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カナブンさん

アパートの階段に虫がいて「うわっ!ゴキブリか!?」と思ったらカナブンでホッとした。びっくりさせないでくれよ、と思ったがカナブン側にびっくりさせようという意図はない。こちらの勝手な早とちりだ。子供の頃は「カブトムシだ!」と思ったらカナブンでがっかりすることもあったが、そのときももちろんがっかりさせようという意図はなかっただろうから、カナブンには悪いことをしたと思う。

カナブンというのは、なかなか主役として扱われることのない虫である。特にカブトムシ、クワガタ、蝉といったインパクトの強い夏の虫たちの中に入ると地味な印象が拭えず、どうしても「その他大勢感」が出てしまう。よく見ればずんぐりしたフォルムやメタリックなカラーリングなど特徴はたくさんあるのだが、それが突出して目につくことはない。キャラクターは確立させつつも目立たないという、ある意味非常に難しいことをカナブンは実現させているのである。

スターにはならないが演技には定評があり、どんな作品にも馴染む名脇役と呼ばれる役者のような凄みが、カナブンにはある。子供の頃は軽んじてしまいがちだが、年を重ねると徐々にその凄さがわかってくるのだ。不意打ちでゴキブリに見間違うことはあるけれど、僕はカナブンに対して一目置いているのである。

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