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「王子装束ゑの木大晦日の狐火」−官位と農作の行き先が決まる夜−『名所江戸百景』

今日は飲食バイトが泣き喚きたくなるほど混みました。
やたら混んできてからも依然一人のキッチンで注文が溜まりに溜まって、でも追いつかなくて、汗ダラダラ。
頭と背中がじっとりしているのが早すぎてあと数時間このままだと思いながら半泣きキッチンを謳歌していました。

雨だったから暇だと思っていたのに。

そんな汗かきDAYも広重。今回は『名所江戸百景』「王子装束ゑの木大晦日の狐火」です。

◼️ファーストインプレッション

一本の葉の無い木の周りに何匹もの狐が集まっています。
これが「王子の狐」の伝説の一場面でしょう。
その狐たちそれぞれの目の前には炎がゆらゆら浮かんでいます。
そこにどんな意味があるのでしょうか。

木の周りの狐たちに目がいきがちですが、それだけでなく画面右に集団の狐たちがこちらに向かって来ます。彼らも炎を携えているのが気になる。
木の周りの集団と右の集団は何が違うのでしょう。

周りの森が緑が勝っていたり、奥の松も葉を茂らしているのに対し、狐が囲む木の葉はひとつも無いのは何か意味がありそうですね。
狐たちのいる場所がほんわりと明かりが灯されているような印象を受け、実際に見たら目を疑いそうな暗い幻想的な空間。
じっとそれを見つめるしかできない神聖さを感じます。

これまで広重は江戸近郊の風景を写実的に描いてきました。
(少し画面構成のために誇張したり配置を変えたりはしていたとしても)

この1作品だけ伝説の情景を描いているということはこの伝説に何か思い入れがあったのかもしれませんね。
実際にある王子装束神社をそのまま描くだけではちょっと物足りなくて、伝説の一場面にチャレンジしたのかもしれませんね。

◼️王子の狐伝説

前回すっ飛ばした「王子の狐」伝説と今回の「王子の狐火」伝説は別物なのですね。
一つずつ見ていきましょう。

まずは「王子の狐」
これは舞台が昨日見た王子稲荷神社であるみたいですね。

概要は、
「ある男は狐が化ける様子を目にしてしまった。男は誰を化かそうとしてるのかと周囲を見たが自分一人しかいなかったので化かされる前にこちらから、と思い、「お玉ちゃん」と声をかけて共に料理屋に入った。
男性は彼女を酔いつぶれさせて、自分はこの店自慢のお土産の卵焼きをもらって先に帰った。
お玉ちゃんは起きると店の女中に「お連れは先に帰ったし、感情は彼女がと言われた」と言われたのでお玉ちゃんは考え込んだ。
そのうちに尻尾が出てきてしまい、女中が驚き、店のものたちの元に駆けて行きみんなで狐をとっちめようと見にいくと狐は逃げ回り、狐の最後っぺをかまして逃げ切った。
そこにきた主人は「お稲荷さんの使いに何をしている、お陰でこの店があるんだからお詫びに行くぞ」と言い放った。
化かした先の男は友人宅にお土産を持って行こうとしたが、友人は執念深い狐に関わる物は貰えないと断った。
男は帰ったが家の者に異変がなかったので安心していた。
翌日狐と会った所にお詫びに行くと、子狐が戯れていたのでお土産をお詫びだと言って渡す。
子狐達は弱った母狐にそれを渡すと母は「人間は執念深いの」と言って中を確認すると美味しそうな牡丹餅が出てきた。
子狐は欲しがるも、母狐は「だめ、馬糞だったらどうするの」と言った。」

実際ここで終わり?と思ってしまいました。
文字面だけを読むと「…」となってしまうのが笑い話なのであって、実際に落語を聞いてみました。

やっぱり生のお話だと臨場感と掛け合いがよくわかり、リアリティをもって想像することができますね。

◼️「王子の狐火」伝説

これが今回の主題となっている「王子の狐火」伝説。
上の落語YouTubeでも語られている通り、王子は狐が多かったことからいろんな伝説が生まれていったのですね。

こちらについてはあまり長いお話ではないみたい?

むかし、一二月晦日(みそか)の夜、江戸郊外の王子の稲荷神社の付近にあった装束榎(しょうぞくえのき)の下に、多くのきつね火が燃えた現象。これは関八州の狐が、その総司たる王子稲荷のもとに集まって来て、官位を請うためと伝えられ、近隣の農民は、この狐火の明暗によって翌年の豊凶を占ったという。王子の狐。《季・冬》

『日本国語大辞典』

この辞書の説明より、参考にしている『広重TOKYO 名所江戸百景』講談社の方が詳しい説明を載せていらっしゃるのでこちらも交えて概要を説明いたします。

「大晦日の夜には関東中の狐が王子稲荷神社の装束榎の木の元に集まったという。
この木を高く飛んだ順に官位を授かるという儀式が執り行われていた。
その様子を見る近隣の農家たちはこの火を携えた狐の数によって翌日の農業の豊凶を占ったと言われている。」

ということで、描かれている狐たちの木の周りの集団はこれから木を飛ぼうとしている集団でこれから官位が決まる部類。
奥の炎を携えた集団は暗闇の中に位置する王子稲荷神社に向かっているみたいなので、もうすでに官位が決まった集団であるようです。

この狐の数が例年より多いのか少ないのかはわかりませんが、これを見て来年の農業は豊作だとか、飢饉がきちまうとか、考えたのですね。

これに倣って王子装束稲荷神社では「狐の行列」というイベントが催されているらしい。

各々の狐のメイクをして、練り歩くイベント。
確かに広重の描く光景とはまた違うけれど、伝説伝承当時の再現をしているのですね。
これをすることで自分の官位がどうとかはないけれど、大晦日にするととても楽しそうだし、地域特有のイベント感がその地域性を独特なものにしています。


『江戸名所図会』「装束畠衣装榎」の項目です。

「毎歳十二月晦日の夜諸方の狐夥しくここに集り来るる恒例にして今に祀り其燈すせる火影に依て土民明年の豊凶を卜とぞ此事宵におり○た暁になりて時刻定る事なし」

挿絵はかなり広重の絵に酷似していますね。
広重の方が後の作品なのでこの絵を真似たかな?
でも、向こうの稲荷神社につながる狐の集団は描かれていないのでそこは広重の醸し出したオリジナリティと言えますね。

それを追うかのように広”景”の作品に同じ主題のものがあります。

歌川広景『江戸名所道戯尽』「 十六 王子狐火」です。

広景もいつかちゃんと見ていきたいなと思っておりますが、伝わってるものが少ないみたいで足を踏み込めきれない気がする。

こちらでは、狐が神聖な描かれ方ではなく、活き活きとした表情と化かすことに楽しんでいる様子が印象的です。

籠に乗っている男性も化かされていますが、気が良さそう笑。このままにしておいてあげてもいいかなと思ってしまいますね。でもこのまま森の中に連れていかれてしまうと思うと気の毒ですが、、、。

ゆらゆらと揺れている炎が後ろにちらついていますが、この数を見てる農家の人々は描かれていませんね。
ぜひ見てみたいものです。

今日は狐伝説を二つ見ていきました。

一つはあまり関係なくて前回見ておくべきだったけれど。

今日はここまで!
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