっているので急に止めるわけにもいかず、試合に動きがあるたびに誰にも必要とされていない「おー!!」を義務的に発するのである。そんな白々しい「おー!!」を定期的に店内に浮遊させながら、僕は一刻も早く開店の時間が来ることを願うのだ。

ああ、この店の従業員じゃなくてよかった。心からそう思った。店側からすれば勝手に何をジャッジしてくれてるんだという話だが。そもそも向こうだって僕など願い下げだろう。そういう意味では我々はWin-Winの関係である。いや、Win-Winではないかもしれないが、それに似た構造の何かである。

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